ビールの鮮度が劣化しにくい大麦新品種「ニューサチホゴールデン」成果を紹介 生研支援センター2024年3月25日
栃木県農業試験場を代表機関とする研究グループが、ビール会社からの要望に応え、ビールの香りや味が劣化しにくい新たなビール大麦品種「ニューサチホゴールデン」を育成し、品種登録された。農林水産業や食品産業における新産業の創出や技術革新を目指す研究に資金を提供する生研支援センターは、その研究成果をについて紹介している。
「ニューサチホゴールデン」は現在、栃木県、滋賀県と京都府で栽培されており、特にビール大麦生産量日本一の栃木県で普及が進んでいる。今後、「ニューサチホゴールデン」の普及がさらに進むことで、質・量の両面で実需者のニーズにあった国産ビール大麦の生産が推進されることが期待される。
ビールは、造りたてが一番美味しいと言われるが、一般的にビールは製造後、一定期間経過した後に飲まれるため、鮮度が劣化しにくいことが求められる。ビールは鮮度が劣化すると、段ボール臭と呼ばれる不快な香りが強くなる。これは、ビール大麦に含まれる酵素のリポキシゲナーゼ(LOX-1)が、鮮度劣化の原因物質と言われているトランス-2-ノネナールの生成を促進することによるもの。このため、ビール会社からは、香味安定性(香味が長持ちし、ビール中の不快臭や泡持ち低下を防ぐこと)に優れたビールを製造可能な、LOX-1 を含まない画期的な高品質品種の開発が強く望まれていた。
写真1:穂揃期のニューサチホゴールデン(提供:栃木県農業試験場)
そこで、研究グループは、LOX-1 を含まないビール大麦系統である「大系LM1」を母親、日本のビール大麦主力品種である「サチホゴールデン」を父親として交配し、その交雑後代に「サチホゴールデン」を連続戻し交配。これによって、「サチホゴールデン」と同様に粒が大きく多収、かつオオムギ縞萎縮病(Ⅰ~Ⅲ型)に強いことに加え、ビールの鮮度を劣化させるLOX-1を含まない「ニューサチホゴールデン」を育成した(写真1)。
「ニューサチホゴールデン」と「サチホゴールデン」で製造したビールを比較した官能試験では、「ニューサチホゴールデン」のビールの方が、製造1か月後においてダンボール臭、渋味等の雑味が抑制され、調和のとれた後味の良いビールを製造できることが示された。
栽培方法も「サチホゴールデン」と同じく栽培しやすいため、「サチホゴールデン」を栽培している産地では「ニューサチホゴールデン」を導入しやすい。栃木県では品種特性、品種開発の背景、栽培ポイントをまとめたマニュアルを作成し、普及に努めている。
ビール大麦の生産量は、栃木県が全国1位(令和4年産)。栃木県ではビール大麦の栽培面積の全てが、「サチホゴールデン」から「ニューサチホゴールデン」に切り替わった。「ニューサチホゴールデン」は、滋賀県、京都府でも栽培されている。
ある飲料メーカーでは、原料の麦芽に宇都宮産「ニューサチホゴールデン」を100%使ったビールを商品化た(写真2)。栃木県にある道の駅「ろまんちっく村」では、「ニューサチホゴールデン」を使ったビール製造工場見学やビール大麦の種まき体験もできる。また、栃木県にビール大麦を普及させた偉人「田村律之助」が卒業した小学校では、子供たちが「ニューサチホゴールデン」の種まき・麦踏みから収穫、製麦、ビール造りなどに取り組んでいる。
写真2:宇都宮産「ニューサチホゴールデン」麦芽を100%使用した製品
(出典:一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会)
実需者であるビール会社からは、「麦芽をつくる際、発芽の速さや胚乳内容物の溶解はともに優れており、問題のない品種」、「水分、タンパク含量は毎年安定しており、受入時に問題になったことは無い」と評価。また、生産者からは、「病気に強く、品質は良く、収穫時期は早く作りやすい」と評価されている。
ビール大麦は、実需者であるビール会社と生産者が、売買する量を予め契約で決めてから生産されるが、栃木県産のニューサチホゴールデンの契約数量達成率は、100%で、全国平均(95%)より高くなっている(令和5年産)。
「ニューサチホゴールデン」がさらに普及すれば、現在のプレミアムビール需要増の中で、より美味しくかつ国産原料であることをアピールできる商品の開発など、消費者や実需者のニーズに対応が可能。その結果、国産ビール大麦の需要が増加し、作付け増、生産増に結びつくものと考えられ、ビール製造、流通、麦芽製造など関連企業及び農業生産現場での経済的波及効果が期待できる。
重要な記事
最新の記事
-
豊かな食届ける役割胸に(2) ホクレン(北海道)会長 篠原末治氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年12月24日
-
鳥インフル 米ノースダコタ州、サウスダコタ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月24日
-
多収穫米への関心が高まった業務用米セミナー【熊野孝文・米マーケット情報】2024年12月24日
-
2年目を迎えた「国産DAY」国産農畜産物を選んで食べる新習慣が着実に浸透 JAグループ2024年12月24日
-
三重県いちご共進会開く 期待の新品種「うた乃」も初出品 三重県園芸振興協会2024年12月24日
-
環境計測と農業の革新技術 SDI-12対応「POC-SDI12小型USBモジュール」販売開始2024年12月24日
-
おにぎりの世界を知る「おにぎりサミット2025」開催 11自治体が参加2024年12月24日
-
「ポケットマルシェ」2024年の生産者ランキング発表 総合1位は愛媛の柑橘農家2024年12月24日
-
ブロードキャスターCF-D・CFA-DシリーズでBFトラクタシリーズ向け専用オプションをササキより発売 井関農機2024年12月24日
-
有機JAS認証取得の有機純米料理酒「自然派Style」から登場 コープ自然派2024年12月24日
-
平日クリスマスに厳選フルーツ「ピースタルト」8種 「フルーツピークス」全店販売2024年12月24日
-
特に値上がって困った野菜は「キャベツ」2024年の食品物価高を振り返る Oisix2024年12月24日
-
地域ブランドのおいしいものが大集合「北海道のごちそう祭」埼玉で開催2024年12月24日
-
雪国の重労働を軽減 遠隔操作式除雪機「ユキゾー」セール開催中 SUNGA2024年12月24日
-
食べチョク主催品評会「いちごグランプリ2025」出品者募集を開始2024年12月24日
-
マックフライポテトとコラボ「シャカシャカポテト ハッピーターン味」30日から販売2024年12月24日
-
ベトナムで農地管理改善カーボンクレジット登録へ 出光興産、Lasuco、サグリが協業2024年12月24日
-
キユーピーグループ「環境ビジョン2050を策定」2024年12月24日
-
【人事異動】クボタケミックス(2025年1月1日付)2024年12月24日
-
「第22回 高校生・高専生科学技術チャレンジ」米子高専にデンカ賞贈呈2024年12月24日