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生産資材:元気な国内農業をつくるためにいま全農は

【畜産生産部】全農の若い力がリード 配合飼料の品質管理  JA全農飼料畜産中央研究所品質管理研究室2013年10月11日

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・代替有利原料を追求
・消費者視点も重要
・飼料の品質を確認
・畜産農家を「分析技術」で下支え
・放射能検査に奮闘
・スピーディに報告
・「川上」でチェック
・誰でも測定可能に、注目される新手法の開発NIR

 世界的な気候変動や需要構造の変化からトウモロコシ価格が高止まりして配合飼料価格が高騰するなど、畜産経営を取り巻く情勢は厳しさを増している。こうしたなか畜産経営を持続させるため、JA全農では代替有利原料の研究をはじめ、飼料の栄養成分分析、安全性確認などに力を入れている。
 今回はその取り組みの最前線を担っているJA全農飼料畜産中央研究所品質管理研究室の若き職員たちを訪ねた。

畜産農家を「分析技術」で下支え

◆代替有利原料を追求

 品質管理研究室(以下、研究室)はおもに4つの役割を担っている。それは[1]安全・安心な畜産物生産のための飼料原料の開発、[2]全農グループ取り扱いの飼料原料、製品、畜産物などの各種成分分析、[3]品質管理の研修会などを通じた分析技術の普及、[4]新しい分析技術の開発、である。
 そのためにここ数年、大学や大学院で専門的な技術を習得した職員を採用し、研究室の機能強化を進めてきた。

◆消費者視点も重要

繁益陽介さん 日本農業全体に求められるのが生産コストの削減だが、畜産の場合、飼料コストをいかに抑制するかが課題となる。とくに配合飼料の主原料であるトウモロコシ価格が高騰しているため、それに代わる有利原料をどのくらい配合できるのかは大きなテーマだ。
 この取り組みでは24年度に米国の大干ばつでトウモロコシ相場が史上最高を記録した際、研究室では研究所の各畜種研究窒や畜産生産部関係部署と連携して、小麦がどの程度までトウモロコシとの代替が可能かを追求した。
 同研究所では、いくつかの配合パターンで豚の飼養試験を実施し、摂取量、増体率を検証したほか、肉質の評価も行った。具体的には豚肉の品質にとって重要となる脂肪の質だ。トウモロコシを小麦と代替することで飼料中の脂肪酸組成が変わり、その結果、豚肉の脂肪の質に影響することもある。脂肪が柔らかいと食肉処理に支障を来すほか、消費者の食味の評価にも関わる。 このように代替原料の開発には生産コストの抑制だけでなく、生産された豚肉に対する食肉業界やその先の消費者の評価まで視野に入れた取り組みが求められる。
 さらには「系統飼料工場が採用できる原料なのかどうかを的確に判断することわれわれの試験には問われます」と研究室の小畑陽広さんは話す。こうしたさまざまな課題に応えて試験を行った結果、松原和義室長は「昨年の小麦を代替原料にする取り組みは、配合飼料価格の抑制につながったと考えています」と話す。

(写真=繁益陽介さん、入会19年。左は規制値が設定されている3種のカビ毒を同時に分析できる機器 「分析技術の進化は年を追うごとに早くなっています。研究機関として常に技術を先取りし、飼料会社、関連会社へ貢献したいと思います」)

◆飼料の品質を確認

押川直樹さん 2つめの役割である全農グループで取り扱っている飼料原料、製品などの成分分析は、水分、粗タンパク質の一般分析だけでなく、系統飼料工場では分析が難しいアミノ酸分析なども行っている。
 たとえば、養鶏の産卵率に関係するメチオニン。飼料中のメチオニンの含有量が落ちると卵をよく産まなくなるといわれる。系統飼料工場が生産者に供給している飼料について、こうしたアミノ酸まで分析してその品質をチェックしているのが同研究室ということになる。
 したがって、かりに産卵率が落ちているが「原因が分からない」という農場があったとき、飼料の成分には問題がないことが判明すれば、それ以外の要因を追求することができることにもなる。
 このような品質チェックによって系統飼料工場も農場に対してより的確な経営改善策を提案したり、生産者と一緒になって問題点を考えたりすることもできる。飼料工場の支援策ともなっているといえる。
 また、最近では飼料のカビ毒に対する新たな分析手法も確立した。カビ毒については国が飼料についても平成14年にデオキシニバレノール、ゼアラレノン、15年にアフラトキシンの3種に規制値を設定したことを受け、規制値が設定された同年から研究室で定期的に穀物原料等をチェックしてきた。
 カビ毒は発ガン性を持つが、これが発生したトウモロコシ等の穀物を家畜に与えるとその毒性から増体しない、下痢を起こす、など繁殖成績にも肥育成績にも悪影響があることが分かっている。
 さらに最近では消費者の関心も高まってきたことから、これまで3種類のカビ毒を個別に検査していた機器に換えて、3種同時に検査できる高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析計を平成19年に導入した。

(写真=押川直樹さん、入会6年。右は粗タンパク分析を燃焼法で行う機械 「情勢がめまぐるしく変わるなかで、研究室にはこんな研究を、という声も多く寄せられます。幅広く対応できる知識と技術を高め、さらに研修会以外にも出向く場をつくって発信していきたい」)

◆放射能検査に奮闘

小畑陽広さん この機器の導入によって平成16年の年間検査数400件を1200件へと3倍にすることができた。
 繁益陽介さんは「今後規制が検討されているカビ毒についても、規制された場合にただちに対応できるよう、行政の研究機関とも連携しながら分析方法を検討しています」と話す。
 また、東日本大震災による原発事故は福島県にいまだに大きな打撃を与えているが、放射性物質の拡散は広い地域で国産飼料原料に影響を与えた。
 研究室ではセシウム分析を行っているが、飼料メーカーとしては商系メーカーに先駆けた取り組みである。
 平成24年7月にはゲルマニウム半導体検出器を設置したこともあって、月200点ほどの検査を行ったという。対象は飼料用米、米ぬか、ふすまなど米・麦由来の飼料原料。畜産農家だけでなく、これらを生産している耕種部門の農家にとっても大問題となった。

(写真=小畑陽広さん、入会8年 「全農は飼料原料調達先の多産地化を進めていますが、それぞれの産地で品質は異なります。瞬時に原料の安全性、品質を見極められるような簡便・迅速な検査につながる技術開発が大事になると思っています」)

◆スピーディに報告

田村祥雄さん ただ、研究室での放射性物資分析は初めてのこと。田村祥雄さんは「サンプル試料の詰め方で測定値にバラツキが出ることや、分析後の試料の処理方法など試行錯誤が続きました」とその苦労を話す。
 分析時間は1件あたり20分程度と高速だが、点数が多いため、研究室の若いスタッフはローテーションを組み総出で夜遅くまで分析にあたったという。
 それも、現場には結果を速やかに伝えることが求められるからだ。「現場では毎日飼料を家畜に食べさせているわけですから、われわれもスピーディに報告することを心がけました」と有野真弥さんはいう。

(写真=田村祥雄さん、入会4年 「飼料価格が高騰するなか新規原料開発をしていきたい。そのための迅速な分析機器も必要で大学や学会などからも情報収集し蓄積していきたい」)

◆「川上」でチェック

 放射性物質の検査はもちろん、カビ毒の分析にしても、あるいは新しい飼料原料の成分分析にしても研究室の仕事は「川上でチェックする」ことだといえるだろう。それだけに全農の飼料事業部門や畜産現場に分析結果などを素早くフィードバックすることが求められることになる。
 これに対して生産者に配合飼料を供給しているくみあい飼料工場の品質管理部署を「生産者へ日々、安全・安心な製品を供給するための最後の砦だと思っています」と話すのは押川直樹さんだ。
 品質管理研修会は、そんなくみあい飼料工場会の品質管理部署を対象に基本、年1回、同研究所での集合研修として行われている。全国の22工場から各1名は参加し、これまで▽一般成分(水分、粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分)、▽カルシウム・リン、▽飼料添加物、▽簡易キットを使ったアフラトキシンの分析技術等を研修してきた。
 24年度の研修会で押川さんは、粗タンパク質分析法と原料成分値管理法について講義をした。いずれも配合飼料を扱ううえで重要な内容で、参加者は研究室に備えられている分析機器に触れながら研修を受けることができた。

◆誰でも測定可能に、注目される新手法の開発NIR

有野真弥さん 参加した品質管理担当者からは「さっそく工場での分析に活用したい」との声も寄せられており、今後も現場に役立つ技術情報の収集と活用法を意識して業務に取り組んでいきたいという。この研修は全農グループとして安全・安心な配合飼料供給を持続させるための人づくりでもある。
 新しい分析技術の開発も研究室の役割だ。
 最近、導入されたのは近赤外分光法(NIR)。これはサンプルに光を当ててその吸収度を測定する分析手法である。
 通常の化学分析には取り扱いに注意が必要な試薬が必要で、分析技術の取得にも時間がかかり誰にでもできるという技術ではない。しかし、このNIRは▽測定者を選ばない、▽簡便かつ迅速、▽試薬を使わない(=安全で低コスト、無公害)、▽多成分同時分析が可能という大きなメリットがある。すでに選果場の糖度分析や食肉や水産加工の品質管理など広く利用されている。
 飼料工場でもNIRを導入すれば分析担当者の安全確保や低コスト化につながるだけでなく、製品分析をより迅速に行うことができる。それにより飼料工場で配合飼料の成分をより安定したものとすることが可能になると考えられ、今以上に安定した畜産物の生産につなげていくことが可能となる。
 研究室では平成22年にNIRを導入し、粗タンパク質、水分、粗脂肪を対象に検量線(成分分析のための近赤外光の基準量)の作成に着手、一部の工場で導入したことから現在、現場で分析結果の検証を続けている。こうした新技術の開発・普及も持続可能な畜産生産のためにおおいに期待されている。

(写真=有野真弥さん、入会2年 「コスト低下が課題となる一方で安全・安心もこれまで以上に求められています。現場の品質管理担当者をサポートする分析技術の開発と普及に力を入れていかなければと思っています」)

 

【JA全農飼料畜産中央研究所とは?】
JA全農飼料畜産中央研究所の所在地
 1972年全購連飼料研究所として設立。73年に現在の名称に改称。品質管理研究室のほか、養鶏研究室、養豚研究室、生物資源研究室、畜産技術中央講習所など。また、北海道に上士幌種豚育種研究室、笠間市に笠間乳肉研究室(北海道に訓子府分場)。2013年9月1日現在職員数59名。機能は[1]農家組合員の生産性向上に貢献する飼料、優良素畜の開発[2]高度化する畜産技術の農家組合員への普及[3]飼料等の安全性や安定性に関わる品質管理[4]人材育成(講習・研修)だ。

JA全農飼料畜産中央研究所外観

 

【特集・元気な国内農業をつくるために“いま全農は…”】

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