本紙既報の通りこのほど、公開セミナー『安全で多彩な食生活を目指して―マイナー作物の農薬登録問題を考える―』(主催:千葉大園芸学部、協賛:全中、日本生協連)が開催され、アメリカのマイナー作物農薬登録が「国家事業」で行われていることが鮮明となった。
アメリカの「IR―4」(特定作物農薬登録推進機構)のロバート・E・ホーム博士は「この事業の受益者は、農家だけでなく消費者および食品業者など国民全体」と語っている。この現実を日本はどう捉えていくのか。ここでは、「IR―4」に参加した樹木医で環境カウンセラーの安東和彦技術士に聞き、その要旨をまとめた。
◆アメリカでは果樹、野菜もマイナー作物
「IR―4」の事業は、経済原則に沿って社会的ニーズに対応した素晴らしい国家事業だ。その発想や運営方法は非常に合理的かつ合目的的で、まさにアメリカならではとの印象だ。公開セミナーでは、「マイナー作物」としているが、実際には日本で「マイナー作物」ではない果樹、野菜がふくまれていることもアメリカらしい。
「IR―4」の事業は、メーカーに代わってマイナー作物の農薬登録のための試験を行い、必要なデータを揃えてEPA(アメリカ環境省)に提出するのだが、試験開始から登録申請まで大体30カ月のスピードだ。そして、試験開始前に当該メーカーに通知し、同意を得てから試験を開始する。データが揃って提出するときにもメーカーの同意を得る由である。ここのところも、日本の状況とは随分違っているのではないか。
◆専門の担当者が生産地を巡回して問題を発掘
改めて素晴らしいと思うのは、「IR―4」が自ら積極的に農薬登録取得や適用拡大のニーズを見つけようとしていることであり、そのために専門の担当者が全国の生産地をもれなく巡回して、生産者やその地域の州や連邦の農業研究者と協議を重ね問題の発掘に努めている。その成果を本部で総合的に評価し、審査にパスしたものをプログラムの中に組み込んでいることだ。
また、有望製品を開発した企業に資金的余裕のない場合には、早い段階から必要なデータの作成に資金援助も行っている。
このような、主として国の予算に支えられた活動組織が日本にもあれば、食用のマイナー作物だけではなく、例えば、現在ほとんど関心を持たれていない非食用の一般樹木の分野における適用拡大にとっても、どんなにありがたいことかとしみじみ思っている。
◆「農薬」を「植物保護剤」へ
少し話を変えるが、アメリカでは「農薬(Pesticide)」と言う言葉の代わりに「植物保護剤(Plant Protectant)」が使用されている。「農薬」という用語にしつこくつきまとっている誤解と偏見を払拭するためにも、日本でも「植物保護剤」を使用することにすれば、その方が一般(消費者)の方々にとっても良いのではないかと思う。
「安全」は科学的根拠の中にあり、「安心」は心の問題だ。今回の無登録農薬問題から派生した一連の問題は、生産者と消費者を「信頼」という絆で結びつける良いチャンスだ。
(2004.4.1) |