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流通:利益の取れる青果売場の現在!

[海外事例(イギリス編)]何を調理するから「どのメニュー」を選ぶかに2017年2月4日

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榎本 博之 アズライト代表

 海外では、農産物の付加価値をどのように高めているのだろうか? 今回は、イギリスの事例を紹介したい。

◆新たな価値観を提供

海外事例(イギリス編) まず、現地スーパー市場の概要であるが、イギリスでは「テスコ」や「(アメリカの)ウォルマート傘下のアズダ」、「セインズベリーズ」、「モリソンズ」の大手上位4社が業界シェアの75%(うち、1位のテスコが40%)以上を占め、寡占化が進んでいる(出所:太田美和子著「イギリス視察ハンドブック」商業界)。
 そのいずれでも、従来の素材提供型から調理負担が少ないレディミールへの移行が著しく、細分化されたメニュー提案による問題解決型へのイノベーションが進んでいる。レディミールとは、チルドや冷凍保存され、電子レンジやオーブンで温めるだけで提供できる調理済み食品をいい、日本では食品加工度を高めた味付きの温野菜キットやコンビニエンスストアで発売されているチルド弁当、冷凍のおかずセットなどがこれにあたる。イギリスの場合、ソーセージとマッシュポテト、サーモンのクリームパスタといった一品料理になり得るアイテムがさらに加わる。生鮮食品以上の売場を割いて大々的に販売されている。
 イギリスは共稼ぎ世帯や単親世帯がかなり多く、社会問題化している。そのため、メニューを考え、調理する負担は大きく、手軽に食事の準備ができるレディミールの支持が高い。こうしてどのスーパーでもバラエティ豊かで手軽なレディミールが並ぶようになると、イギリス家庭のライフスタイルにも影響を与え、急速に浸透していくことになる。
 これまでは、お店に来てから食材を探し、メニューを組み立てるのが一般的であった。しかし、今では「何(のメニュー)を作ろうかしら」から、「(どのメニューを)選ぼうかしら」へと、ニーズのスイッチ転換が起こっている。メニューを考えずに単純に選ぶだけの買物は、お客様に毎日(しかも3食!)の献立を考える苦痛や調理の手間から解放し、新たな価値観を提供している。

◆店内加工で「できたて感」を演出

レディミール こうしたレディミールについて、日本でも素材提供に加え、部門横断型のより高度な食品加工をする動きが目立ち始めている。
 野菜は「青果部門」といったタテ割りで考えるのではなく、「食」という大きな括りで食卓にどのように並べるかを意識することが、お客様の利便性や信用に応える結果を生み出し、差別化へとつながっている。
 なかでも、最近では店内加工をお店の特徴として打ち出すチェーンが増えてきた。見えるところで作業している安心・安全感に加え、五感を刺激するライブ感などお客様への訴求がしやすいからだ。
 しかし一方で、こうした「できたて感」の演出が人材確保難や人件費の負担に加え、販売期限の短さ(ほとんどが当日販売の商品)による値下げや廃棄のロスリスクの増加を招くなど、収益を確保しにくくしている点も見逃してはならない。「できたて感」は大切な要素であるが、そこだけに注力することなく、バランスを取りながらビジネスの見通しを立てることが業界全体としても求められているところだ。

◆レディミールで供給ルートに変化が

 さて、レディミールが浸透しつつあるのは、共稼ぎ世帯の増加や高齢者の1人世帯が増加している日本でも該当する。
 生鮮部門でも簡便・即食型の商品開発が進み、品揃えが増えている。スーパーでも東北を中心に展開する7&Iホールディングス系の「ヨークベニマル」がチルドや冷凍保存の調理済食品の品揃えを充実させている。また、イオンが展開しているフランスの冷凍食品専門店「ピカール」は、本格的なメニューが手軽に利用できるとして注目を集めている。
 イギリスほど、お客様ニーズのスイッチが急激には進まないかもしれないが、ビジネスの可能性を広げていけば、新たな付加価値の創造につながっていくだろう。
 こうした状況下で、生産者にとっては供給ルートの変化が予想される。従来型の素材提供であれば、既存の市場や産直ルートでも十分対応可能であろう。しかし今後、日本でもこうしたレディミールの移行がより活発になっていくのであれば、スーパーの店頭に並ぶ商品が変わっていくのは想像に難くない。その主導権を食品メーカー、商社・卸、小売業、いずれかが握るのかまだわからない。だが、固定概念に縛られず、生産者も新たなビジネスチャンスを創造する行動力が求められていくのは間違いない。

◆パッケージで積極的に情報を発信

パッケージ もう1点、筆者がイギリスで注目したのが、野菜の包装パッケージである。産地に加えて生産者や販売期限など日本よりかなり詳細な情報が記載されている。これがお客様の安心・安全感を裏付けているのだ。もちろん、日本でも顔が見える農作物として顔写真やイラストを掲載したパッケージは存在しているが、今後は味や品質はもちろんのこと、お客様の必要としている情報をどこまで提供できるかが、付加価値向上につながるだろう。一日の食べる量や、トレーサビリティなどの栽培情報、環境負荷におけるランク分けなどは欧米でも要望の強い情報項目だ。
 イギリスでは、パッケージのデザインは異なるものの、提供する情報はほぼ統一されている。日本でも一部で取り組みは行われているが、情報の量や質はまちまちで、必要な情報が入手しやすいとは言えない。ITの進化によって、情報の提供手段や方法は多岐に増えている。身近な包装パッケージによる情報発信を起点として、お客様との関係作りに役立てるのも、生産者側の取り組みとして活用したいところだ。

≪今回のまとめ≫
イギリスの食マーケットの取り組み
(1)レディミールの浸透によって買物行動に変化が表れている
(2)温度別管理の確立によって販売期限が確保されている
(3)包装パッケージでの情報発信に積極的

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