生産資材:時の人話題の組織
日本を農業で元気に 創業130年老舗ベンチャー企業の挑戦(上)・(株)カクイチ 代表取締役社長 田中 離有 氏2016年9月8日
「今こそ農業」多彩なビジネスを展開
聞き手:鈴木充夫前東京農業大学教授((株)協同経済経営研究所所長)
優れた強度と錆びないという特性を持った鉄骨ガレージや倉庫などの製造販売で高い評価を得ている(株)カクイチ。同社の倉庫を設置・利用している農家も多く、その頑丈さは東日本大震災や今年4月の熊本地震でも倒壊例が1件もなかったことで証明されており、実際、被災地で一時避難所としても利用された。同社の事業はそのほか農業・土木用の樹脂ホース製造や、ガレージ・倉庫の屋根を利用した太陽光発電、さらに農業の新技術開発へと多様に発展してきた。基本は「世の中のために」。今後は農業から日本を元気にする事業も視野に入れている。創業130年の同社の歩みと今後の方針などを株式会社カクイチ代表取締役社長田中離有氏に聞いた。
◆創業時から先義後利のポリシー
鈴木 創業は明治19年、ちょうど130年前ですね。
田中 曾祖父の田中敬三郎が創業した金物屋が当社のスタートです。
当時は、鍬など農具も丈夫な金物になっていく時代で、その意味では創業から農家と接点があったのだと思います。
創業時の理念は、安全第一、品質第二、採算は3番目、です。「安全第一」とは私の理解では社員の健康、安全をいちばんに考えるということです。2番目の品質とは「信用」です。品質への信用が高まる仕事をすれば利益は後からついてくるだろう、だから採算は3番目だと考えたのだと思います。先義後利、良いことをしっかり行えば利益は後からついてくるという考えです。
店は長野県の旧更埴市の中心地、北国街道の交差点で松本など遠方からの客も多く、何時間もかけて来たのに希望の品物がなかった、などということがないよう品揃えを徹底したということです。
誰が来ても同じ値段で売るという当時としては斬新な「正札販売」も行いました。しっかり品揃えをする、つまり納期を守る、そしてお客によって値段を変えないというのが当初からのポリシーです。そういう創業者のDNA、考え方がカクイチグループに根づいていると思います。
◆苦境をバネにビジネスモデル
鈴木 戦後に現在の業態へと大きく変え成長するわけですね。
田中 私の父、田中健一が3代目の社長です。父は学徒兵として出征する経験をし、戦後、家業を継ぎました。
ただ、小売業では事業が拡大しないと考え、鉄の統制が解除されたときに、板金屋さんに卸す鉄の問屋に転身しました。
しかし、問屋としてモノを売っていてもやはり付加価値がつかないということから、浅間山の鬼押し出しからヒントを得てプラスティックの押し出し、つまり成型を父は思いついたといいます。今度はメーカーへの転身です。これが現在の農業用散水ホースなどの樹脂ホース事業となるわけですが、おそらく時代が工業化を求めていたのだと思います。昭和34年です。
鈴木 まさに高度経済成長が始まるころです。
田中 その後、ホース事業に加え鉄骨によるガレージ、倉庫などの製造をするハウス事業部門も立ち上げました。
高度成長でホース事業はアメリカにも工場進出しました。ところがその後、オイルショックで販売面で提携していた日本企業が撤退してしまい、当社が取り残されるという事態に。当時、ホース工場には300人ほどの従業員が働いていましたが、もちろん辞めてもらうことなどできません。
そこで、ハウスの販売をホース工場の従業員にしてもらうことにし、そのためにショールームを作りました。販売の仕事に慣れていない工員さんでも販売できるようにするには、商品の現物をお客さんに見せて丁寧に説明し、さらにはきちんと工事もするという責任施工にすれば信用してもらえると考えたわけです。ということで品質重視、施工、管理という事業がかたちになりました。メーカーですが自分たちで売るという選択をし、それもショールームで説明、販売するというビジネスモデルを昭和55年に生み出したのです。
鈴木 最初にビジネスモデルを考えて、というより苦境に陥ったことをきっかけに発想を転換したのですね。
そしてその責任施工というかたちになったことがガレージ屋根の上に太陽光パネルを置く事業にも結びついたわけですね。
田中 その前にミネラルウォーター事業があります。これも人との出会いがきっかけになったものですが、滋賀県内の地下深層から湧き出した超軟水を通信販売するという事業です。
父は戦争体験もあって結局、人間にとって大事なものは水と食料だという思いが強かったこともありますし、事業規模を大きくするというよりも本当に意味がある、人に喜ばれる仕事は何かということを自問自答しながら事業を手がけていく姿勢でした。
ただ、ミネラルウォーターを売る事業ではありますが、定期購入ですから買い続けてもらわなければなりません。逆にいえば、気に入られなかったら断られてしまうビジネスです。このころ父が強調していたのは今後は信用を第一にしたリピートビジネスが重要になるということです。
そう考えるとハウス事業は基本的には一度買えばそれで終わり、です。倉庫を毎年買う人はいませんから。ですからショールームで出会ったお客さんとの関係が切れてしまう。そこをどうすればいいかを考えているころ、東日本大震災が発生して、生きていくための水や食料の大切さ、さらにエネルギーの大切さも思い知らされたわけです。
鈴木 カクイチの倉庫は倒壊例は一件もなかったということですね。その倉庫に自家発電の電気もあれば生活もできる......。
◆農家とのつながり重視して
田中 そうです。倉庫の屋根を利用して太陽光発電すればいいと考えたわけです。しかし、思ったより売れませんでした。やはり必要性をなかなか感じてもらえなかったからです。
そこで、お客さんとの接点が薄れてしまっている問題を考えたときに、屋根を20年間お貸しください、という事業として展開することを考えたわけです。太陽光パネルの設置後のアフターケアもしっかりしますし、屋根の賃借料もお支払いしますという事業です。その仕組みをPRすると1年間で2000件以上の契約実績となりました。現在では7000件以上のお客さまと、日本中に小さな発電所を広げるプロジェクトにご賛同いただいています。
そのときに気づいたのはなおざりにしていたお客さんとの関係です。何のための太陽光事業なのかといえば防災目的でありお客さんのメリットになるからですが、これは人と出会うためのビジネスだということです。いい人と出会うためであって太陽光は目的ではなく手段なんだと。
そう考えるとこの事業で信頼関係ができた農家さんが困っていることを解決することはできないかと、今度は農業そのものの手助けもできないかと考えました。
・日本を農業で元気に 創業130年老舗ベンチャー企業の挑戦 (上) (下)
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