ミヤコカブリダニは卵が食べられそうな時だけ托卵 托卵の起源の解明へ 千葉大学2023年5月16日
千葉大学園芸学研究院 の長泰行准教授とオランダ・アムステルダム大学のArne Janssen准教授 の研究グループは、体長が1ミリに満たないダニの世界で托卵が起きること、托卵が卵を襲う捕食者が存在する時にのみ起きることを発見した。動物がなぜ他個体に子育てを委ねるのかという托卵の起源の解明につながることが期待される。
同研究グループは、農業の重要害虫であるミカンキイロアザミウマを捕食するキイカブリダニやミヤコカブリダニが、自分の子供の生存率を高めるためにとる行動について研究してきた。
図1
ミカンキイロアザミウマは作物を食害するが、カブリダニ類の卵も捕食する雑食性で、この2種のカブリダニにとっては餌でありながら、卵の捕食者でもある。キイカブリダニは自分の卵のそばにいて卵を捕食者から守る習性がある一方、ミヤコカブリダニではそのような行動は知られていない。そのうえ、キイカブリダニはミヤコカブリダニの幼虫を、ミヤコカブリダニはキイカブリダニの卵と幼虫をそれぞれ食べることが分かっている。それにも関わらず、両者を一緒にすると同じ場所に産卵することが観察される(図1)。
同研究では、この2種のダニが同じ場所になぜ産卵するのか、という疑問に対する答えとして、「ミヤコカブリダニはミカンキイロアザミウマから自身の卵を守ってもらうために卵を守る種であるキイカブリダニと同じ場所に産卵する」という仮説をたて検証した。
研究成果
ミヤコカブリダニに、ミカンキイロアザミウマを餌として与え、キイカブリダニの卵のある場所とない場所を与えると、卵のある場所に好んで産卵するが、卵を保護する習性のないチリカブリダニの卵のある場所とない場所を与えると、どちらかを区別することなく産卵する(図2)。これは、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵を認識したうえで、意図的に産卵する場所を選んでいることを意味する。
図2
キイカブリダニが自身の卵を守る行動は、捕食者を積極的に追い払うわけではなく、ただ卵のそばにいるだけのもの。そのため、鳥類の托卵のように、キイカブリダニはミヤコカブリダニの卵のために時間やエネルギーを割くわけではないが、托卵をするミヤコカブリダニの母親はキイカブリダニの卵を食べるため、キイカブリダニにとって托卵するミヤコカブリダニの存在は不利益になる。
一方、卵を食べるミカンキイロアザミウマがいないとき、ミヤコカブリダニの子孫の生存率は卵から孵化した幼虫がキイカブリダニの母親に食べられることによって低くなった。これは、ミヤコカブリダニは托卵によって不利益を被る場合があることを示す結果。ところが、ミカンキイロアザミウマがいるとき、ミヤコカブリダニの子孫の生存率はキイカブリダニの母親が一緒にいることによって、高くなった。これは、ミヤコカブリダニの卵がキイカブリダニの母親に守ってもらえることを示す結果といえる。
以上の結果から、ミヤコカブリダニは自身の卵が食べられそうな状況でのみ、托卵することで子孫を多く残せると予想される。実際、ミヤコカブリダニに、卵を食べないナミハダニを餌として与えた場合には、キイカブリダニの卵のある場所に好んで産卵しなかった。これらから、ミヤコカブリダニは自身の卵が食べられそうなときだけキイカブリダニに托卵することで卵の生存率を高めることが明らかになった。
今後の展望
動物が捕食を免れるために托卵をし、それによって子孫の生存率が高まることを示したのは同研究が世界で初めて。今回の研究に用いた節足動物は、これまでに托卵の研究が行われてきた動物種と比べ世代期間が短いという特徴をもち、様々な実験を行うことが容易。同研究グループは今後、「動物はどうして托卵するようになるのか」、という進化的な問題の解明だけでなく、「どうやって托卵する場所を見つけるのか」など托卵のメカニズムの解明にも取り組む予定。
カブリダニ類は、農業現場で害虫を防除するために用いられることのある天敵資材。一方、害虫のミカンキイロアザミウマは植物を好んで食べるもののカブリダニの卵も食べてしまう雑食性で、これは天敵を用いた防除の効率を下げる一因になる。卵を守るための托卵を研究することで、天敵による害虫の防除の効率を高めることにつながる可能性がある。
同研究の成果は英国の国際学術誌『Functional Ecology』に掲載された。
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