植物の効率的な窒素栄養獲得戦略で新発見 岐阜大など研究グループ2023年9月11日
時澤睦朋博士研究員(岐阜大学連合農学研究科出身)が中心とする研究グループは、硝酸濃度に依存して側根の形成を制御することによる可塑的な根系構造変化の分子メカニズムを解明した。これは、植物の効率的な窒素栄養獲得戦略における新発見で、リン酸やカリウム欠乏応答を担う遺伝子が植物の硝酸応答も制御することを示した。
図:転写因子STOP1とTCP20が制御する植物の硝酸依存的な根系構造改変の分子メカニズム
同研究は、筆頭著者の時澤睦朋博士研究員(岐阜大学連合農学研究科出身)が中心となり、岐阜大学応用生物科学部小山博之教授の研究グループ(榎本拓央博士研究員、小林佑理子准教授、山本義治教授)と、カナダのサスカチュワン大学 Global Institute for food securityのLeon Kochian教授の研究グループとの国際共同研究により実施。両グループは共同で解析を進め、硝酸濃度に依存して側根の形成を制御することによる可塑的な根系構造変化の分子メカニズムを解明した。
硝酸は土壌中に不均一に分布しており、植物は、硝酸濃度の低い土壌領域では側根の生育を抑制し、より高い領域で側根の発達を促進する。この応答は、植物が自らの限りあるリソースを用いて、硝酸濃度の高い領域で集中して硝酸を吸収することに貢献。低硝酸領域での側根発達の抑制は、硝酸吸収を担う硝酸輸送体NRT1.1が中心的な役割を果たしていることが報告されている。
NRT1.1は、硝酸が充分に存在する土壌領域では硝酸を輸送する。一方、硝酸欠乏領域では根の生育活性に関わる植物ホルモンであるオーキシンを側根形成の"場"である側根原基から運び出し、側根の形成と発達を抑制する(図)。しかし、低硝酸条件下における側根原基での NRT1.1 の遺伝子発現がどのように制御されているかは、これまで未解明だった。
同研究は、シロイヌナズナの転写因子STOP1の機能欠損変異体が、低硝酸条件下において側根形成抑制が阻害されることを同定。詳細な解析の結果、 STOP1は低硝酸領域に生育する根の側根原基の核(DNAが格納される細胞小器官で転写産物合成の場)に集積し、 NRT1.1 のプロモーター領域に直接結合することでその転写を活性化していた。
また、これまでに報告されていた NRT1.1 の転写に関わる転写因子TCP20と相互作用し、STOP1-TCP20で協調的に低硝酸条件下での NRT1.1の遺伝子発現を制御するため、STOP1とTCP20の両者の機能を欠損させたstop1tcp20機能欠損変異植物体は、硝酸欠乏領域における側根形成の抑制がほぼ完全に失われる(図)。
最近の研究では、転写因子STOP1は異なる相互作用因子と下流制御遺伝子群により、リン酸欠乏時の根系構造変化やカリウム欠乏時のカリウム吸収促進に関わることが報告されている。そのため、STOP1は、窒素、リン酸、カリウムという主要栄養要素の全ての応答に貢献。これは、転写因子STOP1が中心となり、土壌中に複雑に分布する土壌主要栄養源をバランス良く効率的に獲得する制御があることを示唆。STOP1に着目して作物の分子育種研究を発展させることで、効率的に土壌中の主要栄養源を獲得できる作物の作出が期待される。これは、作物生産量の向上や投入する肥料の削減などにつながる。
同研究成果は8月22日、『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌のオンライン版で発表された。
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