検証 JA、生産法人とインターネット
・・・・Eコマースを中心に |
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◆インターネット利用者は2700万人超―5年後のは7670万人に 日本のインターネット利用者数は、昨年末に対前年比59.7%増の2706万人となり、平成17年には7670万人になると「通信白書平成12年版」(郵政省)は推計している。そしてインターネットの普及率は、「世帯が19.1%、事業所が31.8%、企業が88.6%となっており、様々な場所におけるインターネットの利用が拡大を続けている」としている。 我が国におけるインターネットの普及状況 ◆BtoB市場は5年後に100兆円超に拡大 インターネットの普及によって、ネット上のビジネスも拡大してきている。Eコマース(電子商取引=EC)について「通信白書」はこう述べている。「11年のインターネットコマース最終消費財市場の市場規模は、3500億円(対前年比約2.1倍)となっている。…同市場は、17(2005)年には7兆1289億円に達するものと予想される」。最終消費財市場とは「BtoC」(企業と消費者の取引き)のことだが、「BtoB」(企業間取引き)については「インターネットコマース中間財市場の市場規模は、14兆4298億円と推計された。これは、全産業の中間需要の3.3%に相当する。…17(2005)年には103兆4219億円に達するものと予想される」としている。 EC市場が日本でスタートして5年目を迎えるが、昨年秋のオンライントレーディングの一斉スタート、自動車仲介などでの外資系の参入などによって、本格的になってきたが、2000年がEC市場の事実上の元年だといえるのかもしれない。 ◆売り手と買い手を仲介するマッチングビジネス 例えば、生産者が自らホームページ(HP)を開設して、ネット上で農畜産物の産直をはじめても、売り手と買い手の情報が「蜘蛛の巣」のようにこんがらがっていて、買い手は自分の欲しいものがあるHPになかなかたどりつくことができないのが現状だ。そこで、そうした情報を仲介したり、仕切ったりするマッチングビジネスが誕生してくる。 ◆消費者が価格を決める逆オークションがビジネススタイルを変える ネットビジネスとして最近人気なのは、CtoCをビジネスにした「ネットオークション」だろう。そして、その逆の形態である「リバース(逆)オークション」は、従来では考えられなかったビジネススタイルをつくりだしている。そのもっとも代表的な例が「プライスライン」だ。ここでは、HP上で航空券やホテルの予約、旅行保険といった商品を、消費者が価格を指定し、購入する。つまり、価格の決定権が企業や業者など商品提供側からユーザー(消費者)側に移行している。 そして、緊急の用事のために何時の飛行機に絶対乗りたいという人と、休暇だからいつの出発でもいいという人では指定する価格も選ぶ基準も当然だが違う。一方、航空会社には、できるだけ満席にして運航したいという希望がある。ネット上で直接取引きすれば、店頭とは異なり「匿名性」が活かされるので、極言すれば、1万人のユーザーに1万通りの値付けをすることもできるわけで、「一物一価」から「一物多価」になる。こうしたネットビジネスでは、熾烈な顧客志向の競争になるといえるのではないだろうか。 ◆農業分野でもネット市場が動き出している 農業分野でもいくつかの動きが始まっている。農業生産者を対象としたBtoCとしては、農家向け栽培技術情報サービスや生産資材メーカー向け末端情報提供とともに生産資材の販売仲介を行う「栽培ねっと」がある。すでに情報サービスをはじめており、年内にはECを立ち上げる予定だという。 また、食品・食材の企業間取引きを仲介するネット市場「インフォマート」は、平成10年にスタートしている。現在、1700会員が加入しているが、売り手会員が600強に対して買い手会員が1000強だという。このサイトでは、売り手は売りたい商品の情報を「売りたし情報コーナー」に掲載し、買い手は仕入れたい商品の情報を「買いたし情報コーナー」に掲載する。 ◆ネット市場は販売を効率化するツール 「ネット市場は、今までとは違う販路ができた」と考えた方がよいと米多比専務はいう。そして「今までと同様に市場で売れるものは市場で売ればいい」とも。ネット市場の良さは「産地・生産者そしてその農産物の栽培履歴などの情報を付けることができ、買い手や消費者の安心・安全ニーズに対して裏づけができる」ことだという。 しかし、売りたし情報を出せば売れるものでもない。売り手が「買いたし」情報を収集し、自分に見合う相手を見つけ積極的にアプローチしなければ成功しない。「ほかには絶対無い珍しいものなら、買い手が殺到するでしょうけど、どこにでもあるものなら、待っていても買い手はきません。それはネットでなくても同じではないですか」。「インフォマートは販売・仕入れを効率化するツールなんです」という言葉は、HPを開設してネット産直を行ったけれど、それほどの成果を得られなかった生産者やJAには、耳の痛い話かもしれない。 大手スーパーや外食チェーンが参加するインフォマートでは、生鮮食料品への引き合いは多いという。しかし、JAや生産者の参加が少ないのが悩みだ。農産物を提供する売り手は100会員強いるが、卸や仲卸が多くJAは10程度、個人および生産法人が30弱だという。買い手の需要に応えるためにも、JAの参加を促進したいというのが、米多比専務の願いだ。代金決済などを経済連などに依存してきたJAの体質を考え、代金決済や保証制度をインフォマートがすることも検討しているという。 ◆JAグループにしかできないEコマースの構築を JAグループでも、第22回JA全国大会でEコマースに取り組んでいくことを提案している。その具体的内容がどのようなものになるのか、現在の段階では詳らかではないが、すべての農畜産物の産地情報、産地ごとの作付けと生育情報、全農安心システムの検査認証システムと連動した栽培履歴、そして販売情報まで、川上から川下までを一気通貫したデータベースを構築し、Eコマースすることは、JAグループならできるのではないだろうか。 ●●●
◆JA18%弱、生産法人52%弱――インターネット利用率 こうしたインターネットを利用したビジネスの展開にJAや生産者はどう対応しようとしているのだろうか。本紙では今年7月に全国のJAを対象とした生産資材関係のアンケート調査の一環としてJAにおけるインターネット利用状況を調査した。また、8月には全国の生産法人を対象にインターネットの利用状況を葉書でアンケート調査した。 ◆JAのHP開設率は13%弱、Eメールを活用する生産法人 HPを開設しているJAは回答JAの12.7%、開設する予定のJAが12.5%だった(JA3)。HPを開設しているJA数は、どこも正確には把握していないようだが、本紙が5月末に独自に調査したところ204JAだったが、その後増えているので、250ぐらいと推定される。 しかし、法人3をみるとほとんどの生産法人がEメールを利用しており、メンテナンス(更新)に手間と時間がかかるHPよりも、手軽に情報をやりとりできるEメールで情報を発信しているともいえる。 JAがHPで提供している情報は、JA4の通りだが、その他ではJAの概要・紹介、行事や地域情報などとなっている。 ◆更新が遅い、情報不足――HPに不満が40%も JAのHPに満足しているかどうかを聞いたのがJA5だ。生産資材担当者へのアンケートなので、経営者層に聞くと違う結果がでる可能性はあるが、職員の率直な意見だともいえる。「不満足」が約40%もあるが、その内容は「更新ができない」「更新が遅い」がもっとも多く、ついで「情報量不足」「内容が充実していない」が多く、「利用率が低い」と続いている。 ◆Eコマースをまだ理解していないJA Eコマースについて聞いたのがJA6・JA7と法人4・法人5だ。ここで特徴的なことは、生産法人に比べてJAの利用率が低く、評価でも生産法人では「非常に有用」「やや有用」で31.7%に対して、JAでは16.9%と低い。また、JAでは利用状況で「興味も予定もなし」と「無回答」で52.7%、評価の「分からない」「無回答」で69.7%もあり、Eコマースそのものへの理解が必ずしも浸透していないことがうかがえる。そのことは、HPで産直を行っているのに、Eコマースを利用していないという回答が見受けられることからも、いえることだ。 ◆消費者ニーズの把握と将来性――Eコマースの評価 実際にEコマースを利用し非常に有用だと回答したいくつかの生産法人に、具体的にどのように利用しているのか、なぜ有用なのかをEメールで取材した。 評価する理由としては、「中間マージンが省略できる」(栃木県の(有)佐野市農場の大芦秀次さん)、「販売実績としてはまだわずかだが、消費者との双方向のやり取りを通してニーズを捕らえる一助になっている」(鹿児島県の(株)三和グリーン園芸事業部)があげられた。また、Eコマースにはさまざまな問題があるが、インターネット利用者はさらに増え裾野が広がれば「食品をネット通販で購入することももっと一般的になると思われる」(山口県の(有)鹿野ファームの隅明憲さん)と将来性で評価する意見もある。 ◆いま利益がなくても、ノウハウと顧客情報を蓄積する 隅さんはさらに「無店舗で全国に販売でき、少ないコストで商品情報を不特定多数の人に発信できる。紙媒体広告では、頻繁な商品構成の追加変更などコスト高になるが、ネット上では手軽に情報更新ができ、多様な企画なども顧客にダイレクトに手軽に素早く、安く配信でき、しかも情報発信は双方向である。Eコマースで現在利益が計上できなくても、そのノウハウや顧客情報をいち早く蓄積しておくことは、今後重要になると思う」という。 しかし「全国どこにでもあり、スーパーでいつでも入手できる食品では、わざわざ送料を負担してまで購入してはもらえない。特色ある商品、差別化、物語性等、商品の持つ魅力が無ければならないけれど…」と付け加えた。このあたりがBtoCの難しさといえよう。 ●●●●
インターネットの急速な普及にあわせて、Eコマースも今後さまざまな展開をしていくことは間違いないだろう。そしてその波は好むと好まざるとを問わず、農業分野にも押し寄せてくることも間違いはない。インフォマートの米多比専務が指摘したように、新しい販売ツールとして、それをどう活用していくことが、生産者やJAにとって有効なのか、いま真剣に考えなければいけない時期にきているのではないだろうか。
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