生産資材:JA全農がめざすもの
【JA全農がめざすもの】第2回生産資材事業の重点課題 営農販売企画部・久保省三部長インタビュー2014年7月23日
・バリューチェーン構築へ
・加工・業務用野菜端境期に出荷、周年供給体制確立
・業務用米コスト抑制し農家所得を向上
・関連部門がベクトル揃え
・成果上げ始めた6つのパイロットJA
・「FOEAS」を露地で、品種選定も全農らしく
・法人との関係強化でTACをスキルアップ
・物流コスト見直し輸出対策も積極的に
営農販売企画部(営販企部)は、4年前に当時の営農総合対策部と大消費地販売推進部を統合して、生産と販売をつなぐ部署として発足した。
久保部長は、部発足時に事業企画課長に就任し、それ以来、営販企部とともに歩んできているが、この間、一番意識してきたのは「製品とか商品・青果物にバリュー(価値)がないと、生産と販売の連携はなかなか実現できない」ことだという。
価値ある提案で
生産と販売をつなぐ
◆バリューチェーン構築へ
よくサプライチェーンとかバリューチェーンといわれるが、基本的にサプライチェーンは「それぞれのパーツの最適化を全体の最適にする」ことだが、バリューチェーンは「できた青果物などの商品そのものにバリューがあって、それが価格に反映され、そのことが結果的にそれぞれのパーツに反映されていくこと」だと、久保部長は位置づけている。
したがって事業部ではない営販企部が、一番意識しなければいけないことは「どんな価値があるものをつくるのか」だと強調する。
部発足4年がたった今「ターゲットにするバリューが見えてきたので、それを現在進めている中期3か年計画の最終年度である来年度までに具体化するのが当面の課題」だという。
◆加工・業務用野菜 端境期に出荷、周年供給体制確立
久保部長がイメージしている「バリュー」は、個別課題ごとにそれぞれ存在している。
例えば、加工・業務用野菜であれば、それぞれの品目の端境期に供給できることだ。それはキャベツやタマネギの4?5月どり、あるいはレタスの冬どりによって、国産品で周年供給できるようにすることだ。
端境期の供給を実現することで「国産農産物の販売力強化」につなげていくことは、当然、輸入野菜対策にもなる。それを実現するために「この産地でやれるのか、どんな品種がいいのか」を提案していく。いままでもそうした取り組みをしてきた産地はあるが、そこでは投機的な意味合いが強いケースもあった。そうではなく、販売先とも「しっかりつなぎ、安定化させていく」ことが「加工・業務用野菜でのバリュー」だということだ。
(写真)
加工業務用野菜の収穫のようす
◆業務用米 コスト抑制し農家所得を向上
コメに関していえば、いま業務用米が全需要の4割を占めている。業務用米として考えれば、家庭用のコシヒカリのようなコメではなく、業務用に適した特性を確保しながら安価で安定的に供給されるものが求められる。しかし、生産者にとっては価格が抑えられるので、所得を確保するために「生産コストをどう抑えるか。どうやって収量を確保するか」が大きな課題となる。
そのために「どんな品種で、どのような栽培方法をするのか」を考えなければならない。
その一つの考え方がいま全農が推進している「鉄コーティング水稲直播栽培」のような直播栽培だ。従来より生産コストを抑制することで農家所得を確保する。これも一つの「バリューを生み出す」方法になる。
◆関連部門がベクトル揃え
加工・業務用需要にどう応えていくのかは、長年にわたって全農が課題としてきたことだが、ここ数年で「フォーカスを定めて、それに応える産地も生まれてきており」、従来に比べて大きく前へ進み始めた。
具体的には、野菜の生産農家・産地に、販売先の決まっている加工・業務用野菜について「こういう品種で、端境期というバリューも加わるので、試算をすると所得はどれくらいなる」という具体的な提案をしている。
これまでは各部が単発の取り組みで企画していたが、最近は、関連する部門がベクトルを揃えて動き始めている。加工・業務用野菜でいえば、バリューをつくることは営販企部で行い、産地開発や重点品目推進は園芸総合対策部が担当する。さらに、近々、稼働するキユーピーとの合弁会社「(株)グリーンメッセージ」の存在は、「系統としての出口」を持つことになり、「仕組みが一気通貫型になり、産地へのインパクト」ともなっている。
つまり、各部が単独で動くのではなく、全農としての総合力を発揮してさまざまな課題に取り組んでいるということだ。水稲に関して言えば、関係各部が一堂に会して1月31日に開催した「鉄コーティング水稲直播推進大会」がその例だといえる。
さらに今年度から「飼料用米対策」も営販企部の仕事となっており、飼料自給率向上とともに水田農家の所得向上のためにも、飼料用多収穫米生産への取り組みが期待されている。
◆成果上げ始めた6つのパイロットJA
このように全農が総合力を発揮していくなかで、営販企部がどういう役割を果たしていくのか。久保部長は、改めて「価値あるものをどう具体的に提案するかというチャンス」がきていると位置づけている。
その一つとして、「元気な産地づくり」という課題のために全国に6つのパイロットJAを設定し「大規模営農モデルの構築」に取り組んでいる。
国はこれからの農業のあり方として、法人や集落営農を含めて圃場を集約化した大規模化をめざしているが、この「大規模営農モデル」は、大規模営農の担い手にどのような提案ができるのかを実証・検討するモデルだといえる。
現在、水稲・露地園芸・施設園芸などの品目特性、平場・中山間地・都市近郊といった立地条件、集約型・分散型・多数圃場管理型といった営農条件を組合わせ、全国6カ所で実施している。
昨年は各モデルそれぞれに営農計画を提案し、それを具体化するために「試行錯誤した」が、今年はそれを受けて実際の栽培が始まり、いままでにない成果を上げ始めている。
このモデルJAは来年度を最終年度とする3か年計画で取り組まれているが、営農計画策定支援システム「Z-BFM」(全農と農研機構の共同開発)を使って、スタート以前のデータとスタート後のデータを比較して、何が変わったのか、何が変わらなかったのかなど、データによる指標づくりを行うことで、こうした実証モデルの水平展開をするベースにしていきたいと考えている。
また6つのモデルの経過を見ながら、もう2、3カ所、大規模営農モデルが設定されていないブロックへ広げていくことも検討している。
◆「FOEAS」を露地で、品種選定も全農らしく
生産現場を元気にするための営販企部の仕事の一つに農研機構と連携した栽培を含めた新技術の導入と普及がある。
現在推進している「鉄コーティング水稲直播栽培」もそうだし、作物に最適な地下水位を維持できる地下水位制御システム「FOEAS」(フォアス)もその一つだ。
「FOEAS」については「優れた仕組みだが、これは目的ではなく手段」だと久保部長はいう。だから例えば加工・業務用野菜を生産し契約販売するためなど、「なんのためにこれを導入するのか目的を明確にし、『Z-BFM』で試算し、FOEASに投資をして収益がどうなるのかをきちんと明らかにして導入」しなければいけないということだ。「安定生産の手段としては非常に優れているので、露地野菜などでも有効に活用したい」ということだ。
◆法人との関係強化でTACをスキルアップ
品種の改良や開発については、かつては自ら開発していた時期もあるが、現在は野菜を中心に、量販店や生協のバイヤーを対象に営農・技術センターで「品種商談会」を開催し、バイヤーが興味をもったものを実販売に結びつける取り組みをしている。
ここで展示されるものは、全農が独自開発したものもあるが、各種苗会社が開発したものも含めて、「マーケットのバリューに合うものをどう選ぶのか」が、全農の機能だと久保部長は考えている。例えば、各種苗会社が開発したキャベツを一同に並べて比較し、産地化につなげられるのは、「全農だからできる機能」だといえる。
生産と販売をつなぐうえで大きな役割を果たしているのが、TACの活動だ。
現在、280JAで約1700人のTACが活動している。そのうち、実際に生産者に提案しその結果としてJAの経営体質を変えていけるような水準であるステップ5・6に達しているのは約58%(平成25年度)だ。これを「さらに引き上げるのが今年度の目標」だ。
「全JAにTACを」という考え方もあるが、現在の中期3か年では「現在TACが活動しているJAをどうステップアップして、事業にしていくのかが課題」だと考えている。そして「事業としてTACがJAの中で位置づけられることで、まだTACに取り組んでいないJAへも広がっていくのではないか」ということだ。
(写真)
2013年11月、都内で行われたTACパワーアップ大会のようす
◆物流コスト見直し輸出対策も積極的に
今年度の目標は全農として「法人協会などとの意見交換」を行いながら、JA管内の「法人との関係強化」だと位置付けている。
最近、国も力を入れている国産農畜産物の輸出も営販企部の仕事だ。
全農グループの輸出金額は、24年度30億円から25年度40億円と「確実に伸びている」。現在、日本全体の精米の輸出金額は7億円、青果物の輸出金額は80億円程度であるが、国も、輸出全体として倍増計画を打ちだしており、輸出量は今後も増えるだろう。そうなると、従来通りの個別対応では「日本産品としてのバリューが十分確保できない」と考えられる。
こうした課題解決に対して全農への期待が高まっている。「窓口一元化」「新たな市場開拓」などに取り組むことと「国内だけではなく、輸出先も含めた物流コストについて見直しをしていきたい」と久保部長は考えている。
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