事故を減らす研究を 抽象論でなく"実学"で2014年10月2日
日本農業労災学会がシンポジウム
日本農業労災学会と東京農業大学総研研究会は10月1日、東京都世田谷区の東京農大で、「農業労災学の体系化・実証的解明の基本課題と農作業事故予防のノウハウ・労災補償対策の革新方向」のテーマで第1回シンポジウムを開いた。行政、研究者、JAそれぞれの分野の報告をもとに意見交換した。
労働災害の研究は進んでいるが、農作業に伴う労働災害については、ほとんど研究の蓄積がない。しかし、建設業や製造業などの死亡事故は年々減少しているにも関わらず、農作業中の死亡事故は高い水準が続いている。このため、今年の4月に日本農業労災学会(三廻部眞己会長)が誕生し、新たな学問分野として農業労災の研究がスタートした。
今回第1回目となったシンポジウムでは、同学会会長の三廻部眞己氏が、日本農業労災学会の目指す方向について報告。このなかで、「『事故に注意しろ』という言葉は使わないで欲しい。必要なのは具体的にどうやって事故を防ぐかだ。それを研究し、提案する学会にしたい」と、実際に農作業事故を減らすことのできる"実学"の必要性を強調した。
また、門間敏幸・東京農大国際食料情報学部教授は、農業労災学の概念について講演。「農林漁業を取り巻く自然環境、労働の対象・手段・環境、制度、農林漁業経営者や労働者の意思決定の特質等によってもたらされる労働災害の実態の解明、防止法の検討、安全な労働環境の創造、さらには災害防止に関わる農林漁業者の意思決定メカニズムを科学の立場から学際的に究明する実学である」と定義付けた。
農作業安全に関しては、JAグループも取り組みを強めており、JA全中の営農・経済改革推進課の早川至審査役が、これまでの取り組み状況を報告。広報誌やポスターなど、事故防止や労災加入を呼び掛ける啓発活動はあるものの、管内事故発生状況の把握、年間取り組み計画を策定しているJAは少ないなど、取り組み状況の遅れを指摘した。
単位JAの取り組みでは、神奈川県のJAはだのの宮永均参事が報告。特に同JA管内は都市化が進み、家庭菜園や市民農園、さらにはJAのファーマーズマーケット出荷者など、小規模な経営が増えており、農業労災の補償対象緩和の必要性を強調した。同参事は「労災作業対象の広い『特定農作業従事者』の加入要件を緩和するとともに、農業経営の変化に応じた労災補償対象の範囲拡大で、生産者の加入促進がはかれるようにしてほしい」と訴えた。
このほか、国の農作業安全対策と平成24年農作業死亡事故調査結果について、農水省生産局生産資材対策室の松岡謙二室長が報告した。
シンポジウムでは、▽高齢者のための安全教育のプログラムの作成▽組合員以外の人への啓発▽農機メーカーによる農機の安全管理への取り組み▽現場で起こっていることの理論化・一般化の研究―などについて意見交換した。
(写真)
安全対策への取り組みのおくれが指摘された農業労災学会のシンポジウム
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