生産資材:活力ある農業へ 経済界と農業界の連携強化
施設園芸でICT ネポン・「アグリネット」2015年9月18日
いつでもどこでもほ場がみえる
・大型・分散化施設に対応
・全国での導入約1400件
・データを蓄積情報の共有化
・システム実証生産者に推奨
活力ある農業と地域づくりをめざした取組みの一環として、JAグループは経済界との連携強化を進めており、現在20のプロジェクトが進行している(詳細はこちら)。このなかから今回は「農業ICTの提案(生産イノベーション)」をテーマに、ネポン(株)とJA全農が取り組んでいるICTクラウド「アグリネット」を利用した「施設園芸の見える化」の取組みを取材した。
◆大型・分散化施設に対応
トマト、キュウリ、ナス、パプリカなど、果菜類を中心に、施設栽培される野菜は多く、その栽培面積は、水稲の育苗施設の活用による複合経営もあり、拡大している。
施設での栽培(施設園芸)は、露地栽培とは異なり、自然環境とは隔離した閉鎖(完全ではないにしろ)空間で行われるために、作物への潅水だけではなく、施設内の温度や湿度あるいは二酸化炭素濃度などの管理・コントロールが必要となる。
そのために、施設内を加温するためのボイラや温風機や冷房・除湿機器、温度や湿度ムラをなくすための循環扇や送風ダクト、炭酸ガスCO2を供給する機器。それらの機器類を管理・コントロールする制御装置など、多くの機器が設置されている。
さらに最近は、生産法人などを中心に生産規模が拡大してきているが、それに伴い施設の大型化だけではなくほ場が分散するケースも増えている。
そのため、天候の急変や夜間など、施設の環境変化に的確に対応して管理・コントロールすることは難しくなってきている。とくに分散した複数のほ場がある場合にはなおさらである。
そのために最近は、ICTクラウドによる管理・コントロールを行うシステムが登場している。
ICT(Information and Communication Technology:インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)とは、IT=情報技術に通信コミュニケーションの重要性を加味したものだといえる。そしてクラウド(cloud=雲)とは、簡単にいえば「データをパソコン(PC)や携帯端末などではなく、インターネット上に保存する使い方、サービス」のこと。自宅や会社だけではなく、外出先やほ場など、さまざまな環境のPCやスマートフォンなどの携帯端末からでもデータを読んだり、編集したり、アップロードすることができ、仲間とデータを共有するグループウェアのような使い方もできる。
このICTクラウドを活用して、施設内の各種機器を、ほ場にいなくても、複数のほ場であっても同時に管理・コントロールしようというのが「農業ICTクラウド」だ。
◆全国での導入約1400件
施設園芸に必要な各種機器を開発・販売しているトップ企業であるネポン(株)は、いち早くこうした動向に着目し、NECと提携。さらに「農家の担い手不足や生産利益の希薄、栽培業務の非効率化などの問題を抱えている生産現場の改善などについて、JAや地域営農指導団体との勉強会などを行う」ことで、クラウド型のシステム導入を検討したとネポンの太場次一ICT担当部長。
2010年8月に、JAちばみどり(旭市)、JA富里市(富里市)と実証組織を立ち上げ、クラウド活用トライアルを実施。同年12月には総務省の絆プロジェクトに採択されるなどして、11年から実証事業の運用を開始して「施設園芸の見える化」を実現するとともに、クラウドグループウェア、クラウド対応バルブ潅水システム、遠隔制御クラウドシステムなどを完成させ、15年現在、すでに累計約1400件に導入されている。
「アグリネット」を推奨するJA全農生産資材部の中澤秀樹園芸資材課長は、温度・湿度・照度・二酸化炭素濃度など施設内の現在の環境を、スマホやPCで「いつでも、どこでも『見える化』した」ことを評価する。
◆データを蓄積情報の共有化
「見える化」によって、1日の施設内の環境変化の流れを数値やグラフ表示で感覚的に把握することができる。
「見える化」で施設内の現在の状況を把握したうえで、施設内の設定値をスマホやPCで「遠隔からも設定変更」することができる。しかも遠く「離れた施設」や分散した「複数の施設」を一元管理できる。
「見える化」の極め付きはWebカメラで施設内の状況が視認でき、機器の稼働状況も把握でき、制御できることだ。
また、施設内温度が設定値より高温や低温になったり、機器の異常、停電、落雷、通信異常などが発生した時には、警報メッセージを通知するが、画像付なので瞬時にどんな異常がどこで起こっているのか把握することができる新機能もある。
農業ICTクラウドシステムはいくつかあるが、価格がリーズナブルであることや「見える化」や「遠隔操作」などの使い勝手の良さから「認知度が広がっている」と中澤課長はみている。
こうしたデータの蓄積はもちろん過去データとの比較、グループウェア機能による「生産部会全体の管理」や栽培管理、生産ノウハウの分析、情報の共有化などコミュニケーション機能を活用することで、生産から販売まで一元的に管理することもいずれは可能となる。
アグリネットを導入したある生産法人では、
これまでほ場間を移動して管理していたのが「離れた場所からの監視が可能になった」。天候変動に対するほ場環境の維持が「遠隔制御でき業務が楽になった」。「ほ場での作業が減り業務が改善された」。会議や外出時も「遠隔で確認できるので不安が解消」。さらに感覚に頼った栽培管理から「定性的感覚が数値化できブレ幅が減った」とか「定量化された数値によるスタッフ間の共通言語化ができた」と、改善された点を列挙する。
◆システム実証生産者に推奨
JA全農ではJAや生産者にアグリネットを推奨するだけではなく、栃木県での実証ほ場「ゆめファーム」に導入し、自ら使うことでこのシステムの実証を行っている。
ネポンの太場部長は、進化するICTの動向をにらみながら、「ビッグデータビジネスへの展開」を次のステップとして考えているという。そして、アグリネットのクラウド基盤を活かした情報サービスを拡大し、アグリネットを使う「生産者が往来する国内最大規模の農業クラウドサービスを構築したい」と抱負を語ってくれた。
全農の中澤課長は、全国の施設園芸は20万戸強あるが「当面その1割、2万戸くらいを想定して普及していきたい」と考えている。
生産現場の蓄積された栽培技術やノウハウと時代の先端をいくICTクラウドが手を結ぶことで、新しい農業の形が着実に生まれてきているのではないだろうか。
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