流通:いま!食のマーケットは
【シリーズ・いま!食のマーケットは】第7回 階層化する消費者の変化にどう対応するか2014年11月18日
取材協力:大塚明・中央大学大学院戦略研究科客員教授(日本スーパーマーケット協会前専務理事)
・なぜマックは失速したのか?
・「食べたい商品がない」
・足踏みする増税後の消費
・一つではない日本市場
・手法変われないスーパー
・いくつある二極化
「100円マック」のヒットなどでデフレの勝ち組と言われた日本マクドナルドだが、足下の業績は低迷している(8月既存店前年比▲25%)。アメリカ本社と対等な関係にこだわり続けた創業者の藤田氏が、契約更新時に「日本法人は日本人が経営し続ける」という条件を認めさせて来たのだが、売上急減という緊急事態にアメリカ本社の主導で立て直しが進められてきた。だが、低迷にブレーキはかかっていない。原因は、期限切れ鶏肉問題にあるというが、「世界中のどのマクドナルドでも同じ味が、手頃な価格で楽しめる」というポリシーも、魅力が失せ、食べたいと思える商品が提供されていないことが真の問題だと思える。
◆なぜマックは失速したのか?
既存店売上高が8カ月連続で減少し、2001年上場以来初の営業赤字になりそうだ。2014年12月期の見通しで、連結営業赤字が94億円との発表があった。日本マクドナルドの社長兼CEOのサラ・カサノバ氏は、米国での宅配などの成功体験を例に出しながら、「海外で培ったグローバルな経験で、日本の事業を発展させたい」と語り、「戦略の焦点は正しかった」と発表したのだが、本当にそうなのだろうか?
2011年12月期には、既存店売上8年連続のプラスを記録し、282億円の営業利益を上げていた。「100円メニュー」や入れたてコーヒーの「マックカフェ」で客数増を図りながら、高単価の新商品を投入するといった手法で売上を出し、一方で直営店のFC化によるコスト削減で利益をかさ上げして来たのだ。3000超の店舗のうちFC化率は66%以上にも上り、店舗を直営からFCへ売却したことによる売却益、FC収入の増加、これに伴う本部従業員の削減による人件費削減効果が大きかった。
しかし、その後、急失速した。2012年から客足が鈍くなり、同年12月期には既存店売上高が9年ぶりのマイナスとなる。その後も既存店売上高は2ケタ減が続いた。
◆「食べたい商品がない」
その原因として、2012年時、社長であった原田泳幸氏は、東日本大震災の影響とその後の日本人の心理変化を挙げていた。最近では、中国の食肉加工業者が使用期限切れの鶏肉を使用していた問題もある。しかし、マクドナルドの業績が低迷してきた本当の理由は、競争環境の変化である。
業界の中で、ハンバーガーの戦いでは勝利できたかもしれない。だがライバルは他のハンバーガーチェーンだけではなかった。
例えば、セブン―イレブン。2013年1月から1杯100円の淹れ立てコーヒー「セブンカフェ」の販売を開始すると、年間5億杯を売り上げる爆発的なヒット商品となった。
さらに、コンビニの総菜など「中食」の充実、牛丼チェーンやうどんチェーンの乱立といった外食の多様化と構造変化など多様な競争が起きている。
他の国では例のないコンビニ弁当やスイーツ、牛丼チェーンの多彩なメニューとの戦いに関しての理解が低かったのではないだろうか。
だから、日本の小売業の伸張にとって重要なポイントである女性やシニアを掴むような進化が見られなかったといえる。
◆足踏みする増税後の消費
消費税率を来年10月から予定通り10%に引き上げるべきかどうか、有識者らに意見を聞く点検会合などの議論が始まった。8%に引き上げられた4月、政府も多くのエコノミストも増税後の消費について、影響は軽微との楽観論だったが、蓋を開ければまさかの足踏み状態だからだ。
要因の一つは、台風、豪雨などの天候不順によるものとされているが、それが消費停滞の真の要因とはいい難い。賃金の上昇が物価の上昇に追い付いていないことが問題なのだ。
デフレで減り続けた賃金は、確かに直近は増加に転じている。厚労省の調査では、一人当たりの「現金給与総額」も7月が1.0%、8月1.4%、9月0.8%の増加と連続で増えている。ところがガソリン、電気、食料品価格などの上昇と消費増税で物価がそれ以上に上がっており、消費者物価指数の上昇率が毎月3%台で推移している。実質賃金は減っているのだ。
(上グラフは、消費税導入時の消費支出の推移。「総務省統計局「過去の消費税導入時との比較」(26年10月31日より))
注1:季節調整済実質指数の推移。各年の前年平均を100として指数化
注2:2014年は農林漁家世帯を含む。1989年と1997年は農林漁家を除く結果。
注3:「2014年(除く住居費等)」は、住居のほか、自動車等購入、贈与金、仕送り金を除いている。
◆一つではない日本市場
どうせ買うなら増税前にと高額品の前倒し購入で、消費が一気に上向いたように見えたが、電通総研の『消費気分調査』(レポートvol.15)によれば、全体で見れば生活の明るさが実感できず節約意識を強めた人の比率が高まっているという。アベノミクス効果は限定的であり、消費マインドの二極化を一段と強めていたのではないかと思える。
成熟された社会の特徴なのかもしれないが階層社会が進んで来ているのだ。
増税後も態度や行動が変わらない、ゆとりのある層。
これまでもそうして来たが、増税後は節約意識をますます強めている節約層。
そしてこの人たちの中間にいる層といった具合だ。
今回の増税後の動きは、これまで2回の増税時とは異なる現象が起きている(上グラフ参照)。
前回の増税時は値下げをすればお客が殺到したが、今回は必ずしも安さが売り物の商品や企業の業績が良いといえないのだ。
食品小売業も価値訴求型といわれている企業が引き続き好調であり、逆にディスカウントストアがまだら模様の状況でもある。
日本の市場は、もはや一つではないということだ。
◆手法変われないスーパー
ファミリーで夕食をともにする機会は激減している。食の素材を買って調理する意味が薄れ、調理技術を必要とする素材は売り難くなっている。このことも、様々な市場を生む要因といえる。
本当の競争相手は消費者のニーズ変化なのだが、小売業界は機敏に対応できないでいる。
業務用を除く食品小売の市場規模は約34兆円といわれている。この市場は、比較的安定した需要があるので異業種や他業態からの参入が相次ぎ、スーパーマーケットのシェアは奪われているというのが実態だ。
しかも、生鮮品の鮮度さえ良ければ、他業態や競合店には負けない。NB商品の価格は、競合店の店頭価格やチラシ価格を見て決める。売上が厳しくなれば商品政策よりポイントカードのポイント増で売上を確保する、など、スーパーマーケット企業の対応も、旧来の手法から脱し切れていない。
スーパーマーケットは、店舗費や人件費などのコストが掛かる業態であるから、価格での勝負は、軽装備で運営できる業態には勝つことが出来ないと思うのだが。
◆いくつある二極化
所得の二極化に加え、高齢者の増加による世代の二極化が顕著になって来た。この高齢者世帯の年収は309万(2012年)で、児童のいる世帯の半分以下である。しかし、子どもの学費や住宅ローンに追われる子育て世帯と違いゆとり度が高いのだ。つまり、世帯収入と生活のゆとり度が必ずしも一致しない事態が生じている。
また、二極化はこれだけではない。地域の二極化も進んでいる。大都市圏と地方の格差拡大がそれである。
同じ人が節約消費もこだわり消費もするという二極化もある。節約すべき商品群は1円でも安く買うという価格志向を強め、こだわり商品は価値を見抜く目をもち失敗しない購入をする。本当に商品情報・知識を持ち始めている。
これからは、価格で勝負するなら地域で一番安く、価値で勝負するなら一番価値のあるものを提供できる店舗であることが勝ち残る条件になるであろう。
そのためには、これまでのポジションとは異なった立場での改革が必要である。
そして、小売業界に商品や素材を提供する側も、こうした変化をきちんと踏まえ提案をしなければいけない時代になっていることを認識する必要があるだろう。
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