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流通:安全な食とは

【シリーズ・安全な食とは】第14回 注目される欧米自由貿易交渉の行方2013年8月21日

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【天笠啓祐 / 市民バイオテクノロジー情報室代表】

・最大の論争点はGM作物
・モンサント社のGMはEUから撤退
・8か国が自国内でのGM栽培を禁止
・大手スーパーがブラジルの非GM大豆を支援

 この7月から欧米自由貿易協定(FTA)の交渉が始まりました。これはTPPの大西洋版であるTTIP(環大西洋貿易投資協定)を目指すもので、オバマ米大統領が進めている貿易倍増計画に向けた取り組みの一環でもあります。この間、米国の国家安全保障局による個人情報収集が判明し、フランス政府が交渉開始延期を求めるなど紆余曲折を経たものの、予定通り交渉が開始されました。この交渉での最大の論争点の一つが遺伝子組み換え(GM)作物を中心にした食料・農業問題です。欧米間の利害が最も対立し、立場の違いが鮮明で、今後の交渉の行方が注目されています。

◆最大の論争点はGM作物

 交渉を前に、去る5月23日、EUの立法機関に当たる欧州議会が、この交渉における米国産GM作物に対して、重大な懸念を決議しました。EUでは自由貿易交渉は、EUの行政機関である欧州委員会が権限を持つため、この決議に拘束力はありません。しかし、協定を批准する際には議会の承認を得なければならないため、この決議が事実上の拘束力を持つことになります。
 現在、EUで商業栽培が認められているGM作物は、米モンサント社の除草剤耐性トウモロコシ「MON810」と独BASF社の非食用ジャガイモ「アンフローラ」の2作物だけです。また厳密な表示制度をとっているため、GM食品がほとんど流通していません。このことが米国の食糧戦略と真っ向からぶつかる構図となっています。

◆モンサント社のGMはEUから撤退

 交渉の行方が注目されているときに、モンサント社が事実上、GM作物に関してヨーロッパ市場から撤退することになりました。まず5月に同社は、現在、GM作物を栽培しているスペイン、ポルトガル、チェコの3カ国を除き、事実上欧州から撤退することを表明しました。GMトウモロコシの生産を、この3カ国以外の国で停止させ、開発や試験栽培、マーケッティング、訴訟などの費用を一切かけないことにするというものでした。
 さらに7月17日には、EUに提出していた新たなGM作物の認可申請をすべて取り下げることを明らかにしました。EUは1998年に「MON810」を承認して以降、同社の新たなGM作物は一切承認しておらず、事実上、非GM品種の市場となっていました。これ以上、力を注いでも、GM作物の市場開拓は見込めないと判断したと見られます。しかし同社の種子ビジネスは、ヨーロッパでも好調であり、今後は、従来品種(非GM品種)の種子の生産と交配への投資を拡大していく計画だといいます。
 なお欧州委員会は1998年に、「MON810」の10年間の栽培を許可しましたが、とっくの昔に期限が切れています。2007年にモンサントがその延長を申請したのですが、審議は事実上凍結された状態にあります。現在、「MON810」は、スペインなど3カ国で栽培が行なわれているといいましたが、これは事実上、違法状態を既成事実化しているものといえます。

◆8か国が自国内でのGM栽培を禁止

 EU構成国ではオーストリア、ブルガリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、ルクセンブルク、ポーランドの8カ国が、自国内でのGM栽培を禁じています。最近でも、オランド仏大統領が、モンサントのGMトウモロコシ「MON810」の栽培禁止措置を継続することを表明し、反対する姿勢を改めて示しています。禁止を宣言していないイタリアでも、最近、農業大臣など3人の大臣がGM作物栽培禁止法案に署名しました。
 また欧州委員会に対して、現在、違法状態にある「MON810」の承認取り消しも求めています。同国の農業団体の調査では、国民の76%がGM技術そのものに反対しています。
 禁止を宣言しているハンガリーでは、モンサントのGM種子を使っているすべての畑の作物の破棄処分を決め、今春、国内の約500haで栽培されていたトウモロコシが焼却処分されました。ハンガリー政府はこれまでにも何度か、モンサントの種子に由来する作物を破棄したことがありますが、EUは域内での産物の自由な流通を方針としているため、種子が国境を越えて入ってくる経路を調べることはできません。そのため今回のように違法に栽培されることがあります。それでも国内で栽培されている種子を徹底的に調べることはできるため、今回のような焼却措置が繰り返されています。

◆大手スーパーがブラジルの非GM大豆を支援

 また、流通業界でも、5月初め、ヨーロッパの大手スーパー・チェーン各社がブリュッセルに集まり、大豆の主要生産国であるブラジルの非GM大豆生産システムの支援を約束する「ブリュッセル大豆宣言」を採択しました。
 家畜飼料用の非GM大豆の生産量が減少して確保が困難なのでGM不使用の方針を転換する、と主張するイギリスのスーパーに対して、ブラジルでの生産量は十分に確保されており、むしろヨーロッパへの非GM大豆の輸入量は増加傾向にある、と反論する意図もあるようです。
 このようにGM作物の問題だけを見ても、欧米自由貿易交渉が簡単にまとまるとは思えません。TPP交渉と並行して、どのような推移をたどるかが注目されます。

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