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マタタビはハチを欺く?雌花は栄養価の低い偽花粉で資源を節約 岐阜大学2024年6月12日

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新潟大学農学部の中山晴香学部生(当時)、岐阜大学教育学部の高田蘭子学部生(当時)、岐阜大学教育学部の三宅崇教授、新潟大学農学部の崎尾均教授(現名誉教授)らの研究グループは、マタタビが送粉者であるハチを欺く戦略をとり、栄養資源を節約していることを明らかにした。同研究成果は5月29日、『Plant Species Biology』誌のオンライン版で発表された。

図1:マタタビの花と花粉。雄花(a)と同様に雌花(b)にも雄しべがある。雄花の花粉(c)には発芽孔があるが、雌花の花粉(d)にはない。細胞質の染色が雄花の花粉(e)ではみられるが雌花の花粉(f)ではみられない図1:マタタビの花と花粉。雄花(a)と同様に雌花(b)にも雄しべがある。
雄花の花粉(c)には発芽孔があるが、雌花の花粉(d)にはない。
細胞質の染色が雄花の花粉(e)ではみられるが雌花の花粉(f)ではみられない

雌雄異株植物のマタタビは、雄花だけでなく雌花にも雄しべがあり、生殖能力を持たない花粉を作る。この偽の雄しべはハチを誘引する上で重要だが、植物が花粉につぎ込む養分を減らして安上がりにしているのかどうかは不明だった。

同研究グループは、植物にとって貴重な資源である窒素の量に着目し、雄花と雌花の雄しべや花粉で比較したところ、雌花の方が雄しべや花粉の窒素の量が少ないことが明らかになった。さらに、雌花の花粉は体積あたりの重量が低く、"かさ増し"されていることがわかった。

一般に植物と送粉者の関係は、お互いに得をする相利共生の関係と考えられているが、実際には常にそれぞれが自身の利益を最大化するように振る舞っている。同研究結果は、こうした植物と送粉者の間にみられる進化的な駆け引きを理解する上で重要な知見といえる。

図2:マタタビの雌花を訪花するトラマルハナバチ。後脚に集められた花粉が着いている図2:マタタビの雌花を訪花するトラマルハナバチ。後脚に集められた花粉が着いている

研究成果

研究グループは、まず雄花と雌花の花粉を観察し、雌花の花粉には発芽に必要な発芽孔がないこと、また花粉内部に細胞質がほとんど含まれていないことを確認した(図1c-f)。

次に、花の窒素成分に着目。植物は光合成により炭素を空気中の二酸化炭素から取り込むことができるが、窒素成分は根からしか得られないため、しばしば窒素は植物の生長を制限する要因となる。また、花粉を餌として成長するハチの幼虫にとっても、体を作るタンパク質の原料となる窒素成分は重要。そこで、研究グループは、窒素成分を雄花と雌花の各パーツで比較。その結果、雌花の雄しべは雄花の雄しべに比べて窒素の割合や量が少ないことが明らかになった。

図3:マタタビの雌花と雄花に含まれる花粉の中の窒素の割合(a)と、一花あたりの花粉の窒素含有量(b)。雌花花粉の窒素割合は雄花花粉の1/4で、雌花では一花あたりの花粉の窒素含有量は雄花のほんの6%にすぎない図3:マタタビの雌花と雄花に含まれる花粉の中の窒素の割合(a)と、一花あたりの花粉の窒素含有量(b)。
雌花花粉の窒素割合は雄花花粉の1/4で、雌花では一花あたりの花粉の窒素含有量は雄花のほんの6%にすぎない

さらに花粉の窒素成分を比較すると、雌花花粉は雄花花粉の1/4程度と低く、一花に含まれる花粉の平均窒素量は、雌花は雄花のわずか6%と違いは顕著だった(図3)。また、一花に含まれる花粉の体積は雄花と雌花でほぼ同じでしたが、乾燥重量では雌花の花粉の方が軽く、見た目だけ雄花と同じようにかさ増ししていることがわかった。

植物は花や葉が枯れる際に、一部の養分を再回収することが知られているが、成熟すると植物体から離れてしまう花粉からは再回収できない。そのため、生殖に使われない雌花の花粉ではなるべく栄養を投資しないようにし、その結果送粉の見返りとして幼虫の養育のために花粉を集めるハチを欺いていることになる。

今後の展開

植物と送粉者の関係では、送粉者を誘引する手段として花の広告(見た目や匂いなど)と報酬(花蜜や花粉、生育場所)は重要な形質とされている。花弁の大きさや花色など広告に関する形質は比較的容易に測定できるのに対し、花蜜の成分や花粉の窒素量など報酬に関する形質は定量的評価が難しいため研究が遅れている。今後、このような形質の定量的な分析を行うことで、植物と送粉者と利害関係の多様性の理解が一層深まることが期待される。

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