肥料に変換できるプラスチック 機能化に成功 千葉大学など研究チーム2023年4月13日
千葉大学大学院工学研究院の青木大輔准教授、東京工業大学物質理工学院応用化学系の阿部拓海大学院生(研究当時)、大塚英幸教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の神谷岳洋准教授らの研究チームは、植物を原料とした高分子(プラスチック)の機能化手法を確立した。さらに、機能化されたプラスチックをアンモニア水で分解することで得られる分解生成物には、植物の成長を促進する肥料としての効果があることも確認された。
図1:研究概要図
日常生活に欠かせない高分子(プラスチック)は、そのほとんどが廃棄されており、リサイクル率は10%以下にとどまる。安定した高分子は、材料として有用である一方、安定しているが故にその分解は難しい。また、分解性に優れた高分子はリサイクルが可能である一方、強度が求められる材料として用いることは難しいため、「安定性」と「分解性」の相反する2つの特性を考慮した分子設計が循環型プラスチックの鍵となる。
そこで同研究チームは、結合としての安定性と利用後の分解性を考慮してカーボネート結合に注目。カーボネート結合はそのままでは安定している一方、身近な塩基であるアンモニアと反応し、肥料として働く尿素へと変換できる。
図2:先行研究と本研究
先行研究では、この有機反応をポリイソソルビドという糖由来のポリマー(PIC)へと適用することで、分解生成物(糖由来のモノマーと尿素の混合物)がそのまま肥料として利用できることを明らかにした(図2)。しかし、PICはそのままでは脆く、材料として利用するためにその機能を改善する方法(機能化手法)の開発が求められていた。
研究の成果
PICの機能化手法の確立を目指し、糖であるマンニトールから1段階で合成できる植物由来モノマーであるDBM(1,3:4,6-ジ-O-ベンジリデン-D-マンニトール)をイソソルビドと共重合。DBMは一部の水酸基が保護された状態で存在し、共重合後に脱保護(注8)することでポリマー主鎖骨格中にマンニトール由来の水酸基を導入することができる(図3)。
図3:共重合体の合成と脱保護による水酸基の導入
イソソルビトとDBMの共重合体は、汎用高分子材料よりも高い耐熱性を示し、ボロン酸試薬を用いて高分子合成後に機能団を導入可能(図4左)。PICの課題である物性調整や新たな機能付与に利用できることが明らかになった。
図4左:蛍光性ボロン酸による修飾
図4右:分解生成物を用いたシロイヌナズナの生育実験。
分解生成物を加えたもの(右)は、葉が多く生えている
さらに、得られた共重合体のアンモニア分解について評価したところ、PICと比べてその分解が早いことがわかった。これは、高分子の「機能化」にも「分解」にもポリマー中のマンニトール由来の水酸基が大きく寄与することになる。
最後に、得られた共重合体の分解生成物(イソソルビド、マンニトール、尿素の混合物)を用いてシロイヌナズナの生育実験を実施。その結果、本共重合体からの分解生成物が肥料として機能することが明らかになった(図4右)。
今回合成したポリカーボネートの共重合体は、グルコース、マンニトールなど再生可能な植物由来の糖を原料としており、バイオエンジニアリングプラスチックとして今後利用されることが期待できる。ここで提案する高分子材料設計が「プラスチックの廃棄問題」と「人口増加による食料問題」を同時に解決する、革新的なシステムへと昇華されることを期待される。
同研究成果は4月11日、『Polymer Chemistry』誌に掲載された。
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