DIYによる植物鉢の無人搬送装置を開発 植物の成長モニタリングに貢献 かずさDNA研究所2022年3月10日
かずさDNA研究所、宮崎大学、スアナサイエンスは共同で、植物の形態(表現型)を定量的にデジタル計測する技術"フェノタイピング"の低コスト化、高効率化、汎用化に取り組む中、大量にフェノタイピングを行う方策のひとつとして、温室内で植木鉢(栽培ポット)を無人で搬送する装置を開発した。市販の搬送車キットを活用することで導入コストを下げ、レイアウト変更を容易にするため、大学や研究機関での利用場面にあわせて導入しやすくなる。
宮崎大学に設置している自動配送システム
近年、ゲノム情報の解析スピードと精度が向上し、様々な栽培植物において品種間のDNA配列の違い(遺伝子型)を大量に得られるようになった。これらの情報を用いて遺伝子のはたらきを明らかにし、育種に有用な遺伝子型を見つけるには、遺伝子型に対応した形質情報(表現型、フェノタイプ)も必要になる。しかし、DNA配列のデータがDNA配列解析装置(シークエンサー)のもたらす膨大なデジタルデータであるのに対し、形質情報のデータは手作業で収集した種別も量も少ないアナログデータがほとんどという状況になっている。
形質情報として、植物の遺伝子研究や新品種開発の現場でたくさんの植物体を高精度に観察し、成長の様子、花や果実の色・形・大きさなどを数値化・分類するデジタル計測技術の整備が求められている。また、種内で見られる形質の多様性とDNA配列の多様性のビッグデータをコンピューター解析で対応づけ、DNAデータを育種に反映させることを目指している。
現在、植物の成長を定量的に計測するための技術(フェノタイピングには、多数の植物体を毎日2D/3D画像で撮影し、経時的な形態の変化を追う方法がある。温室内に張り巡らせたベルトコンベアを用いて、植物鉢(ポットを温室の一角にある写真撮影スタジオに運搬し、撮影するが、このシステムは高価なうえ、メンテナンスに手がかかり、レイアウトの変更がしにくいことなどから、導入できる現場が限られる。
さまざまな栽培植物で蓄積されているDNAデータを育種に生かすためには、より低コストで、高効率、汎用性の高いシステムが求められていたことから、同グループは、市販の無人搬送車(AGVAutomatedGuidedVehicle)キットを活用。従来の数分の1以下のコストで導入でき、メンテナンス性が良く、レイアウトの変更が容易な栽培ポットの無人搬送装置を開発した。
この成果により、従来の装置にくらべて導入しやすいため、多くの研究開発現場に高度なデジタル計測技術を普及が可能。DNA情報を用いた品種開発のスピードアップが見込まれる。また、高度なデジタル計測により各個体の生育にあわせて灌水や施肥量を変える精密農業が可能になり、農作物の生産現場で発生する「食品ロス」を減らすことが期待される。
この研究成果は2月17日、国際学術雑誌『BreedingScience』でオンライン公開された。
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