画像解析AI利用 植物の環境応答解析システムを開発 横浜市立大など研究グループ2023年9月25日
横浜市立大学木原生物学研究所 清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学 教授兼任)およびエルピクセル 島原佑基取締役、筑波大学 田中健太准教授、チューリッヒ大学 清水(稲継)理恵グループリーダー、農研機構 孫建強主任研究員、ヒューマノーム研究所 瀬々潤代表取締役社長(産業技術総合研究所 客員研究員兼任)、京都大学生態学研究センター 工藤洋教授、東京大学 黒木健 学院生、金沢大学 秋田純一教授らの研究グループは、野外での植物の状態をモニタリングするAIを利用した画像解析システム(PlantServationPlantServation)を開発。色素量の変動を指標として植物の環境応答を解析できる手法を確立した。
同研究で開発した植物画像解析システム「PlantServation 」概要
同研究ではNHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルにもなった牧野富太郎博士が名付けたことでも知られるタチスズシロソウなどの植物の画像データを400万枚以上収集し、解析。その結果、種間交雑に由来する植物が様々な環境に適応する頑健性をどのように示すのか解明した。
地球環境の変動による食糧生産への影響が危惧される中、実験室内ではなく野外の変動環境における植物の環境応答の研究は近年重要視されている。同研究で開発したAI を活用した研究手法は様々な作物や野生植物へ適用が可能で、生態学、進化学、農学などへの貢献が期待される。
同研究で対象にした植物は、世界中で研究が進んできたモデル生物シロイヌナズナとその仲間。中でもタチスズシロソウは日本に分布し、牧野富太郎博士が1913年に命名した。これまでの研究で、清水客員教授らは、タチスズシロソウが、シロイヌナズナの近縁種二種が交雑し、双方の染色体DNA を併せ持った異質倍数体植物であることを発見。そこで同研究では、種間交雑によってより広い環境に生育できる、環境頑健性が上昇するという仮説を検証する材料としてタチスズシロソウを利用した。
同研究ではまず画像データを収集・解析するシステムを独自開発しPlantServationと名づけた。ハードウェアそのものはデジタルカメラを農業用パイプに固定した簡易な設計だが、屋外の様々な天候の下における安定したデータ品質と長期間の撮影を両立するため、給電ケーブルや雨よけなど、工夫を凝らした周辺設備を開発。野外に植えたシロイヌナズナ属の多様な系統を時系列撮影して、のべ400万枚以上に及ぶ画像を取得した。
しかし、大規模な画像データから植物部分の情報を取得することは単純ではなく、中には葉の色が暗く背景とよく似ている画像もあり、人間の目でもよく凝らさないと認識が難しい。同研究では、深層学習によるセグメンテーションというAI技術を利用することで植物部分の自動認識に成功。さらに、植物の色情報からアントシアニン色素量を推定する機械学習の手法を用いて、画像データセットから色素の時系列変動を捉えることができた。
赤みを与える色素であるアントシアニンは、紅葉にも代表されるように季節や環境条件に応じて植物ごとに量が変動し、葉の色合いとして反映されるため、植物の環境応答パターンを知る上で良い指標として利用できる。
こうして得られた様々な系統の色素変動データを比較した結果、近縁の種間や系統間でも差異が見られた。さらに、それぞれの系統の変動パターンを気象データと併せて統計解析した結果、気温・日射量・降水量といった環境要因に応じて系統ごとに異なる応答パターンで色素量を調節していることが判明。気温が何度変わると何日後に色素量がどの程度変化するのか、といった詳細で定量的な環境応答パターンを、野外環境下の植物において初めて解明した。
さらに、進化学上の重要な知見も得られた。二つの近縁種の交雑から生じた異質倍数体は両親種より多様な環境に適応できると考えられる例が多い。一方で、異質倍数体の形質には謎が多く、親種の形質をどの程度受け継ぐのか、全く新しい形質を示すのか、という点は長年議論されている。シロイヌナズナ属のタチスズシロソウも異質倍数体だが、今回の画像解析システムでこの環境応答を調べたところ、特定の季節や環境下では親種のうちどちらか一方と似た環境応答パターンを示すが、季節や環境が変われば他方に似たパターンを示す、という複雑な組み合わせになっていることが判明した。
これは両親の性質を潜在的に受け継ぎながら、環境に応じて一方の形質を強く示すという異質倍数体の柔軟な性質を示唆。地球上のさまざまな環境で多様な異質倍数体が環境頑健性を示して繁栄する上で、この性質が重要な働きをしたのではないかと考えられる。
同研究成果は9月22日、オンライン国際科学雑誌『Nature Communications』に掲載された。
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