熱帯雨林樹木「フタバガキ」乾燥応答遺伝子の数が増加 ゲノム解読から気候変動対策へ2021年10月8日
横浜市立大学、マレーシア森林研究所、国際農林水産業研究センター、金沢大学、株式会社ヒューマノーム研究所、理化学研究所の研究グループは、地球環境にとっても輸入木材としても重要な熱帯樹種フタバガキ科樹木のゲノムを解読。地球環境の変動により、熱帯ではエルニーニョ・南方振動と関連する大規模乾燥が深刻化する中、同研究成果は、持続的林業と熱帯雨林保全へ向けた応用が期待される。
(図1)フタバガキ科樹木が優占する東南アジア熱帯雨林
東南アジア熱帯雨林は、二酸化炭素吸収に大きな役割を持ち、生物多様性のホットスポットとなっている。同地域は、1年毎の明確な乾季がなく雨に恵まれていると考えられるが、気候変動により、今後この地域でも乾燥の影響が増加するとの報告もあり、森に生える植物への影響が懸念されている。
(図2)ゲノム解析に用いたShorea leprosula 個体(マレーシア森林研究所内)
この地域の森を代表する樹木のグループの一つがフタバガキ科(図1)で、合板に加工され日本に大量に輸入されている。こうした東南アジア熱帯雨林を代表する重要な林業樹種への気候変動の影響を理解する上で、この樹木がどういうDNA配列と遺伝子を持っているかを知ることは重要であることから、同研究グループは、フタバガキ科を代表するShorealeprosula(図2)のゲノム解読を行った。
同研究では、イルミナ社の次世代シーケンサーにより、ゲノム配列からはカカオやシロイヌナズナの遺伝子と相同性を示す約4万4000の遺伝子を予測。さらに、カカオのゲノムと遺伝子の並びを比較すると、全ゲノム重複の形跡が見つかった。この重複は、白亜紀の末ごろにアジアに分布するフタバガキの共通祖先で起こったと推定された。また、重複している遺伝子を分類した結果、シロイヌナズナ等で乾燥応答に関与する遺伝子と相同な遺伝子が多数重複状態を維持していることがわかった。実際に乾燥実験を行ったところ、乾燥に応答して発現が上昇する遺伝子はゲノム重複によって重複している遺伝子に多いことがわかった。
これらの結果は、乾燥に対応する能力がこの種の繁栄にとって重要であることを示唆。この地域は、毎年の乾季があるわけではないが、エルニーニョ・南方振動と関連して数年に一度大規模な乾燥が起こることが知られており、不定期な乾燥が重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
同研究の知見を生かし、乾燥に適応した個体を選抜・育種することで持続的フタバガキ林業へと貢献できる可能性や、熱帯雨林の保全への応用ができる可能性がある。
同研究成果は、Nature 姉妹誌「Communications Biology」に掲載された。
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