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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える |
座談会 JA改革を考える 農家の喜びと誇りという視点に立ち営農改革を ―地域にある協同組合としての自覚をもって― 下山 久信 JA山武郡市直販開発部審議役 |
「営農の復権なくして農協改革なし。農協改革なくして営農の復権なし」。これは昨年の本紙新年特集で営農改革を進める4JAのレポートをもとに行われた小田切徳美東京大学大学院助教授と松岡公明JA全中営農企画課長の対談での一つの結論として導きだされた言葉だ。今年は、実際にこの課題に積極的に取り組んでいるJAいわて中央とJA山武郡市に、その具体的な内容をレポート(別掲)すると同時に、両JAで営農改革をリードする熊谷健一JAいわて中央常務理事、下山久信JA山武郡市直販開発部審議役と小田切助教授に、これからの営農改革、JA改革の方向性について論議していただいた。 |
◆供給先別生産部会を核に―JA山武郡市
小田切 「営農の復権なくして農協改革なし。農協改革なくして営農の復権なし」。これが、昨年の新年特集号「21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦」で4JAの現場レポートをもとに「営農の復権」を議論をしたときの1つの結論でした。今日お集まりいただいた両JAも昨年の4JAと同様に、営農改革の新たな実践に取り組まれております。今日は、第1のテーマとして、この2つのJAの営農改革とその背景にある発想を探っていきたい。また、第2のテーマとしてそれを支える農協改革のあり方を議論したいと思います。 下山 青果物の90%は、系統共販による無条件委託販売で卸売市場に出荷していました。残りの10%は、私がいた睦岡支所での有機とか特別栽培農産物、学校給食などで販売していました。コメについては、農協管内で出荷量は70万俵ですが、農協のシェアは4割で、6割は大型経営農家を中心に農協を通さず自分で販売しています。 ◆消費者と交流することで生産者の意識が変わる
小田切 JA山武郡市では、最近「地域農業振興計画」をたて、その中に「環境創造農業宣言」を盛り込みましたが、それはどういう意味を持っているのでしょうか。 下山 14年度からの中期3ヵ年計画の一環として直販開発部が設けられたわけですから、マーケット調査に基づく農産物販売のあり方を考え展開していきたいと思っています。「地域農業振興計画」もその一環です。現在、管内世帯数の10%程度しか農業生産者はいません。後の9割の人は「農村生活者」です。従来は、農産物の市場は東京にあると考えていましたが、この地域の生活者の人たちと地域に存在する協同組合として農協が、どういう関係をつくりあげていくのかという視点で計画を立てています。そのときに、環境を汚染するような農業生産ではダメですから、良い環境を作りあげていく農業生産が決定的に大事になるわけです。 小田切 先ほどの供給先別部会の設立も営農改革の1つのポイントだと思いますが、それと今の「環境創造型農業」との関係はどういうことになるのですか。 下山 いままでは、出荷すれば終わりで、消費者ニーズをつかまず、卸売市場の規格に合わせた選別の統一に重点がおかれ、見てくれを追求してきました。だから、農薬の安全使用基準や残留基準についてとかの意識づけがあまりされず、農業は食べ物をつくり、命をつくっているという意識が弱かった。どういう人たちが食べているのかを考え、そのための生産がどうなのかを見直さないと、輸入農産物とは戦えないと思っています。 ◆売り切れる産地づくりに全農家で―JAいわて中央
熊谷 私は「農協は営農」だ、「営農は流通」だと考えています。流通になぜ力を入れるかというと、中間のコストが分からないなかで、理想ばかりいっている。国内での戦いのうちはそれでもよかったけれど、平成に入って外国との戦いになり、これでは組合員の悩みの解消にならない。モノは過剰で余っている、その中で残さず売り切る産地になるには、新しい提案を消費者にしなければダメだ。消費者の評価をもらうには「安心・安全」しかない。安心・安全とは記録をつけ「差別化」することだ。そう考え、栽培の時代から流通販売の時代をめざして本格的に取り組み始めたのが平成5年です。 小田切 下山さんのところは、「顧客が見える営農改革」、そして熊谷さんのところは、「売り切れる営農改革」。アプローチは若干違いますが、両者共通して、「作って終わり」のプロダクト・アウトから、「作ったことが始まり」のマーケット・インへ、という流れを強く意識した取り組みをされているわけですね。 ◆合併JAの有利さ活かし特徴ある組織作り 小田切 それでは、そのような営農改革は、誰のために、何のために行なったのでしょうか。あえてその原点を教えてください。 熊谷 それは、組合員のためにです。所得確保を前提にしながら、農家であることの喜びと誇りを与えたいからです。 小田切 単に1円、2円高くという話ではなく、生産者としての喜び、生産者としての誇りは何なのか、それまでを射程に入れて営農改革に取り組んでいるということですね。下山さんどうですか。 ◆目先の価格だけを追わず消費者との交流を積み上げて 下山 昭和53年ころから、当時、私がいた睦岡支所で10名くらいの研究会をつくり、10アールの実験ほ場で、無農薬と自分たちで作ったボカシ肥料を使って、作りやすい根菜類を作ったわけです。それを最初に買ってくれたのが「大地を守る会」で、その後どんどん作って欲しいということで、難しい葉菜類にも取り組んでいくようになり、人数も増えていきました。その後、有機栽培の国のガイドラインがでましたが、有機農業をやっているのは農業生産法人とか農協以外が多いので、農協でやることは営業する場合に大きな看板になると思い取り組みました。 小田切 いずれにしても最終的な目標は、農家手取りの拡大あるいは安定化ですか。 下山 そのためには戦略が必要で、人に評価されなければ価格はついてきません。 熊谷 消費者を理解すると同時に、実需者に長期安定販売の確約と農産物をつくる農家や集落を理解しないといけないですね。集落や参加する部会員といつも接触して農の心を育てないとダメですね。講習会だけでは育たない。 ◆受委託組織を育て集落営農を活性化 小田切 いままでのお話のように、営農改革は「誰のための何のためか」といえば、組合員のための、農家手取りの安定・拡大や生産者としての誇りを前進させるための改革ということだろうと思います。そして、そのための戦略として「マーケット・イン」の発想が、営農改革に欠かせないことがあらためてわかりました。しかし、現実的には農産物を作ること自体を継続的に、多面的に展開するのは、現状では大変なことではないでしょうか。その点で、お二人が具体的に想定している担い手像は、どのようなものですか。 熊谷 私は、コメづくりコストが非常に邪魔になると考えています。コメを作るために農家は、いろいろな機械・器具・人がかかっていますね。これを集落の営農組織や地域に信頼されている担い手に移管して、園芸や畜産などの農業で生活ができるようにしないと、農家所得の向上はないと思います。そのための準備として、205集落の内1支所1カ所計16カ所で集落営農のモデルづくりを始めています。そして各集落に1〜4名のその集落出身の担当職員を配置しています。「あなたは農家のおかげで手間(給料)を貰っているんだから、夜であろうと、休日であろうと集落に戻りなさい」ということです。すぐにはできませんから、まずは心から入っていきましょうと、作業協定から始めています。草刈とかの作業日を決めて、初めと中間と最後は、組合員は1時間でもいいから参加しましょう。参加した人には手間賃を払います。そして心のつながりをつくり、3年後、5年後に農機具が壊れたら、コメは委託組織に任せて、余った時間で園芸や畜産をやりましょうというものです。 小田切 減農薬栽培については、専業農家、兼業農家を問わず取り組まれたのですか。 熊谷 コメづくりの農家5200戸の全農家です。だから農薬も農家ごとに使いやすいように、除草剤なら粒剤・ジャンボ剤・顆粒の3種類を指定しているわけです。 小田切 組合員の経営や家計に占める稲作の比重が違う中で、全農家による減農薬栽培は難しいことではないかと思うのですが、性格の異なる農家にきめ細かい指導やアドバイスをしているわけですね。 熊谷 集落に一人、予察員と農家組合長と営農部長がいるので、この人たちを集めて講習・研修し、あなたの地域で発生した課題は、あなたのところで解決しなさい。そしてあなたが問題を1人で背負ってしまうと大変だから支所と営農センターから担当者を呼び、この田んぼはこのままではダメだと判断したら農薬を使いなさい。そのときには、その田んぼのコメは普通米として記録をしなさいと徹底しています。 小田切 「何のための、誰のために」という問題提起を、指導部としての高みに立つのではなく、徹底的に組合員と同じ目線に合わせることにより、担い手の活気につながっているということだろうと思います。下山さんのところは・・・。 ◆「千葉エコ農業」取得を積極的に推進 下山 まずコメですが、28支所に水稲部会がありますがほぼ開店休業状態ですので、再度、組織をつくり直して、コメ生産のあり方をつくり直し、集落営農のあり方を農協としてどうするのかを検討していきます。 小田切 今回の計画にある「環境創造型農業」の担い手は、どのように想定されているのですか。 下山 千葉県がはじめた減農薬減化学肥料の認証制度「千葉エコ農業」の取得を、卸売市場出荷でもインショップや直売所であろうが、取れるところから取るということで積極的に進めることにしています。そして、持続農業法のエコファーマーを園芸農家に対して積極的に進めていきます。環境創造型農業は、農薬や化学肥料を減らすということですから、単に生産して直売所に出すのではなく、生産基準をつくることになります。 ◆生産者も農村の生活者 小田切 両農協とも「安全・安心」を大変に強く訴えかけていますが、この点で一番重要なことは何でしょうか。 熊谷 消費者からの信頼ですね。そして、農家になぜこれに取り組まなければいけないのかという説明と実践でしょうね。 小田切 その実践でも、生産記録の記帳などをできるだけ簡素化する取り組みを農協サイドでお手伝いしているようですね。 熊谷 いま出されている記帳のモデルは農家の立場にたっていないと思いますね。コメだけのように1品目で1年1作なら簡単だけど、1人で何品目も生産しているわけだから、書かなくても○×を記入するだけで完成するような様式で、農家ができる範囲のものでなければ、続かないと思いますね。 小田切 JA山武郡市の「環境創造型農業」の発想で、重要なポイントはなんですか。 下山 生産者も自分で作るもの以外は買っているわけですから消費者です。そういう意味では、農村で生活している生活者という視点が非常に大事です。いままで農協は閉鎖系の体系で事業を展開してきましたが、こういう時代になれば地域にある農協がどういう事業展開をして地域の人に貢献し、評価されるかです。これだけグローバル化してくる中で、これと対抗する基軸は、自分の地域、自分の住んでいるところをどう守っていくのかということだと思います。農協の役職員がそういう意識改革をして、どういう言葉で組合員に語りかけるかが問われていると思います。 ◆経済事業の機能を集約化 小田切 今までのご発言で、2JAの営農改革のポイントとその背景がかなり明らかになってきたと思います。そこで、今日の第2の柱として、営農改革を支えていくための農協の組織やトップマネージメントのあり方に議論を進めていきたいと思います。まず、営農指導事業に関する支所と本所の関係という点ではどうでしょうか。 熊谷 生産・流通から経済担当まですべて本所を重点にしていく予定です。管内は東西南北それぞれ30キロメートルという地理的条件を活かした事業に切り替えるということです。そのことによって行動と要員の効率化、そして決済の時間が短縮できます。 下山 3つの集荷センター以外はすべて支所単位でやっていて、本所はあまり関わっていませんでしたが、直売やインショップ、契約取引については本所に集約します。そして、卸売市場にだすと農協の手数料は2%で、卸売市場が8.5%ですが、農協は5%以上ないと販売事業は経営的に成り立ちません。直売所は施設の減価償却もありますが15%の手数料があります。こちらにシフトすることで赤字構造はある程度は改善できるのと考えています。 ◆営農指導員は外に出て情報を収集し農家に伝える 小田切 今のお二人のお話では、形式的には、営農指導事業の単位を金融・共済と同様に、広域化しているように見えます。しかし、実態的には、従来よりも現場に密着したよりきめ細かい営農指導をしているわけですが、その点はどのように理解したらよろしいでしょうか。 下山 いままでのように集荷センターに大量に集めて卸売市場に流すのが販売事業ではありません。もっときめ細かい対応ができないと・・・。支所の職員が組合員のところに行かないので、営業力は急速に落ちています。コンピューターでやるのは後処理で、外に出て組合員や量販店、生協、外食に行くのが本来の仕事なんです。送り状を書くのは、営農指導員の仕事ではないんです。パートでも臨時職員でできるんですから・・・。 熊谷 下山さんと同感です。営農指導員は長い間、選果場の作業人夫をやっていましたが、これはもう終わったということです。作業はアルバイトに任せ、流通と消費地に行って情報をつかんでくることが仕事です。そして売りずらい時代に売り上手になることです。選果場の中でパソコンに向かうのではなく、外に出て農家に会って情報交換をすることです。 小田切 それでは、そのようなパソコンに向かうだけの作業員としての営農指導員ではなく、マーケティングや農業技術の専門職として、営農指導員を位置づけるためには何が必要ですか。 熊谷 現場を歩かせることでしょう。選果場にいるのは朝と夕方の2時間でいいんです。後の時間は農家を巡回しなさいといっているんです。 下山 技術は農家の方が優れた人がいますから、「農の匠部会」でもつくってその人に技術指導してもらって、営農指導員は流通・マーケットに向かい、その情報を農家に伝える方がいいと思いますね。 熊谷 営農指導員は情報連絡員だといっているんです。国にも県にも普及所にも専門家がいるんだから、そこと生産者との架け橋になればいいんです。大事なことは、どこに情報があるかを知って、それを活用することだと思いますよ。 下山 従来のやり方とか技術にこだわり、固定観念にとらわれすぎている営農指導員が多いですね。その固定観念を打ち破らないとダメですね。 ◆農協職員の仕事は組合員のために何ができるかを提案すること 小田切 役割を明確化した営農担当職員の配置が非常に重要であり、また固定観念にとらわれない人の育成が必要だということがよくわかりました。それでは、そのために、農協のトップマネージメントは何をすべきですか。 熊谷 考え方を切り替えてもらうことです。1人で金融から営農まで精通するのは難しいと思いますね。農協トップが営農に弱いといわれるのは、営農経験者が少ないからではないかと思いますね。だから、トップに財務経理ができる人、そして金融、営農が分かる人がいて、それぞれの分野で改革する思想と意欲がないといけないですね。 下山 経営状況が悪い農協は、赤字を出したら組合員が離れると考えて、営農指導員や販売担当者を減らすとか安易な傾向になりやすいですね。いまのようにどの分野でも競争が厳しい時代には、常勤役員に経営のプロが必要ですね。 熊谷 時間をかけて組合員を説得して利用させる仕掛けづくりを徹底させるトップがいるかどうかですね。 小田切 お二人はともに、トップを説得し、営農改革のために農協を動かしてこられたわけですが、そのエネルギーの源はどこにあるのですか。 熊谷 農家になりきることです。自分も農業をしていますし、集落の集まりに出席します。農家組合と生産組合の事務局もやっています。その体験から、こんなものが欲しいな、こんなことをしてくれると嬉しいということを実践するのが基本ですね。 下山 農協職員の基本は、組合員のために何ができるかと考えて仕事をし、それで報酬を貰っている運動家だと思います。とてもいい仕事だし、楽しい仕事ですよ。いままでのような、閉鎖系の中で仕事をしていれば何も入ってこないんです。自分で積極的に情報を集め、提案をしていかなければいけないと考え、実行しています。 熊谷 地域の人たちの心と心が1つにならないと、集落営農は成り立たないし、日本の農業は守れないです。日本の文化や伝統は農業に根ざしたものですから、農業が守れなければ日本がダメになると思います。農協と役場の職員は誰のために働き、誰から手間を貰っているのかを・・・。 下山 地域の人たちは何をやっているのか見ていますよ。だからこんどの「農業振興計画」では、農協職員は地域活動に積極的に参加するとしています。 ◆リスクを怖れずまず一歩踏み出すこと 小田切 いままでのお話から、これから営農改革に取り組もうと考えている全国の営農担当者に対する、貴重なメッセージが出てきたように思います。要するに、組合員と目線を同じにして、自信を持って改革を、というメッセージですね。それ以外にはいかがですか。 下山 現状のままやればリスクがなく楽だと思いますが、そのままやっていけばすべてがダメになると思います。新しいことにはリスクがあるけれども、リスクを怖れずまず第1歩を踏み出し勇気をもつことです。 小田切 しかし、その勇気を支えるのは誰ですか。 熊谷 組合員ですよ。あなたの後ろには農家が、組合員がいるんですよ。 小田切 経済的にも、社会的にも、そして制度的にも、いまは変動期ですから、いま新しいことに取り組まなければ、取り残され、滅びることになる。そして、新しいことに取り組むエネルギーが組合員だということですね。 下山 組合員が雨が降ろうが、暑くても寒くても働いて、そのお金で給料を貰っているという原点を忘れてはいけない。協同組合運動ですから、意気に感じて信念をもって語らなければ、相手は心を動かさないですよ。そのためには、外に出て情報を集めることです。 ◆若い人は目標をもち、積極的に提案を 小田切 お二人がいまお話になったことは大原則としてよくわかります。しかし、おそらく若い職員とはギャップがあるのではないでしょうか。最後にそういう人たちに対してのメッセージをいただけますか。 下山 若い人には、自己主張がないですね。農家組合員にいわれるままに会議の資料をつくっているのでは奴隷と同じです。組合員のためであれば、間違っているときには間違っているということを指摘することも必要ですし、提案がなければいけないわけです。 小田切 それは重要ですね。組合員に目線を合わせるというのは、単に従属するのではなく、積極的に提案をする・・・。 熊谷 苦しみの体験が少ないから、企画力がないし、挑戦しないですね。私のところでは、昨年5月に営農指導員1人ひとりに研究テーマを決めさせ、それをこの1月に発表し、優秀な人は2泊3日で先進地への研修にいけるというのをやりましたが、そういう方法等で目標をもち、考える機会をつくることも大事ではないかと思いますね。 小田切 若い方へのメッセージまでいただきありがとうございます。
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