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ヤジはシンゾウにこたえます【小松泰信・地方の眼力】2022年3月30日

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HBCテレビ『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』(2020年4月26日放送)。ユーチューブで絶賛放映中。

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「政治的な表現行為」としてのヤジ
2019年7月、札幌市内で参院選の街頭演説をしていた安倍晋三首相(当時)に「安倍辞めろ」などとヤジを飛ばした札幌市の男女2人が、北海道警に不当に排除されたとして、北海道に計660万円の損害賠償を求めた。3月25日、この訴訟に対し、札幌地裁広瀬裁判長は、「具体的なトラブルがなく、道警が主張するような危険な事態ではなかったとして排除を違法」、「原告のヤジを『政治的な表現行為』に当たるとし、警察官が『首相の街頭演説にそぐわないもの』と判断してヤジを制限したと推認し、『表現の自由を侵害した』と結論づけ」、よって計88万円の賠償を命じた。

警察は何を取り締まるべきか
「道警は判決を謙虚に受け止めて猛省し、一連の行為を検証して道民の信頼回復に努めるべきだ」とするのは、北海道新聞(3月26日付)の社説。
「そもそも道警が法的根拠を示したのは7カ月後だった」ことから、「聴衆からの政権批判の排除が先にあり、後付けの理屈によって正当化を図った疑いが浮かぶ。組織的指示の有無について道警は検証し明らかにすべきだ」と迫る。
「民主国家では、国民が主義主張を表明し合う中から多数意見が形成され、国政の方向が定まる」とし、「選挙演説の場での市民の異論の表明を保障した意義は大きい」と評価する。
また、「警察が政権党に肩入れした疑念も生じる」とし、「強制力を持つ警察が力ずくで言論を封殺することは民主主義社会にあってはならない」と警告を発する。
信濃毎日新聞(3月26日付)の社説も、「政権を批判する声を警察が力ずくで封じるようなやり方が認められていいはずはない。政治的な意見を表明する自由が民主主義に欠かせないことを踏まえた真っ当な司法判断である」と評価する。
しかし、「札幌の数日後には、滋賀でも首相の演説にやじを飛ばした人が排除されている。翌月の埼玉県知事選では、文部科学相が応援演説をした会場で、大学入試改革の中止を訴えた学生が遠ざけられた」ことに言及し、「公権力によって言論・表現の自由が公然と侵害されたことは重大だ。警察の目におびえて人々が押し黙る、かつてのような息苦しい社会が再び顔をのぞかせていないか。この国の自由のありように、あらためて目を向けたい」とする。

これも忖度ですよ
「『桜を見る会』の招待者名簿は早々にシュレッダーにかけられ、森友学園の決裁文書は改ざんされた。そうした風潮がこの事案に反映されているかもしれない。これでは健全な市民社会は築けなくなる」と、安倍政権下における忖度まん延と関連付けるのは高知新聞(3月29日付)の社説。
「海外に目を移せば、ロシアではデモを取り締まり、批判的な言論を圧殺して、国内の反戦世論を徹底的に抑え込んでいる。ミャンマー、香港では民主派が弾圧される。権力側が事態を自らに都合のいいように進めようとするとき、言論は封殺され、民意はかき消される。権利の後退が何を招くか。近年の国際情勢から学ぶことも必要だ」と訴える。
「警察が市民の『言論』を奪うことこそ、排除に値する」とは、東京新聞(3月30日付)の社説。
低レベルのヤジを得手とする安倍氏は、受け身が不得手。2019年の参院選では、ヤジを聞きたくないためか安倍氏の遊説日程が明かされない、なんともみっともない「ステルス遊説」だった。故に、「道警のヤジ排除は同じ思考回路でできていたのではないか」と、道警の忖度を示唆する。
「遊説でのヤジは政治批判の声を一般市民が直接、首相にぶつける希有(けう)な機会」と位置付け、「市民排除に至った意図や経緯も明確に説明すべきである」と、道警に説明を求めている。

「君と僕が見る未来」は言論が封殺された社会なのか
「異論を自由に唱えられるのは民主主義社会の基本の基だ。政治にもの申す行動を萎縮させないためにも、この司法判断は極めてまっとうと言える」ではじまるのは、西日本新聞(3月29日付)の社説。
「政治家に求められる重要な資質の一つは、異論にも虚心坦懐(たんかい)に耳を傾ける懐の深さだ。特に指導的立場にいる政治家が、耳の痛い話を遠ざけるようでは危うい。(中略)異論に対する過剰規制は萎縮を生み、民主主義を損ないかねない。この問題にはもっと神経をとがらせたい」とする。
同紙同日のコラム「春秋」も、「安倍氏への忖度(そんたく)ではなかったか。ロシアでは司法もプーチン氏の言いなりとされる。日本の司法はまだまっとうだと、少し安心した」としたうえで、「安倍氏はプーチン氏に『君と僕は同じ未来を見ている。行きましょう』と呼び掛けたことがあった。(中略)『君と僕が見る未来』は言論が封殺された社会だとは思いたくない」と、オチを付ける。

これも安倍内閣の犯罪だ
牧太郎氏(毎日新聞客員編集委員)は、『サンデー毎日』(4月10日号)で、河井克行と河井案里が引き起こした大規模買収事件を取り上げている。いったん不起訴になった広島の地元議員を検察審査会の「起訴すべき」との議決に沿い(体調不良の1人を除く)34人を公職選挙法違反で一転起訴としたにもかかわらず、陰の主役である安倍晋三氏に対しては、事情聴取さえなかったことを、牧氏は問題とする。なぜなら、「河井夫婦は現金を配る時、『これ、総理から』『安倍さんから』と話している」からだ。
「聞くところによれば、広島地検の幹部は捜査の過程で、『官邸が圧力をかけて、買収事件の捜査をやめさせようとしている』と漏らしたらしい」として、「『安倍内閣の犯罪』を隠そうとした!としか思えない」と、記している。
冒頭で紹介した番組のインタビューで、元道警警視長の原田宏二氏(2004年道警の裏金問題を告発)は、「今回の場合、恐ろしいなぁと思うのは、これをたくさんのマスコミのカメラのいる前で堂々とやったと言うことですよ。あなたたち無視されたんですよ。法的な根拠のないことが、今、平気で行われているんですよ。あっちこっちで。皆さんが知らないだけで...」と語っている。
今夏には因縁の参院選が行われる。内外の情勢を反映し、数々の重要案件が争点となるはず。
沈黙は黙認。ヤジは公認。堂々と、凜として、言うべきことを言い、書くべきことを書き続けねばならない。
「地方の眼力」なめんなよ

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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