高機能型人工気象室 未来環境が水稲に与える影響の一端を明らかに 農研機構2024年6月26日
農研機構は、作物生育における季節環境を精密に構築する人工気象室「栽培環境エミュレータ」をを用いて、21世紀末の季節環境を人工的に構築し、水稲生育に与える影響を調査。その結果、現時点を超える気候変動の緩和策をとらない場合、高温と高CO2濃度が生育を早め、収量と品質の低下を引き起こす可能性があることを明らかにした。
「栽培環境エミュレータ」を用いた21世紀末の季節環境が水稲生育に与える影響の予測
農研機構は、作物生育における季節環境を精密に再現あるいは模擬できる人工気象室「栽培環境エミュレータ」に、大きさや色などの作物形質を連続で取得可能な「ロボット計測装置」を内蔵した「ロボティクス人工気象室」を開発し、イチゴの生育制御技術の開発など様々な研究に利用している。
今回、「栽培環境エミュレータ」を用いて、温暖化が進むと想定される将来21世紀末、2100年の生育環境温度、湿度、二酸化炭素CO2濃度等を人工的に構築し、温暖化が水稲生育に与える影響について調査した。
まず、過去の栽培年及び栽培地点における環境を「栽培環境エミュレータ」で再現し、水稲の開花までの日数が実際に野外環境で観察された日数と概ね類似した傾向になることを明らかにした。次に、2種類の気候予測シナリオに基づき、21世紀末の季節環境を「栽培環境エミュレータ」で構築し、水稲への影響を調査。その結果、現時点を超える気候変動の緩和策をとらない想定のシナリオの場合、基準環境1990年~1999年の平均環境と比べて生育が著しく早まり、開花までの日数の大幅な短縮、白未熟粒の発生の増加などの変化がみられることを明らかにした。
また、遺伝子発現を調べた結果、開花促進、高温反応、高CO2濃度反応に関わる遺伝子の発現に大きな変化が認められ、形質の変化と対応していることも明らかにした。
これら人工気象条件下での結果は、現時点を超える気候変動の緩和策をとらない場合、21世紀末には、高温と高CO2濃度が水稲の生育を早め、白未熟粒の増加が起こることを示唆する新たな知見となる。
今後、「栽培環境エミュレータ」を用いて、様々な作物における品種の環境応答の違いなどを明らかにすることで、気候変動に対応した品種の育成や栽培技術の開発が加速することが期待される。
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