青果物:JA全農がめざすもの
【JA全農がめざすもの】園芸総合対策部の加工・業務用野菜の取り組み 現地ルポ・JA全農三重県本部2014年11月28日
・減少する家計消費用需要野菜
・実需者ニーズに応える産地づくり
・水稲後の秋冬野菜が中心の三重県
・キャベツ・ハクサイそしてカボチャが
・県下統一の段ボールで出荷
・水稲や花木との複合経営を提案
・信頼関係を築くきめ細かな対応
国内農業を取り巻く環境が厳しさを増し、農業人口の減少など、生産基盤の弱体化が危惧されている。そうしたなかで、JA全農は元気な産地づくりと国産農産物の販売力強化を、25年度からの3カ年計画のメインテーマに掲げてさまざまな取組みを行ってきている。今回は、そうした取り組みを園芸総合対策部と全農三重県本部に取材した。
生産・販売の現場に密着し事業を伸ばす
◆減少する家計消費用需要野菜
これからの日本農業を考える場合、食生活の変化や高齢化、人口減少などから、消費者のライフスタイルが変化し、食料消費のあり方が、従来の生鮮食品中心から、調理食品や中食・外食を含めた「食の外部化」へとシフトしてきていることにどう対応していくかが問われている。
とくに野菜類については、図のように平成に入ってから減少し、加工・業務用需要が家計消費用を上回り最近ではそれは6割程度にまで増加してきている。また、総務省の「家計調査」によれば、家計支出に占める生鮮食品の割合は昭和40年ころは5割を占めていたが、最近は3割弱となり、加工食品や調理食品、外食の割合が確実に増加してきている。
こうしたことを踏まえて「元気な産地づくり」に取り組む視点として全農では
[1]次代の農業へつながる「担い手の育成・支援」
[2]担い手と実需を結ぶ「振興作物選定と栽培体系の確立」
[3]実需者(取引先)への販売力を高める「有利販売の実践」
という3つをテーマに取り組んできている。
(写真)
10年前から取り組んできている加工・業務用キャベツ
◆実需者ニーズに応える産地づくり
担い手の育成・支援では、新規就農者を育成し技術習得を支援するための、JA域や県域を越えて活用できる地域営農拠点の設置やJAと連携して、集落営農や農業生産法人とのつながりを強め、担い手の営農を支える取り組み。
さらに、農業経営の多角化を考える水稲農家のニーズに応える園芸用農機レンタルや労働力不足に対応した農作業の受委託などに先行して取り組んでいる事例もある。
加工・業務用需要が拡大している野菜など園芸作物に対する実需者の要求は、市場流通とは異なり「定時・定量・定価格」が基本だ。こうした要求に応えるためには、従来からの共選・市場出荷、規格品の大量輸送という青果物の生産・出荷・物流の仕組みでは対応が難しいといえる。
そこで全農園芸総合対策部では、これまでの生産・流通を維持しながら、加工・業務用需要への対応を強め、実需者ニーズに合った園芸品目・品種の選定から栽培方法の確立、産地づくりなどの取り組みに力をいれている。
またこの取組みは、輸入品の使用が増加している加工・業務用野菜で、国産青果物のシェア奪還につながる重要な取組みだといえる。
実需者ニーズに対応した産地づくりとともに重要なことが、広域で活用できるカット・加工施設などの充実だといえる。そうした施設への投資・出資も全農の大きな役割であり、その具体策の一つが、キューピーとの合弁会社(株)グリーンメッセージだといえる。
一方、各県本部においては、25年度より生産基盤の維持・拡充、生産者の所得向上等の視点から、各県本部ごとに重要テーマを絞り込み「地域生産振興策」を策定して取り組んできている。この地域振興策の策定以前から取り組まれ、その取組みが進んでいる全農富山県本部の野菜センターを活用した園芸産地づくり、全農青森県本部の「にんにく根端培養設備」の導入による優良種苗の安定的供給などに代表される多くの事例がすでにある。
◆水稲後の秋冬野菜が中心の三重県
そうしたなかから今回は、JA全農三重県本部(全農みえ)に取材した。
三重県は紀伊半島の東部に位置し、南北約180km、東西の幅は10?80kmで「鷲が羽を広げた姿」に似ているといわれている。北は養老山地と木曽三川を境に愛知・岐阜県と、西は鈴鹿山脈・信楽山地・布引山地・台高山脈・紀伊山地を隔てて滋賀・京都・奈良・和歌山の各県と接し、東は伊勢湾・熊野灘が開けている。
三重県の農業は、平野部、盆地部、中山間地など地域の特色を活かしたさまざま農畜産物の産地形成がされているが、その中心は稲作だといえる。しかし、近年は農業生産額に占めるコメのウェイトが減少傾向にあるといえる。平成14年の三重県の農業生産額に占めるコメの割合は32.5%だったが、10年後の24年は29.5%と3割を割り込んでいる。その一方で、14年には24.4%だった畜産が30.7%となっている。果樹・野菜や茶やブナシメジなどの工芸野菜の比重も高まってきているといえる。
◆キャベツ・ハクサイそしてカボチャが
三重県の野菜類は、キャベツ、ハクサイ、トマトや茎葉を食用とするものについては生産量日本一誇る「なばな」(全国の約30%)などが中心で、南勢地域ではみかんが生産されている。
露地野菜は秋冬野菜を中心に生産・出荷されており、春夏野菜が少ないのが、大きな特徴だといえる。
全農みえでは、生産者の高齢化で縮小する生産基盤を維持・拡大することと農家所得の向上のために、加工・業務用野菜生産を推奨してきている。
◆県下統一の段ボールで出荷
加工・業務用のキャベツ、ハクサイについては、約10年前から取り組んできており、加工・業務用キャベツは年間420t、ハクサイは600t出荷している。
さらに惣菜用のカボチャが欲しいという話があり、試験的に取り組んできたが一定の成果がみえたことから、県内全JAに提案して26年から本格的な取り組みを始め、2.5haで作付し50tを収穫した。
加工・業務用なので、表皮に多少の汚れや傷があっても問題がないこと、大きさや重さなどの規格も一般的な市場出荷用に比べて厳しくないので箱に「詰められるだけ詰められる、選別などの手間がかからず楽だ」し、価格は契約となっているので「収入の見通しがたつ」と生産者の反応はいいので、来年は「生産者も作付面積も増やしたい」と考えている。
キャベツなども加工用は、一般的な市場出荷用のような大きさや重量の規格がなく、どちらかといえば大玉の方が実需者からは喜ばれる。一般的な市場出荷用のように規格に合わせた選別や1箱何kgと決められた重量などに合わせた箱詰め作業がないからだ。
そこで余った時間を規模拡大などに使えれば、所得の向上にもつながっていくことになる。
◆水稲や花木との複合経営を提案
全農みえでは、出荷用の段ボールについても、加工・業務用はカラフルなデザインで産地などを強調する必要がないので、県下統一の段ボール箱を使用している。余分な印刷が必要でなくなることや一括発注できることで、段ボールにかかるコストを低減することができ、これも農家所得向上につながるからだ。
これからの取り組みについて担当者は、水稲担い手への複合経営の提案はもちろんだが、全国的に有名なさつきやつつじなど花木の生産者やお茶の生産者に、比較的手が空く冬場時期にキャベツやハクサイをつくることを提案していきたいと考えている。
さらに日本で最初に栽培を始めたがいまは生産者の高齢化などで生産量が落ちている夏野菜のモロヘイヤの復活と、かつては日本一だった「なばなの回復をぜひ…」と思っている。なばなは、ある外食チェーンにバラ出荷の形で取引が始まっているので、これをぜひ拡大したいということだ。
◆信頼関係を築くきめ細かな対応
加工・業務用野菜は露地野菜中心だから、収穫時期や数量が天候に左右されやすいというリスクは常にある。
実需者の要望に応えて出荷量を計画しているが、JAや産地と密に連絡をとり、計画通り出荷できるのかを事前に把握し、出荷が遅れたり量的に不足がでそうな場合には「早めに取引先に連絡し、手当てをするなど、迷惑をかけない」ように気を配るのも全農みえの大事な仕事だ。
そうしたきめ細かい心遣いが、生産者だけではなく取引先との信頼関係を築くことになり、新たな仕事の開発につながっていく。
一口に「加工・業務用需要が拡大しているのだから、そのニーズに応えることが大事だ」といわれるが、そのためには、生産と販売の現場に出向いて地道に着実に仕事をしている人たちの努力があることを忘れてはいけないと、つくづく感じさせられる取材だった。
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