薬草栽培のロードマップを描く第一歩に2013年7月31日
シンポジウム「薬草産業の将来展望」開かれる
医学・薬学・農学・法学の産官学連携による新たな事業創造を目ざして7月12日、東京・星陵会館でシンポジウム「薬草産業の将来展望」が開催された。JAグループをはじめ国・県・市町村の行政機関、各種研究機関や研究者、病院や製薬関係者などこの問題に関心をもつ人たち約400人が参加した。
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「なぜ今、生薬産業なのか」と題して講演。「薬草産業の将来展望」の問題に関心のある人たち約400人が参加した。
日本の漢方は中国に起源を持つが日本独自に発展した医療であり、東西医療が融合した世界でもユニークな医療モデルである。しかし中国、韓国は国家戦略として自国の伝統医療を国際標準とする活動を強化している。
日本の医療の特徴は最先端医療と漢方医療が融合した世界で類のない統合医療のモデルであるが、日本の漢方医療の発展のためには良質の国産薬草増産が不可欠である。これまで「医薬連携」でのシンポ等は開催されてきたが、今回のこのシンポは、医・薬に農学が加わり、さらに法学が入り、生産者が加わった歴史的にも特筆されるシンポとなったといえる。
◆現代に合致する基準制定と制度の見直しが急務
シンポジウムでは、第一部の基調講演でまず渡辺賢治慶應大学環境情報学部教授が「なぜ今、生薬産業なのか」と題して講演し、生薬栽培を活用した攻めの農業への転換のための3点を提案した。
(1)自然災害の影響を受ける天産物の生薬と工業製品である化合物としての西洋薬とを同じ制度で論じること自体に無理がある。生薬ならびに生薬を原料とする漢方製剤の薬価制度そのものを見直す必要がある。
(2)粗悪品の流通は医療の質の低下を招くものであり、それを防ぐためには薬局方自体の見直しが必要である。すなわち薬局方そのものの基準制定から時間が経っており、現在の状況に合致していない。安全性確保のための、農薬・重金属のチェックなども含めて現代に合致する基準作成が必要である。
(3)薬食区分を見直して、生薬の一部分は薬としてしか使えなくても他の部位は食品として製品化でき、6次産業化が進むようにする。根は薬品であるが、葉は食品として使えるようになったため、六次産業化が進んだ例がある。
以上を推進するためには制度面での改善が必要であり、医薬農法の専門家による協議会の設置が必要と考える。
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渡辺賢治・慶應大学環境情報学部教授
◆薬草生産は高齢社会・健康志向社会のキーテクノロジー
次いで古在豊樹千葉大学名誉教授が「薬草産業の将来展望」と題して基調講演した。
そのなかで古在名誉教授は、薬草の生産性を向上させる基本戦略として、[1]優良品種の選抜と増殖[2]育苗と栽培を分離し、苗は環境制御下で生産[3]乾物生産と薬効成分生産を分けて環境制御[4]植物体の利用部分(商品化)比率の向上[5]省資源・環境保全・低コストと高収量・高品質を同時実現し、広範な健康食品として利用すれば、新産業分野となる。このためには、人工光植物生産システム(密閉型植物工場)の利用が鍵となる。
密閉型植物工場の利用は薬草産業にイノベーションを起こし得る。
薬草の育種および生理生態学特性・遺伝的特性の解明は大きな知的財産になる。薬草生産は、高齢化社会、健康志向社会で必要とされるキーテクノロジーになると語った。
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古在豊樹千葉大学名誉教授
◆薬草産業を10兆円産業に
その後、基調講演を行った2氏に川原信夫(独)医療基盤研究所薬用植物資源研究センター長、中島肇桐蔭横浜大学法科大学院教授・弁護士、松本規幸富山県薬草栽培農家が加わって、3つのテーマでパネルディスカッションが行われ、会場参加者も含めて活発な意見交換・質疑応答がされた。
各テーマごとの主な意見は以下の通り。
◇
テーマ1「日本には漢方の国家戦略はあるのか」
中国では生薬の栽培から出口の国際戦略までを担う国立研究所に、1万人規模の生薬研究者を置き、グランドデザインを描くことのできる司令塔がある。日本の場合、薬のことは厚労省、栽培は農水省、国際標準化問題(ISO)は経産省と省庁縦割りの仕組みの中で、漢方の将来像を描けるところがどこにもない。10兆円産業にするなら、そこを解決する必要がある。
テーマ2「生産者が薬草の生産意欲を持つためにはどうすべきか」
生産者は薬草に関心があるが、どこへ出荷すればよいか分からない。高品質な薬草を生産しても、その評価が本当に得られるのかという不安もある。薬価基準の引き下げられると薬草の販売価格が低下してしまう。
この課題を解決するには、中国、韓国にあって、日本にない薬草市場の創設、ネット市場の開設、薬価制度の見直しを考えるべきである。また薬草栽培のイノベーションとして、興味深いことは、農作物の収量を10倍にすることは不可能に近いが、薬効成分収量を考えると数年の研究開発で10倍には確実になると思う。選抜育種や、どのようなタイミングでどのようなストレスを与えるかという知見を出し合うことが重要。
テーマ3「薬草の生薬以外の将来展望について」
薬草の需要は、サプリメント、化粧品、健康食品等の原料として今後増大する。
健康食品、サプリメントなどは、法律上の定義がない。厚労省では特定保健用食品いわゆる特保と栄養機能商品に分けて両者をまとめて保険機能食品といっている。しかし、規制緩和がおこなわれた結果「健康食品」という一般的に「食品」に分類される分野があり、規制改革会議では「合理的かつ簡易に機能性表示を可能にする仕組みの整備などを求める」と提言をして食品の安全性や品質などの表記を分かりやすくするための表示ルールを一元化する新食品表示法が国会で可決された。今後、薬食区分を見直して、生薬の一部分は薬としてしか使えなくても、他の部位は食品として製品化でき、6次産業化が飛躍的に進む可能性がある。
シンポ閉会後は懇親会が行われ、来賓として針原農水省審議官、村上JA全中副会長、北岡元全農副会長が挨拶し、薬草産業発展への期待を述べた。
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パネルディスカッションに参加した3人(左から)川原信夫氏、中島肇氏、松本規幸氏
◆薬草は日本が世界をリードできる貴重な素材
このシンポジウムを主催した(株)ジュリス・キャタリストの加藤一郎代表(前全農代表理事専務)は、「シンポには400人近い方の参加を頂いた。参加者の特徴は、国・県・市町村行政関係者、大学教授等(医・薬・農・法)、各種研究機関、病院、製薬、食品、サプリ、化学品、IT、船舶、肥料農薬、種苗、銀行、内外のファンド等の会社、JAグループ、NHK等の報道関係者など多彩な分野からの参加者である。
如何に各業界が薬草産業の将来展望に関心があるかの象徴だと思う。薬草は日本が世界をリードできる貴重な素材であり、欧米およびアジアからの信頼を受けるジャパンブランドとして、生薬、健康食品等の製品を作り上げ、10兆円産業の創生をはかる必要がある。今回のシンポは、問題提起だけでなく、ご参加の皆様方の連携を通じて薬草産業の明るい未来が見えるロード マップを描く第一歩にしたい」と語った。
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上:加藤一郎氏
下:総合司会の杉本佳代ジュリス・キャタリスト代表取締役
(関連記事)
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