流通:時の人話題の組織
新井ちとせ・コープみらい理事長 信頼される生協へ 組合員・職員と共に歩む2015年9月1日
・世代交代で組合員理事長誕生
・「未来は一緒」を合言葉に活動展開
・多様な地域ニーズ活動と事業で対応
・コスト・物流含め商品づくりを検討
・生産者と手つなぎ農を守り地域活性
2013年3月、東京・千葉・埼玉の3生協が組織統合して、「コープみらい」が誕生した。この地域に住む4分の1強の世帯、320万人が組合員という日本一大きな生協だ。この生協の理事長に今年6月就任したのが新井ちとせ氏だ。組合員理事出身で女性ということで注目を集めている。日本生協連の副会長も兼務し、先日開催された「国際協同組合デー中央記念集会」では、萬歳章JA全中会長(当時)と語り合う姿もあった。
そこで、新井理事長に理事長就任のいきさつやこれからのコープみらいの在り方などを聞いた。
◆世代交代で組合員理事長誕生
最初に理事長という話があったとき、「普通の主婦である私が理事長なんて務まるのかと思いました」という。
「田井前理事長を含め、旧3生協のトップの皆さんは、当初、3生協をひとつにすることが使命で、その後をどう作るかは別の世代が考えるべきだと思っていました」。コープみらい誕生後は、きちんと次の新体制へバトンタッチするための準備期間ととらえ、2年間進めてきた。理事長のあり方を含めて、次にどういう体制を作るかが課題と考えていたということだ。
コープみらいが掲げる「ビジョン2025」では過半数の組合員(150万人以上)の参加を目指している。それを推進できる体制を考えたとき、組合員には女性が多いことから、組織の象徴・顔である理事長に女性が就任するというのは、ごく自然な流れであった。
また、組織のガバナンス上、社会的に業務の執行と管理監督の分離が言われており、理事長は組織の顔として、300万人の組合員の顔になるのが一番よいのではないかと推された。
◆「未来は一緒」を合言葉に活動展開
理事長就任にあたっては、「プレッシャーや不安はあった」が、「事業と活動の連携をさらに強めたい。コープみらいは消費者組織であることを社会に発信していくんだという思いを強く感じた。みんなで創り、みんなで協力しながら進めていける組織にしたいと考えている」。
理事長になって何か変わりましたかと聞くと、「理事長となって立ち位置は変わったけれども、事業も活動も組合員や職員と一緒に歩んでいくという自分のなかのスタンスは変わらない」という。
新井さんは、静岡県の出身で、結婚を機に埼玉県で兼業農家をしている夫の実家に移った。子どもが生まれ、公園などで同じ年頃の子どもをもつ母親たちと友だちになり、誘われて生協組合員になる。実家でお母さんが生協組合員であったこともあり、「生協は遠い存在ではなかった」が、班の役員など「活動に入るには当初は敷居が高かった」。だが、配達に来る生協職員から「できればやってもらえないか」と頼まれ、「困っているなら」と引き受け、その後、行田・熊谷・深谷・本庄・秩父という広い埼玉北部を担当し、風習や習わしが違う地域で、「参加やつながりづくりなどで苦労」をしながら、組合員活動を進めてきた。
インタビューのなかによく「事業と活動」という言葉が出てくる。事業とは店舗や宅配を中心とするものだが、それと同じように大事なのが、協同組合である生協の活動だと新井さんはいう。
◆多様な地域ニーズ 活動と事業で対応
店舗事業が黒字化したのは、競合が厳しい地域で、店舗を「改装して揚げたてコロッケや焼き立てのパンを置くなど、組合員や地域の人が求めているものは何かをリサーチし、地域に密着した店舗にした」店舗運営や商品担当の職員の努力の結果だという。
そして組合員だけがよければ地域が豊かになるわけではない。コープみらいでは、123自治体と「高齢者見守り協定」を締結するなど地域社会への貢献活動をしたり、社会貢献活動を行う団体などを支援したりするために従来からの社会活動貢献基金をベースに「コープみらい財団」を創設。同時に、組合員が子育てや食育、環境問題など身近な問題を話し合える活動の場として、寺院や休日にあいている施設、生協の施設を利用し「地域に開かれた笑顔あふれる居場所」として「みらいひろば」を270カ所余り設置し、組合員や地域の人たちの参加の場づくりを進めている。
いま「地域」ということが盛んにいわれるが、「地域のことはそこに住んでいる人でなければ分からない。そこで活動している組合員と職員、そして地域の拠点となる店舗があることが大事だ」と新井さんは考える。
地域に密着し、地域のさまざまなニーズに、協同組合としての活動と事業の両面で応えられるのは生協だけであり、民間企業の小売業ではできないことだからだ。
◆コスト・物流含め 商品づくりを検討
また、320万人という巨大な組織は、多様化した日本社会の姿を映し出す現代の日本社会の縮図ともいえる。
「結婚年齢が20代から30代になり、40代で子育てをする人もいるし、かつて生協を支えてきた人たちの高齢化も進んでいる。しかも収入の格差も広がってきている」。だから「昔と同じ品ぞろえではなく、多様性に対応できるようにする」。ただ、それは言葉では簡単なことだが、実現するにはさまざまなハードルがある。「多品目を取り扱うためには、システム、物流だけではなく、組合員のニーズや声を聴くなど、組織全体の力量をもう一段上げていかなければならない」。そうした一つ一つのステップを重ね、組織の力量を上げていくことこそ、ビジョン2025で掲げた「食卓を笑顔に、地域を豊かに、誰からも頼られる生協へ。」の実現につながる。
また、「連帯」というのも大きなテーマだ。コープみらいは、関東信越にある5生協とともにコープネット事業連合に加盟している。コープネットは、商品の開発・仕入れ・企画・管理のほか、物流基盤の共有、システム機能など、あらゆるインフラ、本部機能を担う組織だ。コープみらいの事業が順調なのは、事業連合であるコープネットの存在が大きい。多様な商品づくりも、コープネットグループとして検討できることも大きなことだといえる。「大きくなってみんなで知恵を寄せ合って考えられることはメリットだ」と新井さんは考える。
320万人の組合員とそれを支える生協職員の知恵がどう結集されるのかさらに問われることになるといえる。
◆生産者と手つなぎ 農を守り地域活性
最後に、農協や農業生産者へのメッセージを聞いた。
「コープネットグループでは"日本を、食卓から元気にしたい"といっていますし、地域の生産者を応援し、日本農業を守っていきたいと考えています。JAや生産者とこれからも協同組合間連携で手をつないでいきたいです。
地域活性化ということでは、農業を守ることが大事なので、私たちも微力ながらお手伝いしていきたいと考えています」と語ってくれた。
(あらい・ちとせ)1965年 静岡県生まれ。
2000年さいたまコープエリア委員。02年さいたまコープエリア副委員長。05年さいたまコープ理事。11年コープネット事業連合理事。13年コープみらい理事。13年日本生協連理事。
現在、コープみらい理事長、日本生協連副会長。埼玉県ユニセフ協会理事。
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