気候変動は東南アジアの熱帯雨林樹木の開花・結実頻度を減少 東京都立大2022年4月25日
東京都立大学大学院都市環境科学研究科の沼田真也教授、九州大学理学研究院の佐竹暁子教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の保坂哲朗准教授、農研機構の櫻井玄上級研究員らのグループは、マレーシア森林研究所に保管されていた35年を超える樹木の開花・結実フェノロジー(生物季節)データと気象データから開花・結実を予測する統計モデルを構築し、将来の気候変動が東南アジア熱帯雨林の開花・結実頻度を減少させる可能性があることを明らかにした。
研究のアプローチ
東南アジアの熱帯林は、インドネシア、マレーシアを中心とした島嶼部とユーラシア大陸の一部に広がり、時に樹高70メートルを超える巨大な樹木を中心に様々な生き物たちが生息している。この地域の熱帯林では、優占樹種であるフタバガキ科を中心とした様々な分類群の植物が、数年に一度の間隔で同調的に開花、結実する一斉開花(general flowering)と呼ばれる現象がみられる。
一斉開花では、様々な植物種が超年的に開花、結実を同調させるという点で、極めて独特なものであり、このような植物の繁殖リズムは気温や降雨などの気象が密接に関連していることが明らかになりつつある。一方、多くの研究が地球規模の気候変動は様々な地域の生態系において不可逆的な形で影響を与えうることを明らかにしているが、東南アジアの熱帯雨林生態系が気候変動によってどのような影響を受けるのかはあまりよく分かっていなかった。
同研究では、マレーシア森林研究所で1970年代から記録されてきた開花・結実フェノロジーの記録(41科210種)をデータ化。著者らが構築してきた開花予測モデルを用いて、複数の気候変動シナリオ下における繁殖フェノロジーの応答について検討した。
第一に、データ化した210種の開花・結実フェノロジーを分析。開花・結実は大きな年変動がみられ、1970年代と比べて2000年代には開花頻度が低下していたことが明らかになった。また、開花・結実には季節性があり、開花は4月と10月にピークが見られた。
続いて、フタバガキ科95種を開花フェノロジーに基づき6つのクラスターに分類したところ、乾燥に応答。開花するクラスター1、2,5および6(34種)と乾燥および低温に応答し開花するクラスター3および4(55種)があることが分かった。そこで、これらのクラスターごとに2つの気候変動シナリオ下で開花フェノロジーを予測したところ、乾燥および低温に応答し開花するクラスター3および4では大幅に開花確率が低下することが明らかになった。
さらに、これらのモデルを用いて、東南アジア熱帯季節林気候と熱帯多雨林気候を含む地域5箇所における開花季節と開花確率を過去(1976~1996年)と将来(2050-2099)で計算したところ、いずれの地域でも同様の傾向が見られた。予測される季節の開花パターンと過去の観察記録と一致しており、同研究で用いた数理モデルは東南アジアの広い地域に適用できることを示唆している。
フェノロジーの長期的な変化は生態系の気候変動に対する影響を理解するために多くの研究が行われている。熱帯では多くの植物が時間的な環境変動が小さい状況で進化したため、温帯種や北方種よりも気候変動に対して敏感であることが示唆されている。
同本研究の結果から、気温が1.2°C上昇するシナリオ(RCP2.6)でさえ、フタバガキ科植物の57%の種に将来の開花確率が約50%低下することが予想された。そのため、熱帯植物は繁殖フェノロジーを通じて、温帯植物よりも気候変動に対してより敏感で脆弱である可能性があると考えられる。
同研究では200種を超える樹種を対象に35年以上に渡って行われた開花・結実観察の記録をデータ化し、低温と乾燥に対する開花応答における最新のモデルを構築し、気候変動における予測を行った。同研究により得られた知見および開発されたモデルと方法論は、気候変動に対する熱帯雨林樹木のフェノロジー応答の理解を促進し、地球規模での植物繁殖フェノロジー予測に貢献することが期待される。
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