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特集:農業・農村に“新風を送る”JAをめざして |
改革の風 協同組合の存在ゆるがすような「改革論」に毅然たる姿勢を |
「食と農の再生プラン」が打ち出しているJA改革は小泉改革の一環だ。では小泉改革とは何か。座談会は単刀直入に本質論へと切り込んだ。小泉改革は民営化、規制緩和を貫こうとしている。それは新自由主義、ネオリベラルの発想を基本とする。弱肉強食、優勝劣敗を当然とするだけでなく、それを正義であり、善とする考え方だという。だから農協に対する独禁法の適用除外問題も、これから議論される。こうした中でJAグループの理論武装はどうか。座談会は次号にわたって、さらに論点を明確にしていった。 ◆小泉流改革は新自由主義 (中川行(社)農協協会会長のあいさつ) 中川 JA改革の議論たけなわの中で手厳しい農協批判が出ています。経済事業では農家と全農の間に農協と県連・県本部があって機能分化がいわれますが、その連携に血が通っているのかどうかが問われています。私が全農職員のころは月のうち半分は現場を駆け巡り、集落座談会などで勉強させていただきながら取り扱い品目を推進しました。今は現場との一体感に乏しいとの批判を聞きます。冒頭にそうした一例を挙げまして、先生方に系統事業の展開はどうあるべきかの議論を御願いし、展望を見出す方向や、また、もっと広く社会全体の閉塞感の打破などについてもご提言をいただければと思います。 梶井 このところ全国連の役員の方々とお話して受ける印象では、最近のJAのあり方に対する批判は必ずしも正確にJAの事業や活動を認識した上での批判や注文ではなさそうです。武部勤前農相の発言がその典型です。また「食と農の再生プラン」の工程表は農協改革を強く押し出し、農協型株式会社とか農協は一般企業と同じレベルで競争しろといった注文が改革の中身としていわれています。
三輪 小泉首相流の構造改革とは?という話になりますが、一言でいえば、それは新自由主義、ネオリベラルです。1980年前後に英国にサッチャー首相、米国にレーガン大統領、日本に中曽根首相が出て、新自由主義の政策が始まりました。 梶井 EUではもう新自由主義が後退していますね。 三輪 英国ではブレア政権が新自由主義では選挙に勝てないからと180度の方向転換をしましたが、日本では20年後れで郵便の民営化などを唱えているというR・P・ドーアさんの皮肉な寄稿を西日本新聞で、この前読みました。 ◆岐路に立つ協同組合運動
梶井 弱きをくじかれる代表格は農業ですか。 三輪 一番わかりやすいのは金融でしょう。農業は以前からやられているのでは? 太田原 学生時代に、協同組合は経済的弱者の自己防衛組織である、と習いましたが、新自由主義から見れば、そういう存在は邪魔者であって、弱者は自己防衛の努力などはしないで早く消えたほうがよいということになるわけですね。 梶井 だから独禁法適用除外なんかを農協法に書いてあるのはけしからんとなるわけです。 太田原 協同組合陣営としては大変なところにきています。やり方が良いとか悪いというのではなくて存在理由の否定ですからね。経済学者の中でも宇沢弘文先生なんかは弱肉強食でいくと、経済が持たないから弱者がどう市場に関与していくかということで協同組合が絶対に必要なんだと論じています。そっちのほうが経済学者の考え方としては主流だと思うのですが。 三輪 いや今の日本の経済学者にはとんでもない人がいますよ。私が学術会議のシンポジウムで、経済構造調整と農業というテーマで報告した時のことですが、司会をしていた筑波大学のある教授が「今の報告は弱者の立場の農業論だ。日本は経済大国だから強者の立場の農業論があってよいはずだ」といったので、あ然としたことがありました。 藤谷 私は農業がここまで追い詰められてきたのは情けない話だと思います。日本経済においては、食料自給率の向上なんていうのは資源の浪費であるから、そんな無駄なことはするなと、立論している経済学者がいます。その立論にもとづいて財界は動いており、また多くのマスコミの論調もそうだと思います。そうした立論をいかに打破していくかという理論的な重要課題があります。 梶井 独禁法の適用除外問題は弱きをくじくという新自由主義の本筋に沿って、そこに一番の問題点を見出した要求なんだという点、理論武装の意味からも、弱者としてはそこを十分に認識してかからなければいけませんね。 三輪 農協だけでなく、80年代後半には適用除外問題で生協たたきもありました。 梶井 さらにいえば独禁法という法律のあることがおかしいということになります。 三輪 そうです。それに協同組合への適用除外は日本だけでなく世界中がそうです。各国の新自由主義は、それに異を唱えているわけです。 ◆倫理的価値を認識すべき
梶井 藤谷さんは協同組合セクターとして理論的に立ち上がるべき時なのに失点ばかり重ねているといわれましたが、どういう失点が一番の問題ですか。 藤谷 そうですねえ。私は生協の理事もしていますが、見比べてみて、JA陣営がこんな事態に陥っている最大の問題点は経営者問題だと思います。この問題については農水省も、それは組織内部の問題だからと何の指導も助言もしてこなかったのですよ。経営者としての、特に常勤役員としての資格要件が厳しく問われなかったことが対応の遅れや問題を生起させた大きな原因だと私は考えています。 太田原 しかし経営者問題は大企業も含めて今あらゆるところに出ておりますので、私は農協の弱点が、ほかと比べてとりわけ、この問題にあるとは考えていないのです。もちろん弱点であることは、おっしゃる通りなんですが。やはり一番の問題は運動方針だろうと思います。 藤谷 私が経営者問題だといったのは、そういうJA運動の戦略、方針をつくる責任者が、その能力を必ずしも備えていなかったということです。それらはJA段階から議論すべきことで、そのJA経営者たちが役員として県連、全国連へと上がってくるわけですから、その方針を誰が、どういうリーダーシップをとりながら、組合員の総意を結集しつつ、どうまとめどう方向付けていくべきなのかその衝に当たる責任者たちが弱体だったということを私は指摘せざるを得ないのですよ。 太田原 私は北海道で拓銀の破たんを見ていますが、銀行の経営者はもっとひどかったですよ。日本のトップはだいたいそうだったんではないでしょうか。政治家も含めて。残念ながら。だから農協だけがいわれる筋合いはないと思うのですよ。 藤谷 農協の経営者問題はより深刻だったといっているのです。 ◆協同組合原則は自治、自立 三輪 農協の自己批判よりもその前に役所として、いって良いことと悪いことをちょっと議論する必要があると思います。役所は農協に余計なお節介をしていると私は思います。 藤谷 これまでは、役所は農協を突き放していたんですよ。 三輪 再生プランは、これは役所のやることかといいたい。 藤谷 だから、なんで今、こんなものを出してきたのか、さっぱりわかりません。 三輪 役所というのは何をするところか。民主主義からいって、再生プランは官主主義ですよ。市場原理主義じゃない。 三輪 農協改革を議論する前に再生プランとは何であるかに切り込まないと、問題の切り口がはっきりしないと思います。 大田原 市場原理主義と官主主義。そこが今、農水省の置かれたおかしな立場ですね。 三輪 ビジョンを描き、先頭に立って国民を誘導していこうという姿勢です。あなたは社会主義者かと問いたくなる・・・。 太田原 売れる商品企画や販売戦略などの「高度なノウハウを提供する」取り組み云々という部分もありますが、そんなノウハウがあるのなら、今すぐ提供できるように誘導してほしいですね。不思議なプランです。 三輪 国際協同組合同盟(ICA)には、自治と自立という協同組合原則があって、役所から余計なお節介をされたら、それをはね返さなければいけませんよ、となっています。役所はそういうことを知らないから、お節介するんだろうけど、じゃあJAグループの中枢部としては何をしているんだという話になってきます。 ◆農政の動き 十分に検討を 梶井 農協の歴史からいいますと、戦前に産業組合の体制ががっちり整うのは、1930年代の不況対策の中でしたか。経済更生運動の中でね。部落実行組合を下部組織にするなどして産業組合が全農民的な組織になることこそが経済更生の決め手だということでした。 三輪 あのころは役所が出てきて現場で指揮をしてね。 梶井 ええ、お役所が全面的にやりました。それが農業会に引き継がれましてね。ある意味でいうと、農政の別働隊になっちゃった。それを戦後の農協も、食管法の問題もあったけど、さらに引き継いだ。その体質が残っているんですよ。 三輪 それにしても異常だってことをいいたい。90年代以後、農協法改正が3回ありました。92年に代表理事制、96年には経営管理委員会制度の導入、これは両方ともトップマネージメント対策です。それから昨年の農協2法改正です。 藤谷 そのねらいなり、背景が何か、それは私も知りたいところです。 三輪 結局、より強い新自由主義者へのごますりですよ。 太田原 昔の産業組合時代は産業組合運動対反産運動の対立があって、政府は産業組合をバックアップしたんですね。今の政権は反産運動を支援している形に見えますよ。 三輪 弱い奴は早く死ね、だから、そういう形ですね。 ◆農協法改正の問題点にも目を
梶井 92年の農協法改正の評価はどうですか。 三輪 理事会体制のてこ入れで、これはポイントをついたものだと思います。それから96年は住専問題で、何かやらなきゃいけないと経営管理委員会を出してきた。これは余計なことだとも思えますが、まあ、しかし許せる程度の動きです。 藤谷 昨年の農協2法改正とそれを用意した報告についてはどうですか。 三輪 これはね。実際に法律改正したのは、ごく一部です。ご承知のように、農協の目的について最初に営農指導を持ってくるとかね。そんなつまらないことですよ。 藤谷 これは住専問題の後遺症ですよ。 三輪 いや、住専問題を超えたところの話になっています。 藤谷 金融庁は農水省に対して、JA金融を所管していて大丈夫なのか、過去に住専問題があったけど、今はますます全体として金融情勢が難しくなっている中で、これまで通り信用事業を所管していて大丈夫かと問いかけられたと思うのです。 三輪 ああ、後遺症というのはそういう意味ですか。 梶井 「農協改革の報告」をまとめたのは岸さんですね。 三輪 検討会の座長だった岸さんに聞いたところ、まとめたのは事務局(農水省)であり、自分たちがやったのは文言を訂正しただけです、といっていました。 梶井 さっき藤谷さんは、運動体である協同組合は、いかなる倫理的価値観をもってやっていくのかと提起されました。それに関連していえば、前の改正農協法から組合員教育という言葉が消えました。 |