ドローンで水稲生育診断と追肥量算出 農研機構2023年4月28日
農研機構は、ドローンによる上空からの水稲生育データを地上で測定したデータで補正して広範囲な生育診断を行い、診断結果に基づき追肥量を算出する新たなシステムを開発、4月27日に発表した。
上空と地上でデータを取得し補正する仕組み。(写真提供:農研機構)
米の収量や品質の安定化は、生産者の収益の安定化につながるため極めて重要だが、異常気象や気候変動による不安定化が懸念されている。
新たなシステムを開発した中野洋九州沖縄農業研究センターグループ長補佐によると、九州地域では2012年からの10年間で平年収量を超えたのは3年間だけ。年によって1等米比率は大幅に低下した。
一方、農家の高齢化によって担い手への農地集積が進んでいるため、効率的に水稲を栽培管理できる技術の導入が求められている。
こうしたなかドローンによる上空からの生育診断も始まっている。しかし、それは植物が太陽光を反射した光を測定しており、太陽の高度や日射量の影響を受けてしまう。
これに対して地上での生育診断は、測定機の光を植物が反射した光を測定しており、太陽高度や日射量の影響を受けない。
そこで中野氏らは、ドローンで上空から得た生育データ(正規化植物指数:NDVI)を地上で得たデータで補正することによって、広範囲のすべてのほ場で精確な生育診断を行うシステムを開発した。
さらに生育診断結果に基づき、目標とする収量に向けて追肥量を算出するシステムも開発した。
収量は出穂20日前から出穂期頃に窒素追肥すると増加するが、過剰な追肥は倒伏のリスクや、食味低下につながる玄米タンパクの上昇の懸念もあるため、生育診断したうえでの適量の追肥が重要となる。このシステムはこうした課題にも応えるものだ。
作業手順は水稲の出穂1~4週間前にマルチスペクトルカメラ搭載のドローンで生育診断したいすべてのほ場の画像を撮影し、画像解析ソフトで上空のNDVIを取得。同じ時期に地上で生育がいいほ場、悪いほ場、その中間のほ場の3か所のNDVIを測定する。
その後、地上データで上空データを補正、追肥量算出式で必要量を算出する。
これまでの試験では収量が低くなる可能性のあるほ場にシステムで算出した量を追肥したところ、10а当たり3㎏程度の増収がみられたという。
開発した水稲育成診断・追肥量算出システムは大規模生産者や民間企業などが農研機構提供のエクセルで作成したプログラムを通じて利用可能。また、利便性を向上させるため、異なるソフトウェアやプログラムを連携するAPIも開発した。農業データ連携基盤(WAGRI)を介して各社の営農管理システムで利用できるよう農研機構のサーバーに搭載した。利用には一定の費用がかかる見込みだが、このシステムで農業者の収益増につなげたいとする。
品種はコシヒカリとヒノヒカリで追肥算出式を作成しているため、全国の作付面積の40%以上に対応が可能だという。
今後は病害虫や雑草の管理のための農薬散布にも利用できる可能性があるとしている。
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