交雑が遺伝的多様性を大きくする仕組み 一端を明らかに 新潟大など研究グループ2022年8月17日
新潟大学自然科学系(農学部)の深井英吾准教授と農研機構の吉川学博士、デンマーク・オーフス大学、かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、理化学研究所らの研究グループは、植物の交雑にともなってトランスポゾン(動くDNA配列)が活性化し動くことを、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを用いて明らかにした。
ミヤコグサの花
「トランスポゾン」はゲノムの中を動きまわるDNA 断片で可動遺伝因子、転移因子などと呼ばれ、上述した「遺伝子以外」の主要な構成要素の一つ。同研究では、交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性について、マメ科植物のミヤコグサ(Lotus japonicus)を使って検証した。
トランスポゾンを発見した米国のバーバラ・マクリントック博士は、遠縁の親同士の交雑(遠縁交雑)がトランスポゾンを活性化させる可能性に言及しており、この仮説を支持する研究結果は複数報告されている。しかし、近縁の親同士の、普通に起こる交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性については、ほとんど検討されてこなかった。
ミヤコグサは日本全土に自生する自殖性のマメ科植物で、モデル植物として広く利用されている。ミヤコグサでは3つの組換え近交系集団が構築されており、いずれも片親にはミヤコグサのGifu系統が使われている。もう一方の親は、ミヤコグサのMG-20系統、パキスタン由来のミヤコグサ近縁種(Lotus burttii)、ナイジェリア由来のミヤコグサ近縁種(Lotusfilicaulis)。すなわち3つの組換え近交系集団のうち、1つは種内交雑集団、2つは種間交雑集団で、交雑両親間の遺伝的な近さ/遠さと、トランスポゾンの活性化との間の関係を調べるために有用となる。
解析の結果、3つの組換え近交系集団の全てで、少なくとも1種類のトランスポゾンが活性化され動いていることが分かった。特に、遠縁交雑ではない、種内交雑による組換え近交系集団でも、複数のトランスポゾンが活性化され動いていたことから、交雑によるトランスポゾンの活性化にとって、必ずしも両親が遠縁である必要がないことが分かった。また、トランスポゾンの移動先の83%は遺伝子の中であることが分かり、組換え近交系集団育成の数世代の間に、植物の生育に影響しうる遺伝的な多様性が生じていたことが分かった。
以上のことから、交雑によるトランスポゾンの活性化が、遠縁交雑のような特別なケースに限らず、ごく普通の種内交雑でも起こることが分った。種内交雑は自然界で、また農作物の品種育成の過程で頻繁に行われているため、トランスポゾンの活性化は従来考えられていたよりも日常的に起きている可能性が示唆された。
今後は、交雑によってトランスポゾンが活性化される仕組みを明らかにするとともに、他の植物でも同様の現象が起こるのかなど、検証する予定。また農作物の交雑育種において、トランスポゾンの活性化現象を有効利用できるかについても検証していく。
この研究成果は7月6日(英国時間)、英国科学誌『The Plant Journal』の電子版に掲載された。
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