農作業中の事故を防げ 自助・共助・公助の連携で 日本農業労災学会がシンポ2017年5月16日
日本農業労災学会と東京農大総研研究会第3研究会は5月12日、東京都世田谷区の東京農大でシンポジウムを開き、自助・共助・公助の連携による農業労災事故防止のあり方について研究発表と意見交換をした。生産者の高齢化に伴い、農作業中の事故は依然として高い水準にあり、JAや公的機関の組織や機関による防止策を探った。
平成27年度の農作業中の死亡事故は全国で338件。前年に比べて12件の減少だが、農業就業者数に占める割合は増加傾向にあり、特に80歳以上が5割近くに達する。産業別の10万人あたりの死亡事故発生は、全産業の1.5人、危険を伴う作業が多い建設業の6.5人に対して農業は16.1人となっている。この数年横ばい状態にある。
シンポジウムでは、農水省生産局技術普及課の松田治男課長補佐が、安全対策や安全のための啓発活動などで、国の取り組みを報告。その中で、(1)事故情報の収集、原因分析のための仕組みづくり、(2)農機メーカーにおける安全設計の促進を強調。特に事故の起きやすい乗用トラクタの片ブレーキ防止装置、自脱コンバイン手こぎ部の緊急即時停止装置の開発に取り組んできた。
また、今年度春・秋の2回、「一人一人の安全確認と周囲からの"声かけ"から始まる農作業の事故防止」をテーマに、農作業安全確認運動を実施。期間は3月1日から5月31日までと、9月1日から10月31日まで。このほか農作業安全推進ブロック会議、農作業安全研修、労災保険特別加入制度の推進などについて話した。
現場の取り組みでは、JA長野県営農センター、北海道JA鹿追町が、それぞれの取り組みを報告。昨年度の長野県における農作業死亡事故は18件で、過去10年でもっとも多かった。この背景として、果樹産地である同県ではスピードスプレーヤが普及しており、「親が高齢になり、機械操作や園地の地形に慣れていない息子が、急に運転することが多くなっている」と、同センターの都築伸一次長は、高齢化が後継者世代の事故を招いているとみる。
事故防止の啓発活動では、(1)事故防止の啓発活動の活性化、(2)安全運動担当者の育成、(3)JA共済による保証の提供、労災加入促進の3つを挙げる。特に担当者の育成では、座学でなく実際の作業体験の研修も必要と指摘する。
JA鹿追町は畑作と酪農で生産額200億円以上をあげる農業地帯。コントラクター事業などで、大型農機が入っている。また農耕期間に繁忙期が集中することもあって、特に牧草作業中のハーベスタ、堆肥散布中のトラクタ、飼料用トウモロコシの収穫作業機など、これまで大きな農作業事故が発生している。
このため、労働基準監督署から是正勧告を受け、安全教育を徹底。特に職場のリスクアセスメントによる危険箇所等を洗い直し、それぞれの機械、作業に関して、あらゆる角度から点検し、対策を講じるとともに安全用具もそろえた。
農作業事故では社会保険労務士との連携も必要。広島県の取り組みで、特に農業における労災保険への加入で、社会保険労務士法人たんぽぽの会(労働保険事務組合)は、加入手続きや農業者の相談に応じている。JAは、労災保険相談やたんぽぽの会様式の書類作成支援、保険料の支払い確認、研修会の開催・広報などで支援している。
実際の農作業事故は転倒・転落が多い。事故実態を分析した日本農村医学会の立身政信副理事長は、転倒・転落事故は梯子、脚立、大型重機、倉庫、ほ場と、あらゆる場面で起きており、対策としては必ずヘルメットを装着するとともに、連絡手段を確保しておくことをあげる。
意見交換では、「農作業事故防止は自助(自己責任)でなく、もっと公助である行政等が積極的に関わるべきだ」、「自助では『もっと注意します』で終わり、事故防止のための今般的な発想の転換ができない」、「草刈り機のように刃が丸出しという機械は安全に関して非常識」、「高齢者向きの仕様になっていない」、「トラクタの一般道の走行は免許制度にすべきではないか」、「JA共済との連携で労災の加入促進を」、「労災を担当する厚労省と、事故防止について連携すべきだ」などの意見が出た。
(写真上から)事故防止の農機安全講習(長野県JA信州諏訪提供)、農作業事故防止でシンポジウム
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