殺虫剤と水田の水温上昇 トンボ類に与える影響を解明 近畿大など研究グループ2023年12月4日
近畿大学大学院農学研究科博士後期課程1年の石若直人氏、農学部博士研究員の平岩将良氏、准教授の早坂大亮氏らの研究グループは、国立環境研究所室長の角谷拓氏、弘前大学農学生命科学部助教の橋本洸哉氏、シドニー大学名誉准教授のフランシスコ・サンチェス=バヨ氏らと共同で、水田の水温上昇により、生息するトンボ類の幼虫が受ける殺虫剤の影響が強くなり、個体数が大幅に減少することを世界で初めて解明した。同研究成果は、今後温暖化が進行するなかで、生物多様性に配慮した農業生産のあり方を検討する際に重要な知見となる。
水温上昇下における殺虫剤施用
水田は、日本の里山を代表する、生物多様性の高生態系だが、農地である特性上、作物の収量維持を目的とした農薬の散布が行われており、生物多様性損失の要因となっている。田植え時に使われる農薬のなかでも、特にネオニコチノイド系やフィプロニルなどの殺虫剤は、トンボ類の幼虫に対して強い毒性を示し、近年、深刻な個体数の減少が問題視されている。
トンボ類の幼虫は、水田の生態系において捕食者として重要な役割を果たしており、トンボ類の幼虫に与えるストレスの影響評価は、生態系の安定性や農業の持続可能性を検討する上で欠かせない。
水田に生息するトンボ類が受けるストレスとして、殺虫剤のほかに地球温暖化による水温の上昇が挙げられる。先行研究において、農薬などの化学物質が生物に与える影響は、高温下ほど強くなる可能性が指摘されており、水田生態系に生息するトンボ類が受けるストレスは、今後さらに強くなることが予想されている。
しかし、温度変化による殺虫剤の影響を検証した先行研究は、化学物質のリスクを評価する際の標準試験生物や、特定の生物種を1種だけ用いて、室内で実施されたものが大部分で、複数の種が存在する実際の野外環境を想定して行われたものはほとんどない。
同研究グループは、水田環境を模した実験的な生態系を野外に設計し、今世紀末までに予想される最悪の温暖化シナリオを想定して水温を常時4℃程度上昇させた場合に、殺虫剤フィプロニルがトンボ類幼虫に与える影響がどのように変化するかを検証。田植え後の6月後半から収穫期である10月後半にかけて、2週に1回程度の頻度で合計9回のモニタリングを行った結果、水温が高い状態で殺虫剤を使用した場合、殺虫剤のみを使用した場合以上に、トンボ類の幼虫の個体数が大幅に減少した。これにより、トンボ類の幼虫に対する農薬の影響は、水温上昇にともなって一層強まる可能性を明らかにした。
同研究に関する論分は11月18日、環境科学における国際的な雑誌『Environmental Pollution』にオンライン掲載された。
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