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流通:安全な食とは

【シリーズ・安全な食とは】第15回(最終回)TPPで危機に立つ予防原則2013年9月25日

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【天笠啓祐 / 市民バイオテクノロジー情報室代表】

・環境保護から打ち出された原則
・米国は科学主義を提唱しEUと対立
・食卓が不安でいっぱいになるのでは

 食の安全を守るための、最も大切な考え方が「予防原則」です。この原則は、もともとは環境保護の観点から打ち出されました。それはドイツ南部にあるシュバルツバルト(黒い森)が、酸性雨によって被害が広がり始めた際に、環境を守るためには因果関係がはっきり分かってから対策を立てたのでは遅い、「疑わしい段階で予防的に対策を講じないと守れない」ということで、同国で提唱されました。

◆環境保護から打ち出された原則

 日本でも、水俣病などの公害病が顕在化し、四大公害裁判が起きました。その判決の中で、予防原則の大切さが示され、もし事前に疑わしい段階で対策が立てられていたら、被害者も少なく、最小限で食い止められた、と述べられました。その後、国連環境会議が地球環境保護を目的に生物多様性条約を作成した際に、この原則が導入され、多くの国が採用するようになりました。
 食の安全を考えていく際にも、この予防原則の導入が進められてきました。残留農薬、食品添加物などの安全性を図っていく際に、この原則が前提にあるかないかでは、規制や対策が大きく食い違ってきます。

◆米国は科学主義を提唱しEUと対立

 ではTPPでは、その予防原則はどのように扱われているのでしょうか。米国はもともと、予防原則に反対し、科学主義を提唱してきました。科学主義とは、「科学的にはっきりと白黒が決着するまでは容認する」という考え方です。すなわち科学的に因果関係がはっきりしないのに厳しい規制を行うのはおかしい、というのです。しかし、科学的に因果関係がはっきり分かってからでは手遅れになることから、予防原則の大切さが登場したのです。
 食の安全で、この予防原則と科学主義がぶつかり合ってきたのが、「安全とも危険ともいえないグレーゾーン」の扱いです。例えば、遺伝子組み換え食品の安全性を確保するために、規制をどこまで行うかは、両者の立場の違いで、いつも見解が分かれてきました。
 TPPで、直接に食の安全にかかわる問題が検討される作業部会が「SPS(衛生植物検疫措置)作業部会」です。米国が主張する科学主義に対して、いつも反対してきたのが、ヨーロッパです。EUは、予防原則を採用しています。
 しかしTPPにEUはかかわっておらず、米国が主導するため、予防原則が採用されることは難しいと考えられています。日本政府は、米国政府と同様に、科学主義を採用しています。
 食の安全で、TPP交渉の際に拠り所にされているのが、WTO(世界貿易機関)のSPS協定です。この協定では、第5条7項で、「科学的証拠が不十分な場合」という前提で部分的な予防原則が取り入れられています。しかし、その表現があいまいであるため、いかようにでも解釈できてしまう性質のものになっており、火種が残ったままです。

◆食卓が不安でいっぱいになるのでは

 米国政府は、食の安全や環境への影響評価を厳しくすることは、貿易障壁に当たると繰り返し主張してきました。また環境保護政策が投資家の活動を妨げたとして、ISD条項に基づいて紛争処理機関に訴えてきたこともあります。経済を優先し、貿易の自由化と促進を前面に出す以上、食や環境問題で厳しい規制を行うことは考えられず、疑わしいものは規制せずとなり、食の安全が危機に瀕する可能性が強まります。
 このようにTPPは、食の自給を脅かし私たちの食卓が輸入食品に席卷されるだけでなく、規制が緩和され、安全性評価が簡略化され、環境影響評価も簡略化される可能性が強まります。
 実際そうなった場合、残留農薬の基準が緩和され米国から作物が入りやすくなります。食品添加物の認可が相次ぎ、米国から加工食品が入りやすくなります。食品への放射線照射の範囲が拡大して、米国で行われているように食肉やスパイスにも行われるようになります。
 作物だけでなく、家畜や魚への遺伝子組み換え技術の応用が広がっていきます。私たちの食卓は不安がいっぱいになりそうです。

※15回にわたって連載してきた「食の安全とは」は、今回をもって終了します。

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