栽培技術:時の人話題の組織
【時の人 話題の組織】グエン・トアン・アン VTC送出し機関 日本法人VTC JAPAN株式会社 代表取締役社長 ベトナムの未来担う技能実習生の背中押す2016年6月29日
日本の「農協」に学び自国の農業を変えたい
日本の農業と農協に学び、自国の農業はもちろん活力ある国づくりのエネルギーを生みだそうと、若者たちを技能実習生として日本に送り出す事業に情熱を注いでいる若きベトナム人がいる。グエン・トアン・アン氏。34歳。ベトナム人技能実習生を養成し日本に送り出す事業を展開する企業の社長である。海外からの技能実習生は日本農業の労働力不足の解決に貢献するが、アン社長の思いはそれにとどまらず「日本に学びベトナム社会発展の礎を育てたい」である。JAでも農業労働力の確保は問題だ。そこで日本の農業や社会の何に学ぼうとし、そのためにどんな若者たちの背中を押そうとしているのか。アン社長を訪ねた。
技能実習生事業に情熱
◆ベトナムの若者に人気が高い「日本」
アン社長の専門分野は実は電子工学だ。半導体やICチップの設計・製造で実績を上げた経験を持つ。そのきっかけとなったのが日本への留学。学生時代に日本政府(小泉内閣)の国費留学生として招聘され、2002年に日本に来た。
「自分の手でICチップを作るという達成感を味わえました。日本での経験はすばらしく、多くのベトナムの若者が日本に学べば国の発展に間違いなく役立つ。そう考えるようになりました」。
ベトナム人はわれわれ日本人が考える以上に親日派だ。
ある調査ではベトナム人のうち「日本が好き」と思っている人は97%にも達するという結果があり、これは東南アジア諸国では群を抜いている。だから、ベトナムの若者の間で日本人気は高く、日本に行きたいと考える人は非常に多いのだという。
しかし、アン社長のように国費留学を実現できる若者はごくごく少数のエリートである。そこで考えたのが技能実習生制度を活用してベトナムの若者たちの日本行きの夢を実現すること。それを手助けしようと設立したのが、ベトナム人技能実習生送出し機関VTC(本社機能、訓練センター:ハノイ)なのである。
◆VTCならではの常駐体制で即指示
同社は2006年に送出し機関として認可され、07年から送り出しを開始した。現在、日本向けのベトナム送出し機関210社のなかで、VTCは唯一、日本法人「VTC JAPAN株式会社(本社:東京都千代田区内幸町1-1-1帝国ホテルタワー15階)」を設立、アン社長自ら送り出し先との対応や、実習生の管理などの先頭に立つとともに、全国に駐在員連絡所を拠点として設立している。
送出し機関は「駐在員」しか置いていないのが一般的だ。したがって日本の受け入れ先で問題が発生してもすぐにベトナム国内のセンター長や社長らに「ただちにこの点の改善を!」との指示を出せず、トラブルを再発させてしまうことがよくあるという。
その点、VTCは責任者であるアン社長が日本に常駐、日本で問題が発生した場合、トップダウンでベトナム国内の部下へ迅速に指示することが可能だ。「問題点のフィードバックが早いからトラブルが再発しない」。
また、日本に常駐しているからこそ、トラブルになりそうな問題も分かるため未然防止策として「これを教育カリキュラムに盛り込んで」とベトナム国内に指示も出せる。これも他に類を見ない「VTCならではの駐在体制」だと好評で、多くの受け入れ先から信頼されている。
◆農業に親しみ持ち夢の実現を目指す
実習生の受け入れ先は製造業に次いで「農業」が多い。アン社長はむしろ日本の農業の現場でベトナムの若者たちが経験を積むことに期待する。というのも工場労働など製造業の現場には向かない若者もいるが、かといって日本へ行って学び、自分の将来を変えたいという夢を諦めさせたくはない。
◆日本に特化した技能実習生育成
一方、ベトナムの若者たちは実家や親戚が農家という人が多く、アン社長自身も「子どものころから畑の作業や農産物の選別をしてきた」という。多くが生活のなかに農業がある環境で育っているから、一定の知識もある。いちばん親しみやすい職業が農業だといえるし、農業労働力の確保が課題となっている日本に行くための選択肢を増やすことにもなるというわけだ。
ただし、いくら日本が好きで農業に親しみがあるからといって、そのままで日本で働き生活できるわけではない。言葉はもちろんのこと、日本の文化や習慣を理解し生活に溶け込めるかどうか、もっと言えば人の気持ちが分かるのかどうかさえ、外国人実習生を受け入れるJAや農家にとっては気になるところだ。実際、外国人技能実習生とトラブルになる例を聞く。
では、どう実習生を育てているのか?
「それはVTCのセンター内で日本での生活を再現する訓練をさせること。他の送出し機関にはありません」。
施設は全寮制。ここで日本での仕事や生活習慣、ルールなどについての「教育」「実習」「体験」を徹底して受ける。つまり、ベトナム国内で日本に特化した技能実習生を育成しているのがVTCのもっとも大きな特徴なのである。
教育・実習・体験を明確に別のものとして扱っているのは、「教育」と一括りにしていては理解はできるかもしれないが、身には付かないからだ。一回でもいいから実体験をしたり、繰り返し実習しなければ身に付かないこともある。VTCはこうした実践的な研修に力を入れている。
◆文化や習慣を体験生きた日本語重視
写真1は、VTC訓練センターでの学生たちの様子。「土足厳禁・左側通行」の習慣を体験させている。ロッカーに靴を入れスリッパに履き替えて階段を上る。整列の重要性も学び身につける。
写真2は日本式の銀行、役所の整理券システムの体験風景。タッチパネルで整理券をとって日本語で呼び出されるまで順番に待つ。ベトナムでは整列習慣がなく割り込みは普通だというが、それは日本ではトラブルのもと。さらに用事が終わったら椅子をもとに戻すことも教えられる。訓練センターのなかにはコンビニもあるといい、「ポイントカードはお持ちですか?」とレジで店員に聞かれるという実にリアル!な日本体験もする。また、毎日2回の日本のラジオ体操も行っている。
ここまで細かい体験と訓練をする送出し機関は他になく、日本の生活に抵抗なく入りこめ、それが仕事先でもトラブルを起こさず、溶け込めることにつながるようだ。
◆農業と農協に学びベトナムを支える
日本語教育にも工夫を凝らす。一言でいえば「現場の生きた日本語を教える」である。たとえば教科書では「持ってきてください」、「片づけてください」などの用例があっても、現場では「持ってこい」だったり「仕舞っといて」だったりする。毎日現場で使っている日本語を身につけることが必要と"仕事日本語"という自社編集の教材を作成しているほどだ。また、言われたことが理解できないなら「きちんと聞き返す」ことも徹底指導しているという。理解していないのに「はい」と返事してはトラブルのもとになるだけだからだ。
そのほか日本では時間厳守が大切なことや、「教室」は「会社の職場」と同じであることを教えており、その授業時間も他の送出し機関のように50分単位ではなく、日本の職場のタイムスケジュールに合わせて設定している。
◆ ◇
VTCには常時600名が在籍している(写真3)。日本企業・団体から発注を受けたら募集条件に合わせて、すぐにでも候補者を第1次選抜することができる。これも特徴だ。
実習生の職種は希望や適正に合わせて選択するが、アン社長が農業分野に積極的なのはベトナムの農業を変えたいからでもある。
「田植機の作業を目の当たりにして感動しました。叔父、叔母は寒いなか一本一本手植えです。技術を導入しベトナム農業を変えたい。それは国を変えることでもあると考えています」。
◆ ◇
機械化と同時に重視するのは日本の農産物の「安全性」だ。ベトナムの経済発展は著しいが、輸入農産物も急増して生鮮野菜などの安全性を心配する人々も増えているという。実習生が安全でおいしい農産物を作る日本農業に学び、ベトナムに帰ってから安心して食べられる農業を実践していく。その積み重ねが国民の意識を変えていくとアン社長は考え、その手本となる日本農業を支えてきた「農協」に学びたいという。
VTCがベトナムの若者たちに呼びかけているのは「自分で自分の未来をつかみとれ」。出稼ぎ的に日本に行くのではなく、3年後に帰国したとき未来が拓けるよう日本に学ぼう、働こうという若者を送り出しているのである。それも国の基である農業を志す若者たちだ。地域に新たな風を吹き込む可能性もあるこうした事業に今後も注目していきたい。
問い合わせ先=東京都千代田区内幸町1-1-1帝国ホテルタワー15階。電話:03-3507-5668。
(写真)日本とベトナム両国の人材交流に貢献してきていることから、アン社長へ「東久邇宮国際文化褒賞」が今年贈られた。日本法人の東京本部スタッフと一緒に。
(写真1)VTC訓練センターで「土足厳禁・左側通行」の習慣を体験。
(写真2)日本式の銀行、役所の整理券システムの体験風景。
(写真3)日本式訓練センターで600名の学生が常時在籍。
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