栽培技術:STOP 獣害
【STOP 獣害】「ビリリッ!」 電気柵で退散2016年4月21日
農水省が公表している野生鳥獣による全国の農作物被害額は、平成11年から200億円前後で推移している。うち約7割はシカ、イノシシ、サルによるもの。全県のほとんどが、この3種の動物によって合計1000万円以上の被害額を出している。そこで生産者が鳥獣害から農作物を守るにはどうすればいいのかを探った。
◆導入に不安 費用対効果
神奈川県足柄上郡のJAかながわ西湘開成営農経済センターは3月22日、併設する直売所「フレッシュセンターあしがら」の生産者がメーカー担当者から話を聞く会合を開いた。会合は毎月開催しており、今回はJA全農かながわの提案でJAモデルの電気柵を販売するアポロも説明を行った。
この地域は、ハクビシンやイノシシ、シカなどの被害がある。JA全農かながわの生産資材担当者は、鳥獣害対策について「地域農業振興政策の一環として大切だと認識している」と話す。
参加者の中で、10aのハウスみかんに3年前から電気柵を導入した組合員は、「ハクビシンに困っていたが、電気柵を使うと、全く来なくなった」と効果に満足していた。
電気柵の説明を聞き、大きくうなずく参加者が多い中、「なかなか電気柵に乗り出せない」と話す組合員もいた。その理由を聞くと「1種類の獣害対策に電気柵を設置しても、他のシカ、カラス、イノシシなどの対策が必要となってきりがない。他の獣害対策のために電気柵の高さを高くすれば、費用もかかる。柵設置の費用と収益の差が上手く掴めなくて不安。購入まで至らない」と話した。そのほか「兼業のため管理を行う時間がとれない」など不安は絶えない。
◆獣害対策 3つの選択
鳥獣害が深刻化している要因として、積雪が減少し動物が移動しやすくなったことや狩猟者の高齢化と狩猟免許所持者が昭和50年から現在までの間に約3分の1にまで減少している(環境省調べ)こと、耕作放棄地の増加などがあげられる。
鳥獣害対策は「農作物を守る」対策、「獣を減らす」対策、そして双方を複合的に行う3つの選択肢がある。
「獣を減らす」場合、猟友会など狩猟免許所有者に動物の殺処分を依頼する。これには、補殺した動物の処理などで課題がある。地面に埋めるなら土地の所有者の許可が必要。また、焼却施設まで持っていくには、何十キロもある動物を運ばなければならず、難しい。
平成19年12月には鳥獣被害防止特措法が成立。現場に最も近い行政である市町村の約9割が被害防止計画などを提出している。
また農水省は20年から、特措法の趣旨を受けて、鳥獣被害防止総合対策交付金による支援を行っている。個人助成は難しいが、地域の市町村の計画にそって、侵入防止柵などの被害防止施設やジビエなど処理加工施設、焼却施設などに対して助成を行っている。実際にこの助成金を使い、焼却施設が4道県で8施設建設された。しかし、猟友会に頼んで動物の殺処分を依頼するには限界がある。
今、農作物の被害に困っている生産者には、「自分の農作物は自分で守る」という考え方が必要なのではないか。そう考えたJA全農生産資材部は、生産者が「農作物を守る」上で一番扱いやすく効果が出やすい、"電気柵"の普及に力を入れている。
◆設置は簡単 移動も楽々
鳥獣害について、JA全農は平成25年度の3か年計画から対策を盛り込んでいる。
JA全農生産資材部で電気柵を担当する藤江和晴氏は鳥獣害について「離農の原因にもなる深刻な問題だ」と認識。「農地のまわりに鉄柵をつくればいいという人もいるが、その土地がずっと農地であるのかは分からないし、堆肥散布などの作業管理の障害になるなど課題は多い。その点、電気柵は撤去が可能なので、作業性を大きく落とすことはない。そういう面でも農業での利用に向いていると思う」という。
また、電気柵の導入に踏み切れない組合員については、「ほ場を確認しないとなんともいえないが、どうしても電気柵を使いたくないという人であれば、動物の嗜好性が低い作物などに作付を変えてみることを1つの方法として勧めるだろう。トータル的な提案をしていくことが大事だ」と語る。畑の広さや地域などによってアドバイスは変わっていく。
しかしながら、多くの農家がいる中で1人1人を満足させることは難しい。そこで「全国組織のJA全農ができること」として「100点はとれないが、80点をとることができる『電気柵』の啓蒙活動に力を入れている」という。
電気柵の設置は比較的容易であり、設置の経験がない人でも、教えれば簡単にできるようになる。JA全農では県本部で研修を行い、各地域で指導ができるようにしている。
ただ、「課題はメンテナンスである」と強調した。電気柵を使う際には、雑草の処理が必要。電気が流れる部分に雑草が当たると漏電の原因となり、効果が減少するためだ。
◆雑草管理で 効果が持続
27年7月に静岡県で発生した感電事故では7人が死傷した。このときに使用されていた柵は、家庭用のAC100Vを変圧器を通してAC200Vに上げ、柵線に電流を流しっぱなしにするものだった。
JAモデルの電気柵を発売する(株)アポロの山本部長は、この事故について「手作りの設備で安全対策が構じられていない。連続して電流が流れたために感電事故につながった」と指摘。市販の電気柵は事故を起こした電気柵とは全く違う。
同社などが販売している電気柵はパルス電流で、一瞬電気が流れて動物を驚かす仕組みになっており、感電して死亡する事は無い。「雑草管理が大事だが、動物が近寄らなくなる。お客様からの評判はとても良く、売り上げは伸びている。安心してご利用頂きたい」と話す。
また注意点として「イノシシは、一度電気柵の中に入ることができると、食べ物のために電気柵で体が傷ついても、畑に入ってくる。絶対に電気を通しつづけないといけない」という。
JA全農生産資材部は26年から(株)アポロとともにJAモデルの電気柵を販売する他、罠(わな)などの販売も行っている。また全農県本部や経済連などを対象に研修会を開き、対策を続けている。
(2回連載で次回は現場編)
(写真)捕獲されたイノシシ(JA上野村提供)、電気柵の説明を聞く組合員
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