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流通:いま!食のマーケットは

【シリーズ・いま!食のマーケットは】第5回 変化している消費者の価値観2014年9月10日

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取材協力:大塚明・中央大学大学院戦略研究科客員教授(日本スーパーマーケット協会前専務理事)
・お気に入りにこだわる消費者
・ライフスタイルの変化に対応する
・過去の成功体験が通用しない時代
・「主張」と「主張」の競争に
・繊細で情感的な消費に

 東京・銀座、新橋界隈で長蛇の行列をつくっているレストラン「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」。その「俺の」シリーズを率いるのは坂本孝氏。「ブックオフ」の創業者であり、16年間で1000店舗に成長させた人物である。
 「俺のイタリアン」をはじめとする彼の店では、通常の飲食業で常識とされていることを徹底的に見直して取り組むことで、飲食業界に大きな波紋を投げかけている。通常であれば、30%と言われている飲食店の原価率を、60%以上に設定しており、その代わりに立ち飲み形式にすることで回転数を上げて利益を出しているのだ。「おいしいこと」「親しみやすいこと」を追求した結果がこれで、最近では焼き鳥や焼肉、おでんや割烹、蕎麦業界にまでにまで業態を広げている。
 安く売るだけでは、評判にならない。消費者は、自分が気に入った付加価値に対価を払っているのだから。

◆お気に入りにこだわる消費者

 野村総合研究所は1997年から3年ごとに、日本人1万人を対象とした消費動向調査を実施している。
 1997年から2012年の調査結果を見ると、リアルな消費者の意識と生活スタイルにおける興味深い変化が見えてくる。
 消費価値観の変化の傾向を見ると、「とにかく安くて経済的なものを買う」というただ安いものを消費するのではなく、「品質重視」、「ライフスタイルヘのこだわり」、「安全性重視」の傾向が強まっているのが良くわかる。
 この調査では、「安さを重視するのか」それとも「高くても良いのか」と「自分のお気に入りにこだわるのか」それとも「特にこだわりはない」の2軸で消費スタイルを次の4つにわけている。
 それは自分が気に入った付加価値には対価を払うという「プレミアム消費」、多くの情報を収集し、お気に入りを安く買う「徹底探索消費」、購入する際に安さよりも利便性を重視する「利便性消費」、製品にこだわりはなく安ければよい「安さ納得消費」だ。
 12年間の推移をみると、「プレミアム消費」が拡大する傾向(13%→22%)にある一方で、「安さ納得消費」を支持する人は減少(40%→27%)。「徹底探索消費」(10%→14%)を含め自分のお気に入りにこだわる消費スタイルが増えていることになる。「利便性消費」(37%→37%)に変化はない。

 

◆ライフスタイルの変化に対応する

 消費税増税後、注目されていた14年4?6月期の実質GDPは、1?3月期に対して、マイナス1.8%、年率換算でマイナス7.1%と大きな落ち込みであった。
 消費税増税の影響によるものであろうが、東日本大震災があった2011年1?3月期より減速幅は大きい。
 賃金も思うようには伸びていない。ごく少数の勝ち組とその他大勢という、現代の企業社会の構図が、個人にもあてはまるようになってきている。それは、所得・階層の上下二極化現象を生み、マーケットの新しいボリュームを生み出したのだ。
 特徴は、野村総研の調査からも分かるように、たとえ年収は高くなくとも普段の生活をより快適に楽しもうとする生活感を持っている層が増えたということだ。
 商品を提供する側も、日本人が「一億総中流」といわれていた頃は、生活を維持するためのコモデティ・マーケットに注力をしていればよかった。そこでは、生活必需品などを徹底した合理性と利便性、ディスカウントで展開することで満足してもらえていた。
 ところが、自分の生活を楽しむためのライフスタイル・マーケットが生まれ、これをサポートする店づくり、サービス提供が大事になってきた。需要を共通スタイルにはめ込むのではなく、生活の場面、気分に合わせた多様なスタイルを選択して貰えるものにするということだ。
 埼玉県のスーパーマーケット(株)ヤオコー(川越市・川野澄人社長)は、このライフスタイル・マーケットに注目して店作りを展開してきた。現在、「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケットづくり」をスローガンに「素材の強化」「ミールソリューションの充実」「価格コンシャス」を追求している。平成26年3月期には、25期連続の増収増益を達成している。

 

◆過去の成功体験が通用しない時代

常識を見直し集客力をアップした「俺の○○」 日本は、モノ不足の時代が長らく続いた。あらゆる部門で需要が供給を上回っていたから商品は飛ぶように売れ、店頭に並べればあっという間になくなった。
 ところが、バブルが崩壊した90年初頭以降、モノ余りの時代になる。生活体験を積み重ねた消費者は、こだわりを持つようになり画一的な商品など必要としなくなったのだ。
 そして、モノ離れの時代である。食事のシーンも家族でテーブルを囲むことは本当に少なくなり、個々のプレートで別々に食事をするケースが多いと聞く。食事ですら、スナック菓子など他のもので済ませてしまう人たちもいる。
 充分豊かになった日本人の生活、モノは不要・モノは余っているという、いわば、満腹状態なのだ。その消費者に何をしたら、買ってもらえるのか。
 消費者は、自分が気に入り、価値あると認めた商品は購入するのだから、価値をわかりやすく伝えることだ。また、それを使っての「体験」を売ることが重要になる。
 同質化競争も、伝え方を変えることで抜け出すことができる。商品は、良いだけでは売れない。安いだけでも売れない。消費者が商品の機能を超えた価値を感じてもらえるように訴えかけることが大事になっているということだ。
 成熟消費社会が到来したこれからは、過去の成功体験は、いっさい通用しないだろう。逆に、革新を恐れない経営が効力を発揮する時代である。なぜなら、これまでのシステムは、全てモノは売れるということを前提として構築されてきたものだからだ。

(写真)
常識を見直し集客力をアップした「俺の○○」

 

◆「主張」と「主張」の競争に

 小売業の店舗の戦いも変わり始めた。競争が進歩を生み、革新を作り出すことも事実だが、激化する競争環境のなか生き残りをかけた戦いは厳しいものだ。
 競争といえば、10年程前に、流通業界のコンサルタントである宮崎経営研究所の宮崎文明氏から商業経営の競争は「コンテスト型」のそれであると聞いた。
 競争には二つの側面があり、一つは「レース型競争」、もう一つは「コンテスト型競争」だ。
 レース型競争とは、相手を打ち負かす、相手より多くの点をとる、相手より早くゴールするという競争だ。一方、コンテスト型競争とは、選ばれる、評価される、支持されるなどの競争だ。
 商業経営の戦いは、強い・弱い、大きい・小さい、早い・遅い、多い・少ないということは問題ではなく、お客さまに喜ばれること、信頼されること、当てにされること、満足してもらえること。その競争だと宮崎氏は言うのだ。
 そして、お客に選ばれ支持されるか否かは、その商売に「独自性」があるかどうかであり、当社(店)ならではの商品と売り方があるかどうかだ。つきつめれば「主張」対「主張」の競争ということになる。

 

◆繊細で情感的な消費に

 モノ不足の時代に、日本のチェーンストアは、成長を始めた。日本の経済発展と一緒に拡大を続けて来た小売業は、ずっとレース型競争を展開して来たのかも知れない。
 ただ単にモノを揃えるのではなく、お客さまの使う立場から筋道を立てて、このお客さまの、この暮らしの、この時と場合に、こう品揃えすることを意識することが必要である。
 「この品を」といえる品を開発し、調達ルートをつけ、独自の商品構成を組み立てる競争が動き出している。
 前回もみてきたように、社会的な変化もあってモノそのものの需要力が減退するなかで、消費は複雑になり、繊細で情感的なものになって来た。売上をあげるための行動は、単純な経済活動領域にはなさそうである。

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