栽培技術:STOP 獣害
【STOP獣害】「畑守れた!」2016年4月26日
現地ルポ:観光ミカン狩り農園田代園
前編で取り上げたJAかながわ西湘がある神奈川県では、市町村が取り組む鳥獣害対策に対し、さまざまな支援を行っている。鳥獣の出没・被害状況の把握や、市町村が防護柵などを設置した際の交付金や補助金などだ。
同JA管内にある観光ミカン狩り農園「田代園」が、電気柵を導入して獣害対策に効果を得ているときき取材した。
◆鳥獣の被害 離農の危機
田代園の田代実氏は、イノシシの被害が深刻になり、1年前に電気柵を導入した。以前は2~3tほどミカンの収穫ができたが、食害などの被害で4分の1の600kg前後にまで減少した。田代氏は「獣害の被害があると、本当に勤労意欲がなくなる」と話す。
昔はミカンを苗木から育てられたが、イノシシやシカの食害で枯れたり、噛んで抜かれたりすることが続いた。さらには葉や果実まで食害にあうようになり、電気柵で対応を行うことにした。苗木も伸び始め、収穫量も2tに回復した。「知り合いに、電気柵が低くてシカが入ってしまった人がいる。自分はシカも入らない様に高めにしたので、1年たっても全然問題はない」。
導入には15万円ほどかかったが、10年使えると考えれば、1年に1万5000円の経費だ。最初はトタンで対策を行おうと考えたが、「観光農園だから美観も大切」。さらにトタンや網などは、設置の弱い部分から動物が入った事例もある。「フェンスを導入した人は、イノシシが網の下から押し上げて畑に入ったと言っていた。今はフェンスの下に、木で蓋をしているという。そのほうがお金がかかる」と話す。
電気柵を施して1年たつ畑の中を見せてもらった。
「葉っぱがちがう。下の部分は新しい葉で、上の部分は古い葉だ。動物が届く高さの部分は、全部食べられていた。だから新しい葉は、食べられた部分が新しく芽吹いてきた証拠」と嬉しそうに語った。
◆電気柵と罠 両方で守る
電気柵はタヌキやハクビシンなどの小動物対策に、1段目は低めにするのが良い。その分、雑草の除草は大変になり手間がかかるが、「その価値はある」と田代氏は断言する。
取材に同行したJAかながわ西湘開成営農センターの古谷センター長は「電気柵の下に防草シートをする人がいるけれど、動物の脚が土についていないと電流が流れにくくなるためオススメしない」と話す。
田代氏は電気柵だけでなく、猟友会に頼んで罠を仕掛けてもらうことで、鳥獣害対策の効果が上がるという。「一族で移動する動物の一匹が、罠にかかるなどして痛い目にあう。生き残った仲間は『この場所は危険だ』と思って、その地域から離れていく。しばらくたつと、別の一族がくるから、また罠をしかける。それの繰り返し」だ。
古谷センター長は、すでに防護柵を設置した人にも電気柵を勧める。「ハクビシンなどの小動物が柵を乗り越えて入ってくることがある。その場合には、食害にあう作物だけを電気柵で囲う対策ができる。簡単に撤去して別の場所に持っていけることが電気柵の利点。収穫が終わったら、また別の作物のために電気柵が使える」と話す。
最後に、「電気柵の導入を迷っている人は、費用対効果を考えるのでは」と田代氏はいう。電気柵には経済的な話が持ち上がる一方で、「農業はその人の生きがいだったりするから」と語る。
兼業農家は『大した面積ではないから、費用は小額』と割り切るか、専業農家は『これで生活をするからこそ、きちんと守る』ためと考えるか。電気柵導入には、自分が農業で何を大切にするかが決め手となるようだ。
(写真)電気柵の確認を行う田代氏、イノシシの足跡が残る道。のり面もイノシシが堀った、太陽光発電する電気柵の本体
(獣害に関する記事)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日