流通:安全な食とは
【シリーズ・安全な食とは】第12回 TPPによる知的所有権強化が奪う食の安全2013年6月26日
・自然の遺伝子に“特許”?
・種子大手3社でシェア5割
・特許国際化がもたらす食料支配
・消費者の権利奪うTPP
6月13日、米国連邦最高裁は、遺伝子特許について、自然のままに存在する遺伝子を特許にすることは認められない、という判決を下した。遺伝性の乳がんや卵巣がんの遺伝子をめぐって起こされた裁判でのことである。
◆自然の遺伝子に“特許”?
遺伝子を検査することで、将来、乳がんや卵巣がんになりやすいことが分かるため、遺伝子診断が普及してきた。最近でも、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが将来、乳がんになる可能性が高いとして、予防的に乳房を切除する手術を受け、話題になった。
しかし、特許とは本来、工業製品の発明品に対して与えられる権利である。その特許の考え方から言って、自然に存在する遺伝子を特許にすることはおかしい、しかも検査のたびに特許権を持つ企業に高額の特許料を支払うことになり、問題視されてきた。こうして裁判が起こされたのである。
◆種子大手3社でシェア5割
今回の判決で焦点になったのは、遺伝子特許の範囲をどこまで認めるかだった。
遺伝子特許は、遺伝子組み換え作物の世界でも問題になってきた。現在、世界の種子の27%が米国モンサント社のものであり、米国デュポン社、スイス・シンジェンタ社の遺伝子組み換え作物開発メーカーが、上位3社で50%を超えて支配する種子の寡占状態になっている。その種子の寡占状態をもたらしたのが、遺伝子特許である。
遺伝子が特許になると作物も特許になり、他の企業の参入を防ぎ種子市場での占有率を拡大してきた。それとともに、農家に対して「特許権侵害に当たる」として自家採種を禁じることで、毎年、自社の種子を買う構造を作り上げた。さらには監視部隊を組織して、農家や種子業者を監視して、契約違反を監視し、少しでも違反の可能性があれば、特許侵害を警告したり訴えてきた。そのことが農家とのトラブルを増やす原因にもなってきた。
今回の判決は、このような組み換え遺伝子に関しては、特許を認めた。自然に存在する遺伝子は特許にならないという、ごくまともな判決であるが、同時に、組み換え遺伝子のような合成遺伝子に関しては、お墨付きを与えたことになる。
◆特許国際化がもたらす食料支配
現在、企業戦略の中で知的所有権は大きな位置を占めている。TPPはこの知的所有権に関しては、強化の姿勢をとっている。
知的所有権保護の強化は、1995年にWTO(世界貿易機関)が設立され、前年にはそれに向けてTRIPs(知的所有権に関する)協定が締結され、一気に加速した。
特許制度は、属地主義と呼ばれる各国主義がとられ、各国ごとに制度が異なるため、それぞれの国に申請して承認されなければいけない。それでは貿易障壁になるということで、国際的な統一化と「国際特許」という考え方が取り入れられるようになった。そのために1999年には特許G7(先進国特許庁長官非公式会議)が始まった。知的所有権の国際化である。
その中で、遺伝子特許を各国が受け入れることになり、農業分野では遺伝子組み換え作物に対応した仕組みが作られていった。知的所有権が、種子独占をもたらし、種子支配を通した食料支配をもたらした。今回の判決はそれを援護し、TPPに弾みをもたらす形となった。
◆消費者の権利奪うTPP
TPPでは、知的所有権に関しては、WTOのTRIPs協定が基本になるようだ。しかし、単にTRIPs協定で収まりそうもない。さらに「TRIPsプラス」という考え方が取り入れられる可能性が強まっている。
プラスとして加えられるのが、企業の権利を強化するため「非開示」を増やすことと知的所有権の保護期間の延長である。このことは直接、食の安全に影響を及ぼすことになる。
現在、食品安全委員会に提出される企業の資料やデータの多くが公表されている。モンサント社などの資料も公開されているものの、肝心な部分の大半が「特許」にかかわるとして墨塗りで「非開示」となっている。放射線照射食品やBSE問題などで、情報公開制度を利用して提出された資料やデータも同様である。墨塗りの個所は、食の安全に関する重要なデータが含まれており、市民は、肝心なことを知ることができない現実がある。
知的所有権の保護期間の延長は、その非開示の期間を延長させる。しかも、その非開示そのものの範囲を増やそうというのが、「TRIPsプラス」という考え方である。企業の利益は増えるが、消費者の権利は奪われる。
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