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特集:農業・農村に“新風を送る”JAをめざして |
改革の風 協同組合の存在ゆるがすような「改革論」に毅然たる姿勢を |
「食と農の再生プラン」を分析した前号の連載第一回に続いて今回は、再生プランから欠落している価格・所得政策の問題が一つの論点となった。セーフティネットとして所得政策が示されないと農業再生の方向づけが議論できないではないかという問題提起から、米国の農業法にも話が及んだ。JA改革の方向にからんでは米国の「新世代農協」が話題となった。付加価値追求で新しい市場をつくっているという。しかし、そうした流れの中でEUには国際協同組合同盟(ICA)原則を否定するエコノミストもいるから、新自由主義の浸透を警戒する必要があるとの指摘もあった。
◆「再生」のエネルギーは現場に
(改正農協法から組合員への「教育」という文言が消えた問題について、前号に続く)。 藤谷 組合員への「教育」は重要な協同組合原則ですよ。 梶井 ところが、農協法改正を重ねた挙句、「教育」が消えて「指導」に変わってしまいました。その時から日本の農協は国際的な協同組合運動の原則から外れた面を持つようになってしまったのではなかろうかという気さえしているんです(食品偽装問題に関連して)。 藤谷 JA全中の会長は国際協同組合同盟(ICA)の理事なんですよ。そこに加入している日本のJA組織に関する法律が原則を無視するのは大問題です。 梶井 協同組合学会なんかは、改正農協法案は国際的な協同組合運動の原則に反するとして、もっと問題にしたほうがよかったんじゃないか。 藤谷 第22回JA全国大会の議案は、農協2法改正を準備した「農協改革の方向」という検討会報告の単なる引き写しです。第21回大会で採択した「JA綱領」が一言も出てこなかったことも不思議に思いました。私は、その辺から全中がおかしくなってきたと思うんです。 三輪 検討会を設ける前に、農水省は協同組合学会の何人かから個別に意見を求めたようです。そのうちの一人は、農協の議決権について一人一票制の是非を問われたと、私に語っていました。その方は「一人一票制をなくしたら、協同組合と認められなくなり、独禁法適用除外を受けられなくなると答えておいた」とのことです。 梶井 ちょっとうがち過ぎじゃない。なんぼなんでも、そこまでは・・・・。 藤谷 JAバンクシステムづくりは、ほんとに正しいシステムづくりだったのかどうかが問われますね。JAの常勤役員がこういって慨嘆していました。「全中にいわれるのならわかるけど、なぜ農林中金に信用事業以外の、経済事業のことまで、どうのこうのといわれなければならないのか」と。「指導」かどうか知りませんが、JAの現場にはちょっと違和感があるのではないでしょうか。 三輪 セーフティネットは官のやる仕事ですよ。役所がやるべきことをやらないで農協に代行させている。しかし、もし事故が起こったら官がやられます。 ◆食料自給率向上と政策の整合性は?
藤谷 しかし、そうしたリーダーシップをとる能力をもった責任者がほとんどいないじゃありませんか。 三輪 責任者の問題ではなくて、個々の農協では、役職員がそれぞれ自分でものを考えて動くという自立的な人間になっていないということが問題なんです。どうやって自立的な役職員をつくるかが勝負です。 藤谷 だから、そういう農協の組織なり職場の空気や風土をつくり出していくのは誰なのかということですよ。 三輪 やらなければつぶれる。それで、つぶれたら仕方がない。自分でよく考えなさい。余計な手を打たないほうがいい。甘えは許されません。そういう状況が来ています。 梶井 「食と農の再生プラン工程表」は農業の方向づけをしていません。もっぱら食の安全と安心に傾斜してしまって、消費者に軸足を移し過ぎちゃったきらいがあります。方向は出せないのではなくて、出そうとしないのだと思います。 三輪 全体として産業構造の議論も、ビジョンもなくて、また東アジアとの関係も考えようとしていませんね。 梶井 方向づけに関していうなら、基本法にもとづいて基本計画を作り、40%の自給率を45%に引き上げることを農政の基本目標にしているのですから、それと今とっている農業政策が整合性を持っているのかどうかを役所は検証すべきです。そういうことをやろうとしていないところが問題です。 三輪 だから再生プランを出さなきゃならないところに落ち込んだわけですよ。そこまで落ち込んだ責任をどうするのかと問いたい。自分たちの責任を抜きにして再生プランが出てきているのですよ。 梶井 今年の農業白書の冒頭部分は、そこを象徴していますね。あれだけ牛海綿状脳症(BSE)で騒ぎを起こしながら、役所の自己批判はひとこともありません。 三輪 昨年の「骨太」方針なんかには、ちらりと自給率という言葉が出てきていましたが、それにしても45%くらいの数値で自給率目標を立てましたなんてのは笑止ですよ。 藤谷 今のままでいったら45%といえども絶対に実現しませんよ。ずっと40%できていますからね。 三輪 下がりますよ。WTO農業交渉への先の米国提案で押し切られてごらんなさい。あっという間に自給率目標なんて瓦解しますよ。 ◆「再生」をいうならば価格・所得政策を 梶井 さて、ここまでの話を前提にして、次に農協改革は今、何をなすべきかというテーマに移っていきたいと思います。 三輪 再生プラン工程表の中身をめぐって、農協が外部の経営コンサルタントを雇えば2分の1の補助をするとか、また経営体としての評価システムをつくるとかいった話がちらほら出ていますね。こんなのはとんでもないよ。 太田原 その前にちょっと。政府の文書に書いてあることというのは、基本法の時もそうですが、こういうことができればいいなと思うことがたくさん書いてあります。 梶井 基本的にいえば今の農政の考え方は、これまで価格所得政策をやってきたから日本農業が弱体化しちゃったんだ、だから、むしろ、それはやめてしまって構造政策一本でいって、効率的かつ安定的な経営体ができれば、どんな価格でも対応できるようになる、というのが基本ですよ。 太田原 いや、その基本姿勢がおかしいのであって、そこを一番いうべきではないでしょうか。いわないから結局、現場が工夫すればよい、細かいことを、お節介的にたくさん書くということになっています。 梶井 一番中心的に議論すべき価格所得政策がない・・・・。 太田原 一貫して、そこを逃げているわけですよ。この前、「農業協同組合新聞」に載っていた梶井先生と経団連常務の対談によりますと、経団連の方は徹底して自由主義的でしたけど、しかし農業についてはセーフティネットとしての所得政策が必要だと述べていました。 梶井 工程表なんかでいっている経営所得政策の対象は農業者一般ではなく、40万経営体とかに絞ってセーフティネットを張るといった構想です。 太田原 それでよいのかという議論が先行すべきですよ。私は認定農業者だけでもまずスタートしたらよいと思います。北海道では中山間地への直接支払いを草地酪農にまで広げてもらい、上限の100万円をもらっている酪農家が随分増えています。家計費をそれでまかないながら、したたかな事業展開をしていくと思います。道の酪農を支えている直接支払いの効果は大きいですよ。 梶井 私は価格政策を抜きにして所得政策を語れるのかどうかが一つ問題だと思います。不足払いはどちらともいえます。今度の米国の農業法なんかは価格は市場に任せるとしてもターゲットプライスを決めておくという点で価格政策であり、その上で市場価格との差額を補てんしています。しかし所得の不足払いですから所得政策のカテゴリーに入る。今は両者の区別がなくなってきているので、私は「価格・所得政策」といったほうがよいと思うのです。 ◆農政活動を見直し国民的合意形成を
太田原 日本は、そのどちらもないのです。 梶井 稲作経営安定対策はやめるということですが、やるのだったら稲経みたいな形でコメ生産を安定させるような価格・所得政策をまず実施すべきだと思います。 藤谷 結局ね。われわれ専門家からみたら当たり前の議論が国民的な議論になってないわけですよ。私どもは農政が迷走状態だといっていますが、そんな状況になっているのは、農業・農政のあり方に関して、EUのようながっちりした国民的合意がないからです。 梶井 建前としては与党対策中心とはいわないでしょう? 藤谷 いやいや、全国組織の職員の方から、与党中心で何が悪い?とはっきりいわれたのでびっくりしたんですよ。しかし、農業・農村を大事にし、自給率も上げなくてはいけないという思いは広く国民の間にあるわけですから、各層のそうしたエネルギーをどう掘り起こし、結集していくか、みんなで知恵を出し合えば必ず国民合意の可能性は出てくると思います。 太田原 確かに地域では展望のあるJAの活動が結構あるんですよ。そういうJAの共通点を調べて、そこにみえてくる方向と霞ヶ関や大手町とのずれをえぐり出す必要があります。単協レベルの視点が重要です。 三輪 政府の経済財政諮問会議の民間委員は農協を見たことがないと思いますね。マスコミの流しているイメージだけで議論しているんです。何もしていないように見える農協だって地域の失業救済はしています。 太田原 生協が量販店の指導を受けてつぶれるようなもんですね。 三輪 農協は職員が先頭に立つのじゃなくて、やはり組合員が集まって、それを基礎にやっているところは、福祉でもファーマーズマーケットでも地域密着型で結構いい活動があるわけです。再生プランの構造改革はそれを壊しにかかっていると私は見ています。 藤谷 そうした農政の対応が出てきたり、あるいは価格・所得政策の確立が先送りされている状況を打開するには、やはり国民的合意を形成していく地道な取り組み以外にはないと思います。対外広報活動も大切ですね。 三輪 JAグループは再生プランにどう対応していくのか。相変わらずの三位一体論ではどうにもならないというのがコメ政策です。 ◆「新世代農協」の動きに注目
太田原 今度、北海道から全中会長が出たので私は期待したいのです。 三輪 しかし、ちょっと用心したほうがよいと思いますよ。EU15ヶ国の農協の紹介をした本に新しい農協についての発想法が出ていますが、そこには従来のICA型の農協はだめだとしてICA原則を否定する主張があります。新古典派エコノミストが書いたから市場競争原理で裁断しているわけです。 太田原 私もその点が気になって紹介してくれた学者や農業者に聞きましたが、現場の人たちは新自由主義とかには関心がないんですね。 梶井 私は最近、韓国へ行きましたが、消費者協同組合という名称の農協がありました。これは農民が生産資材を共同購入する購買組合としてスタートしたからです。しかし、その後は組合員の作った農産物も共同で周辺の消費者に販売するようになりました。さらに有機農産物を志向する消費者と話し合っているうちに、消費者をも組合に組織してしまったということです。私はこれを、ある意味では協同組合の原点を教えてくれるような運動だと思いました。 藤谷 私は今、生協の理事もしていますが、活動的な組合員はよく勉強していますよ。産地との交流にも積極的で、農家の思いや悩みもよく知っています。非常にアクティブな消費者層がいるわけですよ。それから生協は安全安心を大きなスローガンにしていますから、そういう食料を安定的に供給してくれる基本はやはり国内農業であるという熱い思いを抱いています。 ◆盛り上がるNGOの運動 梶井 最後にまた新自由主義の話になりましたが、新自由主義の発想は強きを助け、弱きをくじくということです。しかし国民一般は弱者です。そこに着目するなら国民合意の形成は、それほど難しくないといえるかもしれません。 三輪 世界各地でNGOの新自由主義に対抗する運動が盛り上がっています。ウルグアイラウンドの時とは全く違う情勢が実現しているのです。
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