世界初 昆虫共生微生物が誘導する宿主の性転換現象 培養細胞上で再現 農研機構2023年4月6日
農研機構を中心とする研究グループは、オスをメス化する働きを持つ、共生微生物「ボルバキア」を昆虫から取り出し、共生微生物による性転換現象を試験管内で再現することに世界で初めて成功。ボルバキアによる宿主昆虫の性転換メカニズムの一端を明らかにした。
昆虫のオスをメス化する働きを試験管内で解析
ボルバキアは、宿主昆虫のオスをメス化など、宿主の生殖を操作することが知られている。
昆虫の細胞内に共生し、母から子に伝わる共生微生物ボルバキアは、全昆虫の過半数にも及ぶ膨大な種に感染していると考えられている。感染拡大の背景には、宿主のオスをメス化させるなど様々な操作を通じて、ボルバキアが昆虫の生殖を自身の増殖に都合が良いように改変する特性がある。
多くの天敵昆虫では、メスはオスに比べて摂食量が多く、飛散しにくいことが知られている。その点を活かして害虫を捕食する天敵昆虫をボルバキアの働きでメスのみにすることができれば、捕食効率とほ場定着率を高めることによる防除効果向上が期待できる。
農研機構は、富山大学、東京大学、摂南大学と共同で、チョウ目害虫アズキノメイガのオス宿主由来の培養細胞を作出し、これにボルバキアを人為的に移植し、定着させることに成功。また、見た目ではわからない培養細胞の性をPCR検査により簡易的に調べる手法を確立した。
これらの手法により、共生微生物ボルバキアが引き起こす生殖操作のひとつである宿主オスのメス化現象(性転換)を試験管(組織培養フラスコ)内で再現することに世界で初めて成功。さらにこの実験系を用いてアズキノメイガの性決定に関与する2個の遺伝子の発現がボルバキア導入により大きく変化することを明らかにした。
同成果はメス化作用を持った共生微生物の効率的なスクリーニングを可能にするとともに、培養細胞の新しい利用技術により、共生微生物による生殖操作の機構解明が加速。共生微生物を活用して昆虫のメス化を促進・オスを除去する手法は、害虫防除や有用昆虫の効率的生産の新しい技術の開発につながることが期待される。
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