農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

農産物焦点のタイ 国別に違う対立軸
自由貿易協定を検証−2
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 自由貿易協定(FTA)締結交渉でメキシコは日本に豚肉などの関税撤廃を強く望み、今年10月までに実質合意にこぎ着けたいとする。日本の経済界も早期締結を求めている。東洋大学の服部信司教授によると、その背景はこうだ。

◆焦る日本経団連

メキシコとのFTA交渉では豚肉の関税撤廃が焦点。これを撤廃対象から除外しないと、高品質のブランド豚といえども打撃を受けることになる。
メキシコとのFTA交渉では豚肉の関税撤廃が焦点。これを撤廃対象から除外しないと、高品質のブランド豚といえども打撃を受けることになる。

 メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)を皮切りにEUはもちろん30数カ国とFTAを結んでいる。 締結国は工業製品などを関税ゼロでメキシコに輸出できるし、投資も自由だ。それに比べ日本企業は例えばメキシコに進出していても現地工場が日本から部品を調達する場合、関税を払わなくてはならない。
 全体としても日本からの輸出は減ってくる。それにメキシコは広大な北米市場への足がかりだ。日本企業の不利をなんとか挽回しなくてはいけないという焦りが経済界にある。
 メキシコ側も日本とのFTAがないとバランスがとれず、利益にならないとの事情から、締結を求めた。
 農畜産物を工業製品の犠牲にするのかどうか、メキシコ大統領が10月に来日する前の小泉純一郎首相の決断が注目される。

◆東南アジア視野に

 FTA交渉で最も困難な相手は、世界最大のコメ輸出国であるタイだ。昨年9月から作業部会を設け、両国が事前検討に入った。
 タイは「コメ、鶏肉、でん粉など農産物の関税撤廃が最大の目標」という。WTO交渉でもタイは農産物貿易の徹底的自由化を主張するケアンズグループの強硬派。日本やEUとは厳しい対立関係だ(農水省)。6月にはトップが来日して交渉促進を迫る予定。
 農業国タイからの輸入は4分の1が農林水産物で金額は3142億円(13年)とメキシコの6倍。
 しかもタイ米(長粒種)の値段はキロ28円と日本(短粒種)の10分の1。鶏肉を見ても、火であぶるだけの焼き鳥用(調整品)輸入が非常に多く、水産物ではエビが多い。イカもある。
 しかし服部教授は「対メキシコでは日本の経済界に締結を急ぐ切迫した要因があるが、対タイには、それがない。日本はタイの工業化を先導してきたし、米国やEUと比べて不利ではない。そこを区別して考えてみることだ。東南アジア諸国の一員として対応すればタイが突出してくることもないだろう」と見る。

◆すでに無税もある

 東南アジア諸国連合(ASEAN)はASEAN自由貿易地域(AFTA)を締結。中国とのFTA交渉も始まった。日本とはフィリピンとマレーシアがすでに作業部会を設けた。
 さらに日本は台湾と事前協議に入り、韓国とは事前検討を終わって昨年夏から産学官研究会の段階だ。
 農林水産物の対日輸出を国別に見ると、フィリピンはバナナが断然多く、パイナップルなど熱帯産品が中心。エビなどを含めても計962億円とタイの3分の1にも届かない。しかしメキシコよりは多い。
 マレーシアは1738億円と多いが、合板や丸太など林産物が中心。パーム油は途上国向けの特恵関税を適用し、すでに無税だからFTA交渉の対象外。
 韓国は水産物中心で1918億円。1位はカツオ・マグロ類323億円、2位はアルコール飲料119億円、次いでカキ(魚介)、調整した野菜(無糖、ビン詰など)、クリの順。

◆シンガポール方式で

 服部教授は「東南アジアへの対応は重要課題だが、全体として日本が世界最大の食料輸入国であり、それは障壁が高くない(コメや乳製品を別にして)ことの表れだと認めてもらう努力が大事。農業サイドとしては農産物にふれずに、工業製品や投資などを中心にFTAが結ばれることが一番望ましい」という。
 そして農産物の関税を従来通りとし、実害のない形で結んだシンガポールとのFTAを見本に挙げた。
 シンガポールは中継貿易中心の国で農産物の対日輸出は極めて少ない。それでも農水省は農業問題への立ち入りを警戒。論点にしないように「あきらめてもらった」(国際調整課)。
 結局、WTO協定税率0%の品目と、実効税率(暫定税率)0%の品目を両国の協定税率とした。ただ同国とのような好条件は他国との間にはない。

◆WTO交渉優先を

 「FTAは貿易額の90%以上の関税を撤廃すればガット違反にならない」との解釈に立てば10%以内なら撤廃対象から除外できる。
 これでいくと、日本との貿易額に占める農林水産物のシェアはメキシコが7.3%だから、その枠内にある豚肉などを撤廃対象からはずせるが、タイは12.6%だから、どの品目をはずすか非常に困難だ。
 「しかし、これは抽象論に過ぎない」と横浜国大大学院の田代洋一教授はこう提言した。
 「もしメキシコが意欲的に豚肉輸入拡大を求めてくれば10%以内といえども大きな争点となる。日本としてはやはり双務的な2国間交渉よりもWTOの多国間交渉の中で関税の緩やかな引き下げを話合うほうが基本的によい。WT0農業交渉を優先させるべきだ」。

◆ドミノ現象防止へ

 特定国間でFTAを結ぶと、仲間はずれになった国がまた結ぶ。自由貿易競争の「ドミノ現象だ」と農林中金総合研究所の清水徹朗主任研究員は指摘する。
 「それでも第2次大戦前のような経済ブロック化に至らないのはWTOのような世界経済のあり方を協議する場があるからで、その点でもWTOは重要な存在だ」と説く。
 しかしFTAが「むやみに広がればWTOはいらなくなる」(農水省国際調整課)。問題の多いWTOだが、FTAという鬼子も抱えているのだ。(おわり)  (2003.6.11)


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