生産資材:JA全農がめざすもの
【JA全農がめざすもの】第2回生産資材事業の重点課題 天野徹夫・肥料農薬部長インタビュ2014年7月24日
・品目ごとでは限界、生産から販売まで
・水稲で大幅に削減施肥・防除の労働時間
・大規模水稲で進展生産費を3割削減
・他部署と連携で提案品種選定から販売まで
・未利用資源を活用
省力施肥技術導入も
・難防除雑草が増加除草剤使用が増える
・AVH-301を活用地域に合わせキメ細かに
・ジェネリック農薬など価格水準を引下げ
・新規ウンカ剤開発へ西日本多発で期待
肥料農薬事業の26年度の重点実施施策は、中期3か年計画で掲げている[1]省力・低コストの推進、[2]事業競争力の強化による、水稲分野の維持強化と園芸分野の拡大、[3]国内肥料・農薬生産基盤の整備、[4]海外原料・原体の安定確保と事業拡大という統一事業方針の着実な実践だ。
省力・低コスト化
トータルで実現
なかでも「省力・低コストの推進」が「一番大きな重点項目だ」と天野部長(=写真右)は強調する。そして、従来は肥料は肥料、農薬は農薬と品目ごとにどう施策を進めていくかを考えてきたが、昨年度からの中期3か年計画では「全農としての総合力を発揮するなかで、トータルで省力・低コストを実現する」という方向で取り組んできている。
その理由は、「品目施策だけでは、低コスト化に限界がある」ということもあるが、「農業として考えれば、品種を選んで、栽培方法を考えて農作物を生産し、生産したものをなるべく高く売り切る」ことを目指すわけで、「生産から販売までがつながっていなければ意味がない」ことになる。そのなかで生産コストに占める肥料や農薬の割合は品目によっても若干異なるが、合わせても10%前後にすぎないし、これまでにもコストを低減するためのさまざまな努力が払われてきている。
◆品目ごとでは限界、生産から販売まで
ちなみに、コメの生産コストを過去20年に遡ってみてみると、60kg当たりの生産コストは1990年の1万9706円から2012年には1万5975円と19%削減されている。そのうち肥料・農薬代は90年の1859円/60kgから12年は1908円と、この間の原材料値上がりにもかかわらず、ほぼ横ばいとなっている。
また、省力資材の普及や防除技術の開発、作付規模の拡大などによって、水稲の施肥・防除に係る労働時間は、90年の6.6時間/10aが12年には3.0時間/10aと半分以下に削減されている。
これをさらに詳細に見てみると、病害虫防除に係る労働時間が1.4時間から0.5時間に短縮されている。除草は2.4時間から1.4時間へ1時間ほど軽減されているが、他の項目に比べるともう少し短縮できる余地があるのではないかと考えられる。
また、基肥に係る労働時間は1.7時間から0.8時間に半減され、追肥についても1.1時間からわずか0.4時間に短縮されている。
除草作業のように、もう少し労働時間を短縮する余地のあるものもあるが、コスト削減のために相当な努力がいままで積み重ねられてきていることが分かる。
◆大規模水稲で進展 生産費を3割削減
また、地域別にみると、病害虫が多発する影響もあって水稲の生産費は「西高東低」の傾向にあるが、規模別には、15ha以上の規模では1万1000円/60kgと12年の平均である約1万6000円にくらべるとすでに3割削減を達成していることがわかる(以上のデータは農水省などの調査に基づいて全農が独自に分析したもの)。
国は水稲の生産コスト4割削減を目指すとしているが、前述のデータを見ても、実際に「肥料・農薬を無料にしても4割削減を実現するは難しい」のが現実だといえる。
したがって「4割削減」をするためには、生産資材単品ごとの価格抑制に「今まで以上に努めていく」が、それだけではなく「生産コストが変わらなくても、収量が倍になれば、コスト率は半分になる」ので、コストそのものの抑制と収量増大を「セットにして考えていく必要がある」と天野部長は強調する。さらに地域別や規模別などに応じたきめ細かな対応も考えていく必要があるとも。
もちろん「さらなるコスト低減に向け」て、基肥や除草などの「ターゲット作業での省力化の追求」として「苗箱まかせ」(水稲育苗箱全量施肥)や「AVH-301」(除草剤)の普及・推進にこれからも取り組んでいくが、同時に今後の課題として天野部長は次のことをあげた。
水稲では、[1]新たな栽培技術・品種による生産性向上の追及、[2]業務用・飼料用・輸出向けなどの新規需要米にマッチした施肥・防除体系の構築、[3]時代にマッチした新たな防除技術「サーモシード」(温湯消毒の代替)の導入だ。
(写真)
鉄コー直播の推進大会
◆他部署と連携で提案 品種選定から販売まで
もう少し具体的にいえば、鉄コーティングなどによる湛水直播による育苗・田植えの省力化。あるいは育苗・田植えの省力化と同時に稲体の健全化による安定生産が可能な「疎植栽培」がある。そして大幅な反収増や業務用米として期待されている「みずほの輝き」や「あきだわら」など多収性品種の導入もある。
これらには、解決しなければならない課題もあるが、とくに大規模化した集落営農や法人などで、省力・低コスト化と増収で生産性を向上させる方法として可能性が高いといえる。
園芸作物においても、[1]作物に対応した全量基肥施肥・基肥重点施肥など緩効性肥料の活用、[2]養液栽培やイチゴ高設栽培などに対応した養液肥料の取扱拡大、[3]「うぃずOne」など新栽培システムに対応する施肥技術のパッケージ化、[4]2作1回施肥法、うね内施肥など機械施肥との連携による施肥技術の確立、などが考えられている。
繰り返しになるが、肥料農薬部だけで取組むのではなく、例えば鉄コーティング用の機械の導入やそのコストとか、疎植栽培用の田植え機の普及とか他部署と連携して、「全農全体として力を結集して取り組んでいく」ことで、大きな効果が生まれてくるので、「品種の選定から栽培方法、販売まで、全体としてベクトルを合わせて」展開していこうとしている。
◆未利用資源を活用 省力施肥技術導入も
そうしたなかでも、施肥・防除のコスト引き下げに向けた努力も行われている。
肥料でいえば、平成20年の海外原料高騰を機に取り組みを強化している「土壌診断に基づく適正施肥」の実施がある。これは圃場の肥料成分を分析することで、「どんな肥料を、どれだけ投入したらいいのかという適正な量が分かる」ので、「それに基づいた施肥提案」を行い、、無駄なく施肥することで施肥コストの削減ができる。
こうした場面で使用できる肥料としてP(リン)、K(カリ)成分を抑えた「PKセーブ」肥料をすすめている。また、海外の鉱物資源に依存しているPK原料の代替として、国内にある家畜糞や下水の汚泥など未利用資源に含まれるPK成分を肥料に活用してい
くことをすすめている。昨年からは、新しく公定規格が設定された混合堆肥複合肥料(商品名「エコレット」等)の開発・普及にも取り組んでいる。
さらに、水稲の播種時に苗箱にあらかじめ専用肥料を施肥することで、本田への追肥(基肥)を省略できる「移植栽培における究極の省力施肥技術」である「苗箱まかせ」(水稲育苗箱全量施肥)など、省力施肥技術の普及にも力をいれている。
もちろん海外の肥料原料を安定的に調達することは全国連である全農の重要な仕事だが、それと合わせて「時代に合うものを考えていくことも必要」だと天野部長はいう。それが施肥法の改善やトータルでの使用量の低減、さらに「たとえ数%でも国内未利用資源の活用ができるようになれば、コスト的にも違ってくる」ので、そういう仕事も「重要だ」と位置付けて取り組んでいる。
◆難防除雑草が増加 除草剤使用が増える
農薬の分野では、日本における農薬市場は縮小傾向にあるが、水稲除草剤に限ってみると、ここ5年くらいで100億円増え、600億円市場になってきている。これは「基本的には、いままでの除草体系ではうまく除草できなくなり、一発剤で除草しきれず、残った雑草を除草するため中後期剤を使用する場面が増えてきている」からだと全農では分析している。
その原因はいろいろ考えられるが、いままで主力として使用されてきたスルホニルウレア剤(SU剤)などに耐性がある難防除雑草や多年生の難防除雑草が増加してきたこと、あるいは水稲の栽培体系が変わり早めに中干しをするようになり、除草剤の残効を維持できなくなってきたこと、また、気候変動によって暑い日が増え、雑草の生育が活発になったため除草剤の使用適期を逃していること、などが挙げられる。
そのため、これまでは一発剤1回の使用で済んでいたところ、後期剤との体系処理が必要になったり、初期剤との体系処理により使用回数が平均1.5回が2.5回に、2回が3回へと増えてきている。
(写真)
水稲の生産費削減への効果が期待される鉄コーティング種子
◆AVH-301を活用 地域に合わせキメ細かに
そうした対策の一つとして、抵抗性雑草にも効果があり、しっかり残効も付与できる除草剤として、全農がバイエルクロップサイエンスや北興化学工業と共同開発した「AVH-301」(テフリルトリオン)を含む除草剤は、「製品1袋当たりは、本当に安価な一発剤に比べれば高いが、これを上手に使い使用回数が減らせられれば、トータルコストは結局低く抑えられる」。
実際にAVH-301剤を使用した生産者へのアンケート調査を実施したところ「初期剤が省略できた」が9%、「初期・中後期剤が省略できた」が2%、「中後期剤が省略できた」が実に80%にものぼり、除草剤の総使用回数も「2.18回から1.30回」で済んでいる。そして中後期剤の省略で「約4割コスト削減」ができたとの結果にもなっている。
もちろん「どこでも同じ結果が得られるとは限らない」と天野部長はいう。そういう地域では「比較的安価な初期剤と一発剤を組み合わせる」という方法を選択するなど、全栽培面積を同じ手法で行うのでなく「圃場圃場に合わせたきめ細かい使いこなしが重要ではないか」と考えている。
そのために「いろいろなメニューを提案し、その地域や圃場にあった方法を選択いただくことで、省力化やコストを抑制してもらう」ことが大事だとも。
◆ジェネリック農薬など価格水準を引下げ
農薬では、AVH-301やMY-100のような新規化合物の開発だけではなく、ペンコセブ(殺菌剤:マンゼブ)やジェイエース(殺虫剤:アセフェート)などジェネリック(特許切れ)農薬の導入により、既存剤の2?3割安い価格で上市し、価格水準を引下げる効果をもたらしたり、園芸用殺虫剤「スプラサイド」の権利を取得して、園芸農家に貢献してきたことも「全農らしい」仕事だといえる。
◆新規ウンカ剤開発へ 西日本多発で期待
そして、これまでとは全く形質が異なる新規の作用性をもち、すべてのウンカ類に卓効を示し、残効も長く水稲への安全性が高い水稲用殺虫剤(ウンカ剤)「ZDI-2501」をデュポン社と共同開発し始めた。
ウンカ類は昨年も西日本で多発生しており、新剤への期待が高まっている。
来年末には登録申請を予定しているので、なるべく早く登録取得ができるように組織の協力を得て「できるだけ早い時期に製品化したい」と考えている。
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