水稲の高温不稔 温度上昇に湿度が強く影響 国際的観測ネットワークで解明 農研機構ら2022年9月7日
農研機構らの研究グループが構築した国際的な水田微気象観測ネットワークは、気温ではなく開花時間帯の水稲の穂の温度(穂温)を指標とすることで、温度や湿度条件の異なる様々な気候下の水田における高温不稔を統一的に評価できることを、世界で初めて実証。その結果、高温で湿潤な気候の地域では蒸散に伴う気化冷却効果が小さく穂温が高くなりやすいため、高温不稔リスクが高いと推定された。この評価手法を活用することで、世界の高温不稔の予測精度を向上させ、高温不稔に対して適切な対策を講じることが可能になる。
高温不稔で空となった籾
コメは世界人口の約半数が主食とし、様々な気候帯で水稲が栽培されているが、温暖化の進行に伴いその高温障害の増加が懸念されている。特に、開花時に穂が高温に曝されることで発生する開花期高温不稔は、コメの生産性を大きく低下させると考えられている。
これまで一部の熱帯地域や中国の長江流域などで高温不稔による減収被害が報告されており、農研機構は、国内でも猛暑年に高温不稔が一部地域で確認されたことを1月に報告。しかし、どのような環境や栽培条件下で高温不稔が発生しやすいのかを広範に解析した事例はなかった。
農研機構らの研究グループは、アジア・アフリカ・アメリカの11の国と地域にわたる国際的な水田微気象観測ネットワーク(MINCERnet)を構築。共通の測器(MINCER)を用いて観測。世界の稲作地域の水田の水稲群落内熱環境と高温不稔に関するデータを集積してきた。
このデータを解析し、MINCERによる気温・湿度の実測値を穂温推定モデルに適用して、各水田の水稲の穂温を計算した結果、開花時間帯の穂温を指標とすることで、温度や湿度の異なる様々な気候条件の水田における高温不稔を統一的に評価できることを、世界で初めて明らかにした。
穂温は、群落上の気温だけでなく、群落や穂の蒸散に伴う気化冷却効果に左右される。乾燥した気候では活発な蒸散により冷却効果が大きく、穂温は群落上の気温よりも低くなる。一方、湿潤な気候では蒸散が抑制され冷却効果が小さいため、穂温の方が気温より高くなる傾向があった。その結果、気温が高い地域と穂温が高い地域とは、必ずしも一致しないことがわかった。
不稔率は、群落上の気温とではなく穂温と高い相関が認められ、開花時間帯の穂温を指標とすることで、様々な気候条件下でも高温不稔を統一的に評価できることを明らかにした。
開花時間帯の穂温を指標として各観測地点の不稔率の分布範囲を算定すると、酷暑でも乾燥した気候では高温不稔リスクが低く、高温で湿潤な気候で高温不稔リスクが高いと推定された。開花時間帯の穂温を指標とした評価手法は、現在の高温不稔の発生リスクが高い地域の特定に役立つだけでなく、将来のコメ収量の予測精度の向上や、高温障害の軽減技術の有効性評価などを通じて、気候変動下の世界の安定的なコメ生産を実現するための重要な機軸となることが期待される。
この成果は、4月1日に国際科学誌『Agricultural and Forest Meteorology』に掲載された。
自立型群落内微気象測定装置(MINCER)の外観と構成
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