生産資材:日本農業とともに
生産者の悩みに一つひとつ応えて ヤンマーアグリジャパン 増田 長盛代表取締役社長2016年5月20日
増田長盛氏
ヤンマーアグリジャパン
代表取締役社長
ヤンマー(株)執行役員
アグリ事業本部国内営業本部長
日本農業の歴史を考えるときに、1960年ころからの農業機械の出現とその技術的な発展を抜きにすることはできない。そしていま、生産者の高齢化や担い手不足など日本農業を取巻く環境は厳しいが、これを乗り越え農業の新たな時代を築こうとする動きも顕著だ。農機業界を牽引する一方の雄であるヤンマーアグリジャパンの増田長盛社長に、いま目指しているものは何かを聞いた。
変化する農業の未来へ
◆農業は国の基幹産業 進む経営の大規模化
「農業は国の基幹産業です。日本農業の生産物は、品質はもちろん安全・安心面でも非常に高い水準にあり、世界にうって出れるような産業だと思います」。
インタビュー冒頭に、日本農業について尋ねたところ、増田社長は明快にこう答えた。そのうえで、日本農業の現状について次のように分析した。
現在、農家戸数が年間3~4%減っているが、耕作面積の減少はそれほど大きくはない。5ha以上作付けしている生産者が全体の6割近くを占めているが、10年前には4割しかいなかった。つまり、大規模化が進んできていると指摘する。
米価がかつてに比べて、極端に下がっているので、大規模稲作農家は経営的に厳しいと思うが、それでも農業従事者が高齢化し、農家戸数が減るなかで、一定の大規模化はまだまだ進み、日本の農業市場が大きく変化していくのではないか、と見ている。
そうした変化に対応して「農業経営の改善、高効率な作業ができるような技術を含めた商品、サービスによるサポート・支援をしていく」のが、ヤンマーの仕事だという。その時の基本的な考え方は、「単なる物売りではなく、お客さまが困っていること、悩んでいることに応え、それを解決するためにはどうしたらいいか、いままでとは発想を変えて商品を開発し、サービス提供の仕方を考えていく」ことだと増田社長は強調する。
◆グループの技術を農業機械開発に活かす
ヤンマーは、ガスや石油による発動機の製造発売する会社として明治45年(1912年)に創業され、その後ディーゼルエンジンを製造するようになり、昭和8年(1933年)には、世界初の小型横型水冷ディーゼルエンジンを開発するなど、現在でも舶用を含めたディーゼルエンジンの世界的なメーカとして知られている。さらに、建機やガスヒートポンプシステムなどでも高い評価を受けている。
そうしたさまざまな事業で蓄積されてきた技術やノウハウを活かして、農業機械分野に参入したのは1960年ころからだ。ディーゼルエンジン耕うん機や農機業界初の動力式田植え機・苗まき機、さらにトラクターやコンバインなど、今日では農家にとってなくてはならない数々の農業機械を開発するトップメーカーとなっている。その各分野の技術を活かしているのも、ヤンマーの大きな特徴だといえる。
例えば、従来のディーゼルエンジンは環境対応から作業をいったん中断して、堆積した煤を燃やし切る制御をするが、昨年デビューしたトラクターのYTシリーズのエンジンは、作業を中断することなく煤を燃やし切るので、作業者のストレスもなく、排ガスもクリーンというものだが、これも産業用ディーゼルエンジンのトップメーカーとして世界で戦っているヤンマーならではといえる。
農業機械を開発することで、農業を省力化・効率化し収量を大幅に向上させ、「国の基幹産業」である農業の発展に貢献してきたヤンマーのリーダーが、いままでとは「発想を変える」という。それは具体的にはどういうことなのだろうか。
◆ICT技術を活用した商品・サービスの提供
稲作主体の大規模生産者、稲作だけではなく野菜などとの複合経営を行う大規模生産者、ハウス栽培や野菜、果樹中心といった高付加価値作物の生産者、中山間地や都市近郊あるいは兼業農家など、農業といっても多様で、規模や作物によって異なるニーズに合わせて開発される製品。例えば昨年から今年にかけて発売開始されたトラクター「YTシリーズ」(YT2、3、4、5の4シリーズがある)のようなものもあるが、増田社長が将来を見据えて期待しているのは、ICT(情報通信技術)を取り込んだ商品やサービスだ。
その代表が「スマートアシスト」だ。これは、GPSアンテナと通信端末を搭載した農業機械から発信される稼動情報やコンディション情報をもとに、顧客の農業機械を「見守るサービス」を行うものだ。
例えば、スマートアシストを搭載したトラクターなどの農機の状態を常にモニタリングし、故障などのエラーを早期に発見し、現地のヤンマー社員に連絡、連絡を受けた社員が状況を確認して顧客に電話連絡をして確認し、必要に応じて現場に駆けつけ処置をするなど、「できるかぎりお客様の作業を止めない」ことで、機械のダウンタイムの大幅な削減に貢献させる。
さらに、農機の可動範囲や稼働時間を予め設定しておくことで、設定外の稼働を検出したときに、電話などで連絡し、盗難時の早期発見をサポートするサービスもある。実際に盗難にあった農機の位置情報から所在地を確認し、警察に通報、早期逮捕を実現した事例もあるという。
スマートアシスト搭載機の稼働時間やエンジン負荷率・燃費などの情報をカルテとして提供することで、作業効率の向上やランニングコストの低減などや予防的な点検整備をすることも可能になる。さらに、ほ場ごとの栽培データを蓄積し「見える化」することで、農業経営を支援する有償サービスなど、スマートアシストは多彩な機能を提供している。
そして、世界中のスマートアシスト搭載機の情報は、大阪の本社ビルにある「リモートサポートセンター」で365日24時間体制で集中監視され、状況に応じてサービスマンやパーツセンターと連携して、機械トラブルの早期解決に貢献している。
◆効率化・コスト低減技術の開発
増田社長が、もう一つ近い将来を見据えて期待している技術が「ロボトラ」(ロボットトラクター)だ。
これは、作業工程を予め登録し、それに従って作業する無人の「ロボトラ」と有人のトラクターが協調して作業をすることで、1人で2人分の作業を行うものだ。大規模生産者の人不足問題を解決する有力なものだ。
ロボトラと有人トラクタも同じ作業を行ったり、ロボトラが砕土しその後ろから有人機が施肥や播種をするなど複数の作業を同時に行うことで作業効率が大幅に向上する。
増田社長は、最近の異常気象対策にもなるという。砕土と播種を一人あるいは1台の機械で行うと、砕土を終わってから播種作業をすることになるが、砕土作業の途中や播種作業に入る前に雨が降れば、最初からやり直しになってしまう。だがロボトラとの協調作業なら二つの作業が同時進行なので、適期にスムーズな作業が可能となる。
こうした誰でも・正確に・効率よく行える人とロボットによる協調作業を実現するために、いま、ヤンマーでは、北海道をはじめ全国4カ所で実証試験を行っている。
いま話題のドローンにカメラを搭載し、撮影データから作物の生育状態を分析をし、そのデータを作業機に伝え、施肥量をそのデータに合わせて調節することで無駄な施肥をしなくてすませ、コストを抑制することも、実用化が間近な技術だ。また、ドローン搭載カメラで葉色を見ることで、収穫時期を決めたり、どこから収穫を始めればいいかも「見える化」できる。
◆播種・育苗から収穫まで農業の全てに
さらに稲作農家の作業の効率化・省力化とコスト低減という課題に応えるものとして期待しているのが「密苗(みつなえ)」だ。慣行栽培では育苗箱1枚に100g程度の種籾を播種するが、その3倍の種籾を播種することで、育苗から移植の作業を大幅に減らすことができる。
増田社長によれば、水稲の生産コストの3分の1は人件費。その人件費の3分の1が育苗と移植(田植)だという。ここの作業を軽減することで、労務費を抑えることができる。
いまヤンマーでは、高密度に播種された苗を正確に厚く掻きとりしっかり植えつけるために、田植え機の苗を掻きとる爪や送るスピードを変えるなどの実証試験を行っており、今年の下期には販売を始めたいと考えている。
播種から収穫まで、農産物の生産過程の全てにわたって、生産者の悩みや困っていることに一つずつ応え、解決していく。それがいまヤンマーが進めている「商品・サービス・テクノロジー」だという。
時間の関係でこれ以上の話を聞くことはできなかったが、「本当は、もっともっと、いろいろあるんだけれど、全部紹介できずに残念だ」と、増田社長は口惜しんでいる。
◇ ◇ ◇
さまざまな優れた農業機械の登場が、日本の農業を大きく育ててきたといえる。その農業がまた大きな変わり目にきているともいえる。いままでとは異なる発想で、技術を開発し、サービスを提供することで、生産者のニーズに応え、次の時代を生産者やJAの人たちとともに拓いていこうという意欲を、このインタビューを通じて、ヤンマーという会社にみた。
(ますだ ながもり)
1984年4月 ヤンマー㈱入社、2010年4月 ヤンマー農機販売㈱九州カンパニー社長、2012年1月 ヤンマー㈱農機事業本部国内営業部長、2015年4月 ヤンマーアグリジャパン㈱社長、兼 ヤンマー㈱アグリ事業本部国内営業本部 執行役員部長
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