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流通:安全な食とは

第9回 TPPが奪う食の主権と安全2013年3月26日

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【天笠啓祐 / 市民バイオテクノロジー情報室代表】

・グローバル化の象徴・GM作物
・種子そして食料を支配する米国の食料政策
・「聖域」には期限があり、必ず聖域ではなくなる
・確実に求められる安全性評価の簡素化

 安倍政権が、多くの市民の反対を押し切ってTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に参加することを表明しました。国の形を変え、食と農を破壊する道に突き進み始めたといってもいいでしょう。

◆グローバル化の象徴・GM作物

 安倍政権が、多くの市民の反対を押し切ってTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に参加することを表明しました。国の形を変え、食と農を破壊する道に突き進み始めたといってもいいでしょう。
 これまでもグローバル化は海外の安価な原料や製品の流入を加速してきました。いまスーパーなどに行き、食品売り場を歩くと、一見国産に思える加工食品でも、その原料のほとんどに輸入食材が用いられています。輸入穀物や野菜は、長距離輸送の際に起きるカビや腐敗などを防ぐため、農薬を多量に用いることを当たり前としています。食品添加物も輸入ものが増大していますが、特に増えているのが中国産添加物で、そこには不純物が多く問題視されています。
 さらには遺伝子組換え作物も増え続け、いまや日本人は世界で最も遺伝子組み換え食品を食べていると見られています。
 進行するグローバル化の象徴が、遺伝子組換え(GM)作物です。TPPによって、GM作物を用いた多国籍企業による食料支配がさらに進み、日本の農業は破壊され、私たちの食卓の危険性が増幅される危険性が強まります。

◆種子そして食料を支配する米国の食料政策

 国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によると、2012年におけるGM作物の作付け実績は1億7030万haになり、世界の農地の10%を超えました。その大半が米モンサント社であり、種子の独占化がすすみ、多国籍企業の食料支配が強まっている状況が示されたといえます。
 現在、世界で販売されている種子の74%が、わずか10の多国籍企業が支配する、寡占化が起きています(09年)。しかも、トップ企業の米国モンサント社が27%を占め、米国デュポン社、スイスのシンジェンタ社のGM種子開発企業がトップ3を占め、その3社で53%を支配しています。
 種子を支配し、食料を支配するためのGM作物開発であることが、いっそう明瞭になってきたといえます。それを後押ししているのが、米国の食料戦略であり、その有力な武器が貿易自由化圧力です。
 日本の農業はTPPによって、コメの生産が破壊され、農業が支えてきた日本の原風景も無惨な姿に変えられることは必至です。その上、食卓も世界中からやってくるGM食品によって支配されてしまいます。
 ニュージーランド紙は、米国政府の11年度年次報告の中で、米国がTPPに参加し、食料輸出を押し進める際の最大の障壁が他国の食品表示制度にあると指摘し、GM食品表示制度の撤廃圧力が強まっていることを伝えています。
 日本政府がTPP交渉に参加することで、GM食品表示の撤廃など、消費者の知る権利を奪う圧力が加わることを意味します。

◆「聖域」には期限があり、必ず聖域ではなくなる

 この2月に米国とEUの間で自由貿易協定締結に向けて交渉が始まりました。この交渉での最大のテーマがGM作物にある、と米国の交渉担当者が述べました。
 EUの食品表示制度がGM食品の流通を阻み、米国農産物の輸出を妨げています。それを緩和あるいは撤廃させるよう米国が主張するのは必至であり、交渉の行方が注目されます。
 韓国の環境農業団体連合会顧問弁護士のソン・ギホさんは、3月初めに来日され韓米FTAで何が起きたかを報告されました。
 その際「聖域として設定されたものには期限があり、必ずすぐに聖域ではなくなることが約束されます。しかも聖域を求めれば必ず代償が求められます。その際、少しでも譲ればさらにつけ込んでくるのが米国の戦法です」と述べられました。
 米国のしたたかな戦法によって、日本政府が翻弄されることは目に見えています。

◆確実に求められる安全性評価の簡素化

 食品の安全審査や環境影響評価に対する介入も起きることは必至です。米国は日本政府に対して、GM食品の安全性評価や生物多様性への影響評価の簡素化を求めてくることは確実です。
 すでに牛肉に関しては輸入条件が緩和され、BSE対策がほとんど行われていない米国産牛肉の大量流入が始まっています。食品添加物に関しては、米国で承認されているものが、次々と日本で承認されています。農薬の残留基準もまた、厳しい日本の基準を緩和して、緩やかな米国の基準に合わせることが求められています。
 さらに成長ホルモン剤や放射線照射食品の容認圧力、GM動物食品の容認圧力などが加わることも必至です。TPP交渉が始まれば、食の自給や安全が脅かされ、環境が悪化するだけでなく、米国産や遺伝子組み換えの表示もなくなるため消費者は知ることも、選ぶこともできない状況に追い込まれていきます。
 TPP交渉参加は、日本という国の形を大きく変えるだけでなく、私たちの暮らしも食生活も激変させます。食料主権という考え方が、いま切実に求められているといえます。

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