農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAグループ 水田農業ビジョン実践強化全国運動を展開

集落からの積み上げで
改革実践のエネルギーを出そう


 4月からの新たな米政策に向けて、全国各地で「地域水田農業ビジョン」づくりが進められいる。JAグループでは今回の米政策改革を地域水田農業の「改革のチャンス」と捉え、行政と連携して、近く「水田農業ビジョン実践強化全国運動」に取り組む。
 とくに、真の改革を実現するには、現地レポートにあるJAいわて中央JAいわて花巻の実践のように「集落段階からの主体的な取り組み」が不可欠だとして強力に運動を展開する。
 ビジョン策定と実践の課題をJA全中水田・営農ビジョン対策室に聞いた。

◆地域の特徴をふまえ創意工夫と知恵を

 地域水田農業ビジョンは「売れる米」づくりや地域の農地利用のあり方、担い手の明確化と育成戦略など、将来の水田農業の姿とその実現のための計画を描くもの。つまり、「誰が」「どこで」「何を」「どのようにつくるか」を地域で考えたものがビジョンとなる。
 米政策改革で新たに決まった産地づくり交付金はこのビジョン策定が交付要件となっていることから3月中に全国ほぼすべての地域で策定される見込みとなっている。
 しかし、「売れる米づくり」や「担い手の明確化」といっても地域の条件によってその姿はさまざまなため、あるビジョンをモデルとしてまねてもその地域にはふさわしくないこともある。
 したがって、今回のビジョン策定では「多様な地域資源を見つめ直し、地域の創意工夫ある取り組みを進める」ことが大切になる。

◆「集落の水田は集落で守る」時代へ

 さらに重要なことは策定したビジョンを絵に描いた餅で終わらせず、その実践を通じて真の地域水田農業の改革につなげることである。
 そのためには当事者の農家自らが実践できるビジョンを策定しなければならないことから、集落での徹底した話し合いからビジョンを積み上げることが大切になる。つまり、行政やJAの農業振興計画などの焼き直し版としてビジョンを提示するのではなく、「集落の水田は集落で守る」という意識のもとに集落で知恵とアイデアを出すことが求められているのである。

◆水田営農実践組合は新たな協同活動の場

 JAグループでは、集落を基礎としたビジョンづくりと実践の場を「水田営農実践組合」と位置づけている。今後、全国の集落でその組織化を推進する運動を展開する。
 水田農業は農地の面的なまとまりがなければ効率化が難しい。一方、水田農業では水路の維持管理など人手を必要とする作業が不可欠。こうしたなかで、担い手を明確化し、農地の利用集積を図り、さらに団地化・ブロックローテーションによる転作対応をしていくには、集落の合意形成がなければ実現できない。
 水田営農実践組合とは、このように集落で話し合って、担い手や農地利用調整、機械や施設の利用などについて合意形成する場と位置づけている。いわば地権者の協議の場である。
 つまり、実践組合といっても、必ずしも実際に農業経営や農作業を行う組織ではなく、集落のこれからの水田農業についての合意形成を行うことに重点がある。したがって、すでに担い手となっている大規模経営農家もこの実践組合に参加してもらう必要がある。実践組合はいわば21世紀の新たな地域協同活動の場づくりでもあると考えるべきであろう。
 JAいわて中央やJAいわて花巻の取り組みはまさに集落ごとの農家組合を実践組合と位置づけたもの。徹底した話し合いのなかで個人の農家を担い手として明確化したり、あるいは集落型経営体を組織し生産法人化をめざすなどの方向をそれぞれの集落が選択している。

◆「集落の明日を語る会」 元気を出す一歩に

 実践組合づくりのためにたとえば「集落の明日を語る会」を開くことも必要だろう。
 語る会では、まず集落のヒト・モノ・カネについての「健康診断」を実施する。どのような人たちがどう農業に関わっているのか、農地の利用や機械の所有、利用の状況がどうなっているのか、農業収入やコストはどうなっているのか、といった点について現状分析を行う。そのためには集落の一人ひとりを対象にアンケートを実施し、現状と将来への意向をつかむことも大切になる。
 結果を集計して集落の5年後を予想し、農地一筆ごとにそのデータを落とせば将来担い手がいる農地とそうでない農地に色分けができ、具体的な姿に基づいて話し合いをすることができる。
 すなわち、健康診断によってきちんとした現状認識をもつことが実践組合づくりの一歩であり、自ら将来像を描く取り組みにつながるといえる。

◆米改革はJAの「足元」を固める課題

 JAグループは第23回JA全国大会で「JAグループ米改革戦略」を決議し、(1)担い手育成による水田農業の構造改革、(2)販売を起点とした米事業方式への転換、(3)需給安定に向けた協同の取り組み、を核とする自らの改革を実践することとした。
 地域水田農業ビジョンづくりは、これらJAグループの米改革の課題への取り組みであると同時に、「JAにとっての組織・経営基盤をどうするのか」という問題であることも重要な点だ。
 レポートにあるようにこの2つのJAでは集落の農家組合ごとに担当職員を決めて、今回の一連の米政策改革について何度も組合員に説明をしてビジョンづくりを支援してきた。
 具体的なビジョンづくりでは営農担当職員が関わるが、集落への情報提供、橋渡し役としての担当職員は信用や共済部門の職員も動員している。これはビジョンづくりが、JAの組織・経営基盤づくりでもあるという認識に立った取り組みであり、今回の改革を地域でJAが求心力を発揮する「チャンス」だと役職員あげて捉えていることを示す事例だ。
 また、集落の話し合いのなかで「誰が」「どこで」「何を」「どのように作るか」を描いていく取り組みに対応し、JAは営農・販売企画力の一層の向上と、地域資源のまとまりある活用のための地域農業マネジメント力をつけることが重要だ。
 水田農業ビジョン実践強化全国運動を通じて「農家・集落・地域が自ら考え実践すること」、「制度依存から自分たちで考える水田営農への意識改革」、「営農における協同活動の場づくり」の実現をすべきだと考えている。 

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  ・JAいわて中央  ・JAいわて花巻

(2004.3.11)


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