栽培技術:現場の課題解決へ 注目のパートナー
【課題解決へ 注目のパートナー①】持続可能な稲作の相棒「アイガモロボ」 有機米デザイン2023年9月1日
水田の水をスクリューで撹拌して濁らせ雑草の生育を抑えようというアイガモロボットを開発した有機米デザイン株式会社(東京都小金井市)は、栽培ノウハウの提供から米の販売までトータルビジネスとしての拡大をめざす。JAや行政との連携も進めている。開発者の中村哲也同社取締役は「慣行農法と対立するような時代ではなく、農業をいかに持続可能にしていくかへの取り組みとして広げていきたい」と話す。生産者と中村氏を訪ねた。
「トロトロ層」が抑草 有機栽培の手間を軽減
毎日稼働で雑草対策
宮城県大崎市の小原勉さん
宮城県大崎市の小原勉さんは昨年までアイガモロボによる有機米づくりの実証試験に参加、今年の販売開始に合わせて2台を購入。50aの水田2枚で稼働させた。
田植えは5月23日。その翌日からロボを動かし6月下旬に引き上げた。朝6時から午後4時まで動くようにタイマーをセット。スクリューで水田内を移動しながら太陽光パネルでバッテリーを充電する。
訪ねたのは8月上旬。出穂期を迎えたほ場に雑草はほとんどない。田植え以降、アイガモロボを動かしただけで、とくに作業は行っていない。ただ、隣り合わせたもう一枚のほ場ではロボを引き上げた後の7月からウリカワが繁茂し始めた。
「こっちは以前からウリカワの発生に手を焼いていました。ただ、田植えの翌日からロボは毎日動くので除草効果はある。6月末までは抑草できると思います」と評価。草丈が伸びた7月から発生する雑草対策はまた別に考えなければならないと話す。
収穫は10月上旬。この地域の慣行栽培の平年収量は10a当たり540kgで有機栽培では400kg~450kgを目標にしている。小原さんは雑草のほとんどないほ場では450kg、多いほ場でも手作業で除草し400kgは取れると目標達成を見込む。
小原さんの経営面積は19.2ha。主食用米は14.4haを作付け、このうちアイガモロボを入れた1haのほか、機械除草する30aと合わせて1.3haで有機米を栽培する。
有機栽培の取り組みは20年ほど前から。最近10年は地元の酒造会社に提供する酒造好適米を有機栽培していたが、今年から主食用米に切り換えた。品種は「ひとめぼれ」。JA新みやぎを通じて有機米デザインが買い取ることになっている。
これまでは田植えから7日~10日後に機械で除草、その後、1週間ごとに2回除草していた。1日に4haほど除草でき作業効率は高いが、稲を傷めるというデメリットがある。一方、アイガモロボは稲へのダメージはなく、むしろロボが苗に触れることで生育を刺激するのではないかとの指摘もある。
大事なのは水深。最低でも10cmは必要でロボを稼働させている期間は深水管理が重要になる。スクリューが生む水流で巻き上げられた土が堆積し、トロトロ層(柔らかい土の層)ができる。泥による遮光で雑草を育ちにくくする環境をつくるだけでなく、土中から浮き上がった雑草の種子がトロトロ層のなかに埋没し出芽できなくする効果もあるとされる。
小原さんはトロトロ層を作るには有機物を入れることが大事でたい肥の投入は不可欠だといい、稲刈り後の稲わらを繁殖牛農家へ供給、そこからたい肥を提供を受ける地域内での耕畜連携にも取り組んでいる。
大崎市は世界農業遺産に認定され、市として環境保全型農業を推進している。小原さんは「アイガモロボの使いやすさが理解されれば、有機農業に取り組むきっかけになるのではないか」と期待する。
有機米"一貫経営"後押し
【インタビュー 中村哲也取締役】
有機米デザイン取締役 中村哲也氏
発明者の有機米デザインの中村哲也取締役は日産自動車で23年間、自動車の開発を担当していた。改めてアイガモロボの開発経緯と今後めざすことなどを聞いた。
◇
――開発のきっかけは?
2011年の東日本大震災のとき、東京で食料が手に入らないという経験をし、車を作っているだけでは食いはぐれてしまうのではないかと思いました。しかも自然災害だけでなく有事もあり得ると考えると、肥料も手に入らないかもしれない。それで庭で有機野菜を作り、翌年からは山梨県北杜市の知り合いの農家の有機米づくりを手伝い始めました。
しかし、苗床づくりから手植え、そして手押し除草機、だめなら手で除草と、それは大変な作業でこれでは農家も続かないと思いました。そのとき、農家のみなさんから車の開発をしているなら何とかできないか、と相談されました。さらにアイガモ農法に取り組んでいる農家などを呼んでくれて、農薬がない時代の農業はどうやっていたのかなどを教えてもらっていくと、共通すると思ったのが田んぼの水を濁らせることや、いわゆるトロトロ層を作るということでした。
そんなことを教えてもらい、来年は何か持ってきますよ、と言ってしまったのが開発のきっかけです。
――日産の社員としてボランティアで始めたと聞いています。
そうです。就業時間外に集まってロボットの試作と実験を繰り返しました。田んぼでいかに物理的に泥水を作るか、現在のスクリュー型になるまでに4年かかりました。
開発したアイガモロボを社員がボランティアで稲作支援をしていると日産が動画発信したところ、車より多い1000万ものアクセスがあり、それを見た全国稲作経営者会議の会長が来社され事業化の依頼を受け、その後、ヤマガタデザインからの出資と東京農工大学との連携によって2019年に東京農工大発ベンチャーとして「有機米デザイン株式会社」を設立しました。東京農工大から専門的な農業の知見を得て開発を進めてきたということです。
21、22年と実証試験を実施し、22年は34都府県で210台が稼働しました。
抑草効果は新潟県農業総合研究所が定める基準である幼穂形成期に1平方メートルあたりの雑草乾物重量50g以下をクリアしています。
アイガモロボ
――アイガモロボの発売は2023年からですね。事業としてはどう展開するのですか。
今年、初発売したロボはスクリューの形状などを改良した19代目になります。500台製造し井関農機に販売しました。推奨は70aです。ただ、条件の良いところでは1haで稼働しています。価格は1台50万1000円です。
われわれはアイガモロボの開発と販売だけではなく、有機米の栽培ノウハウや支援サービスの提供、さらに出口戦略として有機米の販売にも取り組みます。有機米に関わることをすべてデザインするという考えを有機米デザインという社名に込めました。
すでに実証試験段階からアイガモロボを使った有機JAS米は60kg2万6500円で買い取り、生協などに販売しています。昨年までに200tほど販売実績があります。
等級によって価格は違いますが等外の米でも買い取ります。それも慣行農法より高い価格で。今、おかゆやベビーフードに使えないかと商品開発にも力を入れています。
JAや行政との連携も進めています。
山梨県では北杜市とJA梨北、石川県のJAはくいと提携しています。それから大崎市の小原さんが出荷するJA新みやぎとは買い取りの契約をしています。山梨県北杜市と秋田県のにかほ市では学校給食にアイガモロボで作った有機米を提供することになっています。
8月10日には大崎市と連携協定を結んだほか、JAぎふからもロボの導入とともに、地域の竹などの資源を肥料として使う技術開発など資源循環型農業への取り組みで協力を求められています。
――一方で課題はどこにあるでしょうか。小原さんのほ場では雑草が伸びている田んぼもありました。
ほ場の雑草によって対応を変えていく必要があるかもしれません。たとえば、田植え時期を遅らせてアイガモロボを導入したり、あるいはロボを引き上げた後に機械除草をしたりなど技術を組み合わせ地域で農法を考えていく必要があると思います。また、丈夫な成苗を育てるなど、苗の作り方から変えることも求められるのではないでしょうか。
この農法は深水管理がポイントですが、深水管理をすると分げつが少なく収量が落ちると言われてきました。しかし、最近、東京農工大との連携で深水に強い稲があることが分かり、その系統の稲を見つけて自然交配して増やしていこうという研究もしています。
世界では人口がどんどん増えており肥料や農薬が足りないということもあり得るのではないか。みどり戦略でも25%を有機農業にする目標を掲げていますが、化学肥料や化学農薬がなくてもできる農業は一定割合必要だと思います。農家のみなさんも全部有機栽培にというわけではありません。少しでも増やそうというときにこのロボを活用してもらえばと思います。もう慣行農法と有機が対立する次元の時代ではなく、持続できる農業という視点で考えたいと思っています。
(JAグループは先端技術に取り組むベンチャー企業などへ出資、連携を進めている。このコーナーではこうした企業を「現場の課題を解決する注目のパートナー」と位置づけレポートしていきます)
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