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いま、なぜ植物工場か JA東西しらかわ(福島県)が建設  放射能の風評被害払拭し、地域農業のモデルに2013年8月9日

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・中山間地域の農業振興に
・レタスとミニハクサイを栽培
・「みりょく満点」ブランド強化へ
・担当部署設け販路拡大も

 福島県JA東西しらかわで、今年11月完成を目指す植物工場の建設が進んでいる。人工光を利用する完全閉鎖型の栽培施設で、完成するとレタス、ハクサイを日量3000株生産する能力を持つ。同JAが植物工場を導入する背景には、原発事故の放射性物質による風評被害の払しょくとともに、中山間地域における新しい農業として雇用創出につなぐ考えがある。JAが本格的な植物工場を持つのは全国で初めて。事業量の減少が続く中で、JAの新しい事業として期待される。

JA事業展開の新機軸へ

建設中の植物工場。11月末には稼働する


(写真)
建設中の植物工場。11月末には稼働する


植物工場内部イメージ 植物工場は最近、食品・農業分野に限らず、さまざまな業界が関心を示し、各地で建設が見られるようになった。さまざまなタイプがあるが、特にLED(発光ダイオード)やコンピューターによる環境制御など最先端の技術を駆使した完全閉鎖型の施設は、これまでの太陽光を使った施設と違い、大きな可能性を秘めている。
 JA東西しらかわがこれに目をつけたのは、直接的には原発事故の放射性物質による汚染の風評被害がある。栽培空間を完全に閉鎖した植物工場は病虫害はもとより、土を使用しないため放射性物質に汚染される心配がない。これによって風評被害を払しょくし、安定供給による産地づくりに結び付けたいという思いがある。
 特に植物工場の栽培では光によって発生する施設内の熱を逃がし、高温にならないように温度管理する必要があり、コスト面からも冷涼な気候が合う。比較的標高が高く、夏涼しい中山間地である同JAの管内は植物工場の“適地”でもある。

(写真)
植物工場内部イメージ

 

◆中山間地域の農業振興に

鈴木昭雄・JA東西しらかわ代表理事組合長 「農業者が高齢化すると土地利用型の農業はできない。中山間地域における農業の可能性を追求し、地域農業の先進的モデルをつくりたい」と、同JAの鈴木昭雄組合長は中山間地域であることの特徴を強調する。同時に植物工場は、地域における雇用の場の創出にもつながる。また、「農業以外の業界が興味を示している中で、農協が知らないというはおかしい。他の業界をリードするくらいの力をつけておきたい」と、農業に関わる農協としての自負もある。
 完全コンピューター制御の植物工場に必要な作業は、種まきや収穫など細かいが単純作業が中心で、女性や高齢者の働く場として適する。さらに農業の経験のない新規就農も期待される。建設中の植物工場をモデルに、同JAは「過疎地域を中心に数十か所に建設したい」(鈴木組合長)という構想を持っている。

(写真)
鈴木昭雄・JA東西しらかわ代表理事組合長

 

◆レタスとミニハクサイを栽培

完全閉鎖型の人工光型植物工場(イメージ図) 現在、白河市表郷金山に建設中の植物工場は育苗、水耕栽培プラント、出荷調整室など延べ床面積550平方m。2012年度の福島県東日本大大震災農業生産対策交付金事業で、事業費は2億4800万円。栽培床は1列110段が9列からなる。栽培品目はレタス類とミニハクサイで、1株80?150gのものを日量3000株生産する計画だ。11月末には稼働し、35日後には収穫できる。
 同JAで植物工場の話が具体化したのは急だった。2012年夏に植物工場に交付金事業があることが分かり、9月に植物工場の先進事例である千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)にある植物工場プラントを視察。10月の理事会承認を経て、12月NPO植物工場研究会(古在豊樹理事長=千葉大学名誉教授)とコンサル契約、13年2月の臨時総会で承認を得て、3月に植物工場建築工事調印、同6月に起工式と、検討を始めてからわずか9か月あまりで建築にこぎつけた。プラントメーカーは、この分野で一日の長のある株式会社「みらい」を選んだ。
 最初は理事会でも、なぜJAが植物工場を作らなければならないか? という疑問の声があった。だが、千葉大のキャンパスで植物工場を視察し、自分の目でみて、野菜を味わうことで納得が得られたという。
 つまり、▽植物工場による栽培は、従来の露地(施設)栽培による野菜と競合するものではなく、定時・定量・定額の供給ができること、▽新しい市場をつくり、また地域の産業として新しい雇用の創出が可能なことなど、植物工場の将来性が説得力になった。

(写真)
完全閉鎖型の人工光型植物工場(イメージ図)

 

◆「みりょく満点」ブランド強化へ

 問題は、植物工場で生産した野菜の販路にある。同JAや連携JAの直売所での販売や、地元の学校給食への供給などを考えており、「メーカーの持つ販路も含め、生産量の半分以上は、販売先のめどが立っている」と鈴木組合長はいう。販売価格は未定だが、年間1億円以上の売上げを見込んでいる。
 野菜工場は完全無農薬栽培が可能で、今後の研究に待つ部分も多いが、光量や光の波長、肥料成分をコントロールすることで植物の機能性をコントロールすることが可能になる。同JAはこの数年、「みりょく満点」のブランド戦略で産地づくりの成果をあげているが、ブランド品の栽培上の特徴は、植物の機能性に関係の深いミネラル成分を含んだ貝化石の肥料を使っているところにある。これは植物工場の機能性野菜と共通する部分があり、これまでの産地づくり戦略の延長線上に位置付け、植物工場の野菜にはプレミアムを付けるなど、「みりょく満点」ブランドのイメージアップにつなげる考えだ。

 

◆担当部署設け販路拡大も


植物工場担当の下重さん(右)と鈴木さん 運営は子会社であるJA東西しらかわファームサポートを中心とする植物工場利用生産組合が当たるが、JAは営農経済部農業振興推進課の中に2人の植物工場担当を置き、千葉大学の集中講義を受けたり、メーカーの植物工場を実際に動かしたりするなど、管理技術の取得に努めてきた。植物工場の下重勝則工場長は「生産した野菜の販路開拓も目標において全力をあげて取り組む」、同じく植物工場の鈴木真央担当も「大学で学んだ水利や環境制御などの農業工学を生かせたい。新しい農業を確立するというJAの期待に応えるよう頑張る」と、新しい事業に気を引き締めている。

(写真)
植物工場担当の下重さん(右)と鈴木さん


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新しい食品市場の創出に NPO植物工場研究会・古在豊樹理事長に聞く(2013.08.09)

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