生産資材:元気な国内農業をつくるためにいま全農は
【燃料部】野口栄部長に聞く 総合エネルギー事業の展開で時代の変化に対応2014年1月27日
【石油事業】
・業界上回るセルフ化率
・コンパクトSSでライフラインを確保
・被災地域へ燃料を安定供給する
・地域インフラを守る唯一の拠点・JA
【ガス事業】
・FOMA網活用した安全化システムへ移行
【新エネルギー事業】
・家庭ごとの“ベストミックス”を提案
・JAグループ関連工場の省エネ・省コスト化も
・農業施設を利用した太陽光発電支援事業
東日本大震災・原発事故を機に、燃料・エネルギ―を取り巻く環境は大きな転換期に入っている。今後、再生可能エネルギ―など新エネルギーへのシフトの加速化や、それに伴う石油・ガスの需要減少など、エネルギ―の供給・消費構造は、急速に変化していくことが予想される。こうしたなか全農燃料事業では、石油(SS)とLPガス事業を2本柱としてきた従来の枠組みに、新エネルギー分野も加えた3本柱の「総合エネルギー事業」として取り組みを進めている。LPガス事業と組み合わせた新エネルギー事業や、太陽光発電事業も含めた新エネルギー事業等を組み合わせながら、従来の化石燃料事業も維持・発展させていくという視点が重要となっている。
こうした認識の下、燃料事業全体の大きな方向性としては、石油・LPガス事業の小売分野強化も含めた体制整備をすすめるとともに、太陽光発電をはじめとした新エネルギー分野の事業化や、JA・子会社などへの省エネ提案等を強めていきたいと、野口栄燃料部長は語る。
【石油事業】
JA-SSの地域での
競争力を強化
◆業界上回るセルフ化率
JA石油事業では、各地域における石油事業全体の方向性をマスタープランとしてとりまとめ、その実践を通じて、組合員・地域利用者のニーズに応える体制を整えながら、地域におけるJA-SSの競争力強化を図っている。
具体的には、まず、各JAで中心となる基幹SSを明確にして、統廃合とセルフ化を進め、SS個々の運営力を強化。さらに、配送拠点の効率化・推進力強化を目的に、施設の統廃合を進めている。
ピーク時には5824か所あったJA-SSの総数は、25年12月末で2795カ所と半減している(下図)。
一方セルフSSは、24年度末で800SSを達成。昨年12月末現在では833SSとなり、このうち、コンパクトSSが11カ所(うち東日本大震災被災地への復興支援SSが4カ所)となっている。
セルフSS比率は、21年度末は13.8%と業界全体の18.5%を下回っていたが、23年度末に24.4%と業界全体(22.7%)を逆転、24年度末には28.5%、25年12月末では、29.8%と業界を上回るスピードで進展。これは小売販売力強化にもなり、揮発油数量は目標の300万kl達成の見通しで、シェアもこの1年で5.7%から6.0%に拡大した。
(写真)
野口栄JA全農燃料部部長
◆コンパクトSSでライフラインを確保
25年2月から実施された消防法改正により、設置40年以上(一部30年以上)の老朽化タンクヘの対策を行うことが義務付けられた。全農では該当タンクを全て洗い出し、[1]該当施設を廃止し、新たに作るセルフSSに統合[2]需要が少ない地域の場合、廃止して既存SSでカバー[3]地域のニ―ズがあり廃止できずセルフへの統合もできない地域では、ライフラインSSとして残す、などのケースに分けて個別対策を検討・実施している。
交通事情や地域の需要動向を踏まえたマスタープランに沿って、統廃合を進めることが基本だが、[3]のケースでは、最低限必要なものだけを設置した省スペ―ス設計で、取扱油種も必要最小限とし、精算方法はカ―ド類に限定し、設置コストが最小限に抑えられるコンパクトセルフSSの提案を行っている(下表)。
◆被災地域へ燃料を安定供給する
津波被害を受け、地域の市街化計画、道路計画などがまだ固まっていないため、本格的なSSのインフラが整えられないという地域にも、組合員・地域住民は暮らしており、燃料供給は必要不可欠だ。そこで、東日本大震災の被災地復興支援策の一環として、被災地に全農がSSを建設、各JAが運営する取組みを展開し、表のように4カ所を開設した。
いずれも、被災地域の燃料供給インフラを早期復興させることを優先し、低コストで短期に建設できるコンパクトセルフSSとしている。地域組合員・利用者に支持され、今後も被災地域のライフラインとして、燃料の安定供給に貢献することを期待している。
◆地域インフラを守る唯一の拠点・JA
ハウスの被覆2重化による省エネ化、A重油を焚かなくても栽培できる品種への転換などにより、営農用A重油の消費量は滅少。生活用暖房油種の灯油も、電気・ガスなどへの燃料転換・省エネが進み需要が大きく落ち込んでいる。
商系業者が需要の少ない地域から撤退し、JAグループが地域のインフラを守る唯一の燃料供給拠点だという傾向が、ますます強くなっていくことが予想される。JAグループは、組合員・地域住民のくらしを守ることも重要な使命の一つであり、最低限、ガソリン・灯油の供給を一定程度守ることは必要である。使命をいかに全うしていけるか、経済効率を高める努力を重ねながら、取組んでいきたいと野口部長は考えている。
【ガス事業】
安全化システムの普及で
保安の高度化を実現
LPガスは、東日本大震災の発生後は災害に強いエネルギーだと一時的に見直され一定の数字を保っていたが、3年近く経ったいまでは、オール電化に戻りつつあるように思われる。
LPガスは、少子高齢化による世帯数減少、競合他社の切替え、オ―ル電化の影響等により取扱いが毎年3%程度滅少しており、現在40万tを割り込んでいる。この傾向に歯止めをかけるため、22年度から燃料転換の取組みを始めたが、一部の県を除き数量増加には至っていない。
◆FOMA網活用した安全化システムへ移行
LPガス利用者がもっとも不安に思うのは、電気と同じくらい安全なのかということだ。全農グル―プでは、自主点検、査察などによって保安確保を図っているが、安全化システム「ガスキャッチ」の普及拡大による保安の高度化に、従来にも増して力を入れていく考えである。
「安全化システム」の中でも、電話回線ではなく無線のFOMA網を活用した「ガスキャッチ」の普及戸数は、導入後6年を経た25年12月末現在で45万件を突破した。安全化システムの加入件数は全体で135万件であり、保安体制をより確実にするため、FOMA網を使った「ガスキャッチ」への移行に力を入れていく。
【新エネルギー事業】
太陽光発電を軸に
事業を展開
新エネルギー事業の取組みの柱は[1]LPガスと組合わせたホームエネルギー事業[2]関連工場などでの省エネ・省コストな燃料転換[3]JAMCソーラーエナジー合同会社による太陽光発電の普及の3つだ。
◆家庭ごとの“ベストミックス”を提案
東日本大震災と原発事故によって、日本の発電方式は、大規模集中型から個別分散型に向かうことが想定されている。電力会社だけではなく他の事業者、さらには個々の家庭でも発電・蓄電される方向に、政策的に誘導されるものと思われる。
こうした中、全農としては、災害時において優位性の高いLPガスと、太陽光発電や太陽熱温水器を組み合わせた、家庭単位の分散型エネルギーの普及に取組んでいる。
また、オール電化への切替えが進められるなか、LPガスと太陽光で発電した電力を上手に使い分け、余剰電力を売電・蓄電する組合わせのメリットをアピールしている。
具体的には、住宅用の太陽光発電等の省エネ関連機器の取扱いを通して、将来的な燃料電池や蓄電池等を含む、大きなホームエネルギー需要に対応できる推進基盤の整備を進めている。
今後のホームエネルギーは、従来からの化石燃料(ガス、灯油)と自然エネルギー(太陽光、太陽熱等)、燃料電池、蓄電池などの新規エネルギーを、家庭ごとに“ベストミックス”の組み合わせで供給されると想定され、競合他社はその体制を整備しつつある。
しかしJAグループでは、事業の基本となる小売部門に関する人員・人材、機構・体制が十分とはいえない。エネルギーの多様化が進むと想定される中、小売販売力の強化とホームエネルギ―取扱い体制の構築は基本的な課題だといえる。併せて、事業競争力の強化に向けて購買力の強化を図るとともに、物流・システム等の効率化によるコスト削減を実施していく。
◆JAグループ関連工場の省エネ・省コスト化も
産業用エネルギーの分野では、JAグループ関連会社等の事業所や工場における、Co2削減と熱効率向上など環境性と経済性を両立させる、ESCO・オンサイト事業を積極的に進めている。
例えば、ボイラーの更新時期にある工場に対して、高効率ボイラー等への更新とともに、石油からガスヘの燃料転換を併せて提案するときに、LPガスに加えLNG(液化天然ガス)や都市ガスも含め、初期コストとランニングコストが最も削減できる方式を提案し、LNG・都市ガスの取扱い数量年間で2万5000tとなっている。
◆農業施設を利用した太陽光発電支援事業
全農は24年10月22日「JAMCソーラーエナジー合同会社」を三菱商事・JA三井リースと共に設立。24年7月に開始された再エネ法に基づく「固定価格買取制度」に対応する、農業施設利用太陽光発電支援事業のための特別目的会社として設立し、農業施設への太陽光発電の導入について最適な設備の提案と施工・維持管理などの面から支援を行っている。
太陽光発電システムの設置候補先は、JA等の共同利用施設(選果場・集出荷場)を中心にリストアップされ、24年度価格の適応容量は、当初計画の13MWに対し80件・30MWとなった。
合同会社の先行物件として、全農いわて純情米集出荷センター(約800kW)、JA全農青果センター神奈川センター(約900kW)が、25年9月から発電開始となった。
24年度価格獲得済案件のうち、12月末現在で完工した案件は3.5MW(9件)、26年3月末までに合計14.8MW(49件)が完工する見通しだ。
先行案件の発電量は、計画値を上回る状況(おおむね120%)で推移しており、屋根設置型については、遮熱効果も高いと評価されている。
25年度は、国の調達価格等算定委員会において、太陽光発電(10kW以上)の買取価格は、太陽光発電設備費用の低下を反映して、40円/kWHから36円/kWHへと見直された。全農の25年度当初計画は57MWだが「26年度も買取価格の引き下げが想定されること」を考慮し、25年度買取価格の確保を最優先に取組んでいく。
設置工法の開発により設置対象に拡大された畜舎の屋根や、JA等からニーズの多かった農地を除く遊休地を重点対象に取組みを進めている。一般企業による取組みでは、農地を転用し大規模に設置するケースが目立つが、全農としては、農地は農地として使われるべきだろうと考えている。特に屋根については、いわば遊んでいる資産なので、有効に使えるのなら大変ありがたいといった声や高い関心がよせられている。
今後も、施設所有者への告知活動やJAへの巡回推進を強化し、広く設置候補先を募集することとしており、25年度末には累計120MWを目指したいと野口部長は強調した。
(写真)
全農いわて純情米出荷センターの屋根に設置された太陽光発電システム
【特集・元気な国内農業をつくるために“いま全農は…”】
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