肥料のプラスチック殻 海洋流出防止を-全農などが方針策定2022年1月24日
JA全農は1月21日、全国複合肥料工業会、日本肥料アンモニア協会とともに被覆肥料のプラスチック被膜殻の海洋流出防止に向けた取り組み方針を発表した。生産者に流出防止を呼びかけるとともに、代替製品の開発研究も進め「2030年にはプラスチックを使用した被覆肥料に頼らない農業」に向け取り組みを進める。
プラスチックで成分を被覆加工した肥料は、作物の生育に合わせ、時間が経ってからでも肥料の効果を発揮するため、追肥の必要がなくなるなど、農作業の省力効果が高く評価されている。
とくに無駄な肥料を減らすことができるため、地下水などへの栄養分の流出抑制や、温室効果ガスである一酸化二窒素の発生抑制など、環境面での効果が期待させる技術と位置づけられてきた。
しかし、肥料成分が土中に供給された後のプラスチック被膜殻の河川や海洋への流出が問題となってきた。
国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことをきっかけにプラスチック資源循環の議論が活発となり、全農など肥料関係団体は2019年に「プラスチック資源循環アクション宣言」を公表し、農業者への注意喚起や、被膜殻の分解性向上などに取り組むことを表明した。
今回は、昨年6月に国会で制定されたプラスチック資源循環に関する法律(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)の付帯決議で、農業用資材に使われているプラスチックによる環境汚染についても防止に向けて取り組む必要性が盛り込まれたことから、「宣言」をさらに具体化し取り組み方針とロードマップを定めた。
まず、農業者に向けて被膜肥料にプラスチックが含まれていることを周知する。パンフレットやチラシを作成し被膜殻が流れ出ると海洋プラスチックゴミとなることを伝える。
また、プラスチックなど肥料に使用されているプラスチックの種類についても肥料製品に表示することを検討するよう農水省に要請していく。
プラスチック殻の流出防止対策の徹底も周知していく。
農林水産省が昨年、神奈川県内で実施した試験によるとプラスチック殻の流出量の9割以上が代かき後であることが示された。
そのためプラスチック殻が浮上しないよう浅水代かきが行うよう呼びかけている。大部分の地面が見える程度の浅めの入水として、移植前の落水は行わず、自然落水のよって水位を調整することもポイントだ。
流出防止のためのネットの使用も呼びかけている。網目は2ミリ以下が必要だが、玉ねぎネットが活用できるという。これをバーベキュー用の網に貼り付けて水尻に設置する。
同時に全農などは流出実態を詳しく調査し、より効果的な流出防止策を継続的に検討していく。
3つの柱が代替技術の開発と普及による「プラスチック被膜に頼らない農業の実現」だ。
被膜を薄くすることでプラスチック使用量を削減した被膜肥料の普及や、生分解性プラスチックなど海に流出しても分解する素材を使用した被覆肥料の開発にも取り組む。
日本アンモニア協会による被覆肥料は水田の6割で使用されているという。JA全農の被覆肥料(プラスチック以外も含む)の供給量は15万tだという。水田のほか、露地野菜や果樹でも使用されているが、水田は水路から河川、海洋への流出が問題となる。
昨年3月に公表されている(一社)ピリカが全国の自治体や大学と連携して実施した「マイクロプラスチック等の流出実態調査」によると、日本国内からのマイクロプラスチックの流出量は推計で年間157t。このうち肥料用カプセルは15%で人工芝に次いで多かった。
農林水産省は今回の肥料関係団体による取り組み方針について「後押しするとして、1月24日にも農産局長名で地方農政局や、農業団体などに通達を出し、流出防止に向けた対応の強化を求める。また、令和3年度の補正予算や4年度の当初予算案で「グリーンな栽培体系への転換サポート」として被覆肥料の代替技術導入を支援することにしており、農水省はこの予算の活用もすすめている。
代替技術してJA全農は施肥技術ガイドのなかでまとめている。
被覆肥料ではないものの、土壌中でゆっくり分解されるIB肥料などの活用、水田の水口から灌漑水と一緒に粒状・液状肥料を流し込むことで容易に施肥作業ができる流し込み液肥の活用などがある。また、ドローンを活用した施肥技術も期待される。
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