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流通:利益の取れる青果売場の現在!

[トマト]目的買いと集客力備えた商品に成長2016年6月7日

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榎本 博之 アズライト代表

提案・技術革新で購買頻度増加へ

 食品スーパーに限らず、日本の小売業は収益性が低いと指摘されることが多い。営業利益率は3%を超えれば「優等生」とされ、10%超えの企業はほぼ皆無と言ってよい(海外では小売業であっても営業利益率10%を超えることは珍しくない)。
 それには様々な要因が複雑に絡み合っている。人件費比率のかさみ、低い売場生産性、食に関する地域特性の細分化、多段階の流通経路など、挙げればきりがないほどだ。そのような制約を受けつつも、小売現場では収益改善に向けた試行錯誤が続けられている。例えば、スーパーマーケット業界団体が発表している「スーパーマーケット年次統計調査」を見ても、青果部門の目標粗利益率は年々増加傾向にあり、そうした地道な努力の表れと言える。

トマト 今後、食品スーパーは業界自体が大きく変化し、革新的な進化を遂げるだろう。その時までに、生産者の対応次第でビジネス環境は大きく変わる。既存の枠組みや概念に囚われることなく、新たな挑戦を試み、お客様の支持を集めたものだけがこれまでとは異なるチャンスがつかめる。今回の狙いは科学的な根拠をまじえて、小売現場の動向における整理によって、売場づくりのプロセスの理解、次のビジネスチャンスの創出に役立ててもらうことにある。野菜や果物のトレンドに加え、高収益店の取り組みなど、様々な視点から切り込み、青果の付加価値向上について考えていきたい。
 第1回目は「トマト」である。

図1 トマトの支出金額図1 トマトの支出金額

◆冬期の需要開拓に注目

(表1)1世帯当たり購買推移 総務省「家計調査年報」より(表1)1世帯当たり購買推移 総務省「家計調査年報」より

 従来から、トマトは野菜売場の花形であった。2000年代に突入すると、その勢いは増し、更なる重点アイテムとしての存在感を発揮するようになる。
 まずは購買データを分析し、トマトのトレンドを追いかけてみる。使用するのは、総務省が行っている「家計調査年報」である。1世帯当たり年間に7934円と野菜の中では、ダントツの支出金額となっている。2011年~2015年までの5年分のデータを整理すると、購入頻度(100世帯当たり購入回数)、支出金額、購入数量いずれも増加傾向にある(表1)。特に、2013年以降からの増加傾向が顕著で、需要拡大が継続していることが分かる。ちょうどこの時期にトマトが「メタボ予防に効果がある」と報道され、新たな食べ方として加熱調理、とりわけトマト鍋の提案が拡がり始めていた。健康志向や食に関する提案が拡大につながったと言えよう。

(表2)月別の購入動向(2015年4月~2016年3月の平均)(表2)月別の購入動向(2015年4月~2016年3月の平均)

 月別で見る(表2)と、購入頻度は4月から伸び始め、本来の旬である夏時期の5月・6月の購入頻度・支出金額が一番大きい。周年供給が実現し、どの時期でも一定割合の支出金額があるが、それでも11月~2月にかけては5月・6月の半分程度に留まる。需要を見れば、旬を意識した対応によるチャンスは大きいと言えるが、冬時期のトマト鍋など新たな需要開拓を目的とした取組みにも注目したい。

(表3)県庁所在地・政令指定都市別(2013年から2015年の平均)(表3)県庁所在地・政令指定都市別(2013年から2015年の平均)

 また、政令指定都市・県庁所在地別でみる(表3)と、首都圏が中心となっている。北関東3県や千葉などトマトの一大産地が近隣にあり、供給しやすいことが要因として考えられる。ちなみに、トマトの生産量が一番多いのは熊本県で、北海道、茨城県と続く。

◆ネット活用でブランド化

 トマトの需要の拡大のきっかけは、やはり品種改良の進化にある。20年前であれば、桃太郎とファーストトマトの2種類が主流であったが、今では、数多くの種類のトマトが売場に陳列されている。さらには、フルーツトマトや色とりどりのミニトマトなど、味や見た目にも違いの分かる商品の充実が進んでいる。
 青果のブランド化が叫ばれて久しいが、そのパイオニアがトマトと言えるだろう。生産者の名前を冠したものから、ブランド名を付けるための管理・生産者への指導を一貫して行うもの、大手メーカーが生産するものなど付加価値の高い商品が成長している。
 ブランド形成にはネット通販の役割が大きく貢献している。既存流通に乗せにくかった付加価値商品について、限定による希少価値に加えて、こだわりを映像や文章を通じて、しっかり伝えるといったネット通販の特性を生かし、支持を集めた。
 やがてこの評価はネットを起点に拡散され、直売所や専門店、さらに既存流通でも価値を損なうことなく、取り扱われるようになった。
 これまで参入障壁が高いとされていた分野であっても、ITによる技術革新によって誰もが利用できる環境が整っている。個人であっても、新たな取り組みがしやすい時代に突入しているのだ。トマトのブランド化もその賜物の一つと言えるだろう。


◆一本釣りか定置網か ―スーパーの戦略

 既存流通でもある食品スーパーではどのように展開されているだろうか。スーパーで扱うアイテム数は20SKU(最少管理単位)前後が平均的であるが、価格幅はかなり広く。同じチェーンでも同一とは限らない。では、どの価格帯を中心に扱うかによって、何が分かるのだろうか。
 高い価格帯の商品は、専門性や差別化を図る上では効果を発揮しやすい反面、売れ残った場合値下げや廃棄のリスクが大きい。そのため、高価格帯の商品を多く扱う店舗では、担当者がある程度購入見込み客と購入量を推測し、品揃えと仕入数量を決めている。
 例えば、1箱1000円以上する高級トマトの箱売りを複数揃えているところは、客単価の高い飲食店が付近にあるか、富裕層が目的買いに訪れる店舗が多い。また、高価格帯のトマトは一品単価が他の野菜と格段に異なるため、一番に避けるべきは品切れを起こし、売り逃してしまう機会損失である。これらのお店では、多少の売れ残りがあっても軌道修正(小分けにして規格を変更し、値頃感を出す等)しつつ、多めに仕入れている。
 上得意のお客様を抱えることで、収益が確保しやすく、それを原資に新たな仕掛けが可能となり、結果的に他社との更なる差別化の原動力となる。
 一方で、誰もが手を伸ばしやすいリーズナブルな価格設定を中心とした店舗では、「質と価格」のバランスを兼ね備え、商品回転率の上昇を図っている。トマトは購入頻度も多く、お客様が固定客となるための大きな武器となるため、無理に上得意の「一本釣り」を狙うのではなく、「定置網」で多くの支持を集めるのだ。同等品であれば、競合店よりも安い価格を設定する、グレードの高いアイテムを定番と同じ価格でトライアル購買を促すといった方法がある。


◆顧客支持のバロメータ

 いずれにせよトマトが来店への動機づけとなり、目的買いでわざわざ来店する装置として機能すれば、店全体の集客力は高まる。だから私は、トマトコーナーをお客様からによる支持のバロメーターと評価している。トマトの差別化はお店の競争力と直結していると言っても差し支えがない。
 ブランド化を果たしたことで、目的買いと集客力を兼ね備えた商品としてトマトは成長している。生産者にとっても、単純な高付加価値化のみに傾倒するのではなく、提案や技術革新による購買頻度の増加が収益に増加につながることを頭に留めてほしい。方向性は異なってもビジネスチャンスにつながるのだ。

≪今回のまとめ≫
トマト需要拡大の要因
(1)健康志向やメニューに対する提案による掘り起し
(2)品種改良による品揃えの多様化
(3)IT技術を活用した新たなマーケットの創造→個人でも新たな取り組みが可能な時代に

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