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品質が良く美味しい農産物生産は土づくりから ――「土の日」に思う2016年9月27日

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日高信一般財団法人日本土壌協会常務理事

 10月1日の土の日を前に、改めて土づくりの意義を考えてみたい。生産者にとって土壌(紙面での土壌とは田畑の表土をさす)は収益を上げる財として感謝の念はひとしおであろうが、土壌へのいたわりは如何ほどであろうか。農林水産省の土壌環境基礎調査によると、田畑への有機物の施用が減少し、肥沃度の低下のみならず、作土の浅耕化・圧密化、土壌塩基の不均衡など土壌管理に起因する生産力の低下が顕在化している。特定な露地野菜の大産地では連作によって土壌病害がまん延し土壌消毒剤が必要不可欠になっている。確かに、土壌の健康状態が生産力を左右し、健全な土壌から健康を増進する作物が収穫されることを十分に理解してのやむを得ぬ選択であろうか。産地では酷使している土壌が各地にみられ、土壌管理の粗放化が進み野菜の栄養価が低下してきたとの専門家の指摘もある。健全な土壌とは何か、土壌診断のあり方について提言したい。

◆安定した土壌をつくる食物連鎖

品質が良く美味しい農産物生産は土づくりから ――「土の日」に思う JAグル-プは1970年に「土の日」を選定し、全国規模で土づくり運動を精力的に推進して今日に至っている。また、日本の土地生産力の増進と保全活動を使命とする(一財)日本土壌協会は1972年に土を守る運動(2002年に土づくり推進フォ-ラムに改組)を発足させた。こうした活動は時代を超えて土づくりの重要性を説き、土づくりの理論と実践を啓発する運動として注目されてきた。今日では「土づくり」の概念は定着していると思われる。
 代々に引き継がれてきた農家の土壌断面に農作業の埋もれた歴史の一端を伺い知ることができる(写真)。作土層がくっきりと見られる。堆肥等の有機物が長年にわたって施用されてきた証でもある。
 そこには多種多様な土壌生物が生存する。土壌生物の約95%は細菌やカビ等の土壌微生物が占め、その量は普通畑で10㌃当たり約660kgと言われている。
 土壌にすむ微生物の大部分は土壌中の炭素(有機物)をエサとしている。その土壌微生物は他の生物に捕食され、さらに大型の生物へと作土層では複雑な網目のような食物連鎖でつながっている。
 こうした土壌生物の活動によって空気に満ち、保水力のある安定した土壌構造が保たれる。そこは土壌生物にとっては安住のすみかでもある。豊かな土壌を作るにはまず土壌微生物のエサとなる堆肥等の有機物の投入は欠かせない。

◆生物学的な循環で豊かな土壌を

 土壌中の腐植含量(土壌の有機炭素)を潜在的に高めることで、作土層に安定した土壌微生物のプールが形成され、微生物活動が活発になると土壌から作物に供給される養分も高まってくる。その土壌微生物の活動はpHによって影響を受けやすいが、腐植を高めることで土壌pHの緩衝能を高めpH変動に強い土壌が作られる。土壌診断で簡易にできるpHを定常的に把握することで、圃場の土壌養分の状態、土壌微生物の活動等を推測できる。
 これまでの土壌診断は栽培する作物側に立って養分の過不足を評価し、適正な資材や量の把握に主眼が置かれていた。現場で簡易に測定できるpHやEC(電気伝導度)の他に、作土の深さ、土壌の硬さ(土壌硬度)、土の膨軟性、保水性、土の色(腐植)、目視による圃場全体の乾湿などに重点を置いた物理性の診断が土づくりには欠けていたと思う。
 物理性の改善を目指した土づくりは主に有機質資材を基本とする。農家によっては農業系、畜産系、食品系、汚泥系など多様な資材が入手でき、有機JASを目指した農家独自のぼかし肥料の製造も可能である。
 本紙の昨年の紙面にある吉田氏の文節を引用すると、土壌の壌は本来、襄と書き「盛り上がる」を意味する。様々な有機物が麹菌などの作用で発酵し土壌が柔らかく盛り上がる。これは醸(かもす)ともいい生物学的循環で形成される本来の豊かな土壌の姿である。

◆まず土の健康回復を

 昨年は国連が定めた国際土壌年であり、日本土壌肥料学会、JAグル-プをはじめ各地で土壌に関するフォーラムが開催され人々の土壌への関心が高まった。
 おりしも、明治の小説家「長塚節」が没して100年である。農民文学の代表作品とされる「土」、そこには農民と土との関わりから、土を肥やすと思われるあらゆる有機物を求めて農地に還元してきた農民の土への思いと苦悩が描かれている。この農民思想が現代の土づくり運動にも引き継がれていることは心強い。
 現場でできる簡易な土壌分析と目視での土壌診断を行うことで、土壌の健康状態を知ることができる。まず健康の回復に努めることが、品質が良く美味しい農産物の持続生産の一歩である。
 高齢化や人手不足等を背景に堆肥等の有機物の施用や土づくりができない農家が多いという現状がある。土づくりには、窒素、リン酸分を多く含む家畜系由来の堆肥が好ましいが、2012年に肥料規格の改正により、堆肥を肥料原料とした安価な複合肥料(混合堆肥複合肥料)が市場化され、JA全農の銘柄(エコレット)として扱うようになった。肥料と堆肥を同時に施用でき省力化が図られる新肥料の機能に土づくりとしての効果を期待したい。

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